03-01-05 王都での稽古と学ぶ
取り敢えず俺達の元々の目的は道場の稽古を見学する事だったので早速皆で見に行ってみた。
道場の中は結構広くて今は大勢の門下生っぽい人たちが揃って剣の素振りをしているが全然他の人の邪魔に成らない位だ。
見れば大勢の門下生の中にリーナも混じって剣を振っている。
やっぱり道場主の娘ってのはそれなりに強くなければ示しがつかないもんなのかね。ご苦労様です。
でも見た感じ俺の腹案に沿うような状況だな。
後は強さがどの程度かって事くらいだけどどうだろうな。
皆が素振りを終えて模擬戦なんかを始めるとガッシュが混ざりたいのかうずうずしているのが伝わってきた。
オイオイ今日は見るだけじゃ無いのか? お前体を温める為の素振りとかしてないだろ? 怪我するぞ。
ガッシュがそわそわしているのを見とがめたマッシュさんがそんなにやりたければまず体を温めろと言って来た。
ガッシュは喜び勇んで道場の隅で素振りをやり始めた。
俺はマッシュさんに「良いんですか? 」と聞いたがあんなに落ち着きが無い奴が傍にいるとよけいな力が入って逆に怪我をする奴が増えるとのことだ。すんませんね、落ち着きのない馬鹿で。
それに甥っ子の実力も見てみたいのも有るそうだ。
村ではそれなりな強さが王都でどこまで通用するのか俺も興味があるといえばあるし。
まあガッシュには頑張ってもらって村の威厳を少しでも示して貰いたい。
あ、でも伸びた鼻っ柱を折って貰いに来たんだったか。悩ましい所だね。
ガッシュも用意が済んだのかようやく皆に交じって模擬戦を始めた。
うん。結構通用するもんだね。まあ剣士のスキル持ちがそんなに弱ければそれはそれで困るか。
ああ、そういえばここの人達って全員がスキルを持ってるのか?
『はい。マスター。王都に初めから住んでいる人は持ってない人も大勢いますがかなりの人が地方出身なのでまるでいないという訳ではありません。』
そうだよな。なら持ってない人にその事に対する不満は無いのか?
『はい。王都には教会の信者が大勢いてその人達は教義に反するスキルを持つことに忌避感を持っているようです。
その様な事にこだわらずスキルが欲しい人は地方の村とかに旅行とか理由を付けておもむきそこでスキルを貰うようです。
でも貰えるスキルが全然役に立たないと余り評判は良くないみたいです。』
まあそうだよな。
只でさえ村の奴でも狙ったスキルを貰うのに苦心してるのにそんな準備もせずにいきなり行って欲しいスキルが得られる訳がないよな。
その辺の事は総合ネットワークではどう思っているんだ?
『はい。こちらとしましては行政福祉サービスの一環として行っている物ですので住民の方々で上手く運用していただけるのが一番の幸せです。
それを要らないとおっしゃるのであればそれは悲しいですが受け止めるしかありません。』
社会の為引いては総合ネットワークの為に全員になにがなんでも与えようというつもりは無いんだな。
『はい。それは傲慢というものです。』
そうか。
などとヘルと話してる間に稽古は佳境を迎え最後に師範代クラスの模擬戦が中央で行われるようだ。
おっ、ガッシュの奴もその中に入ってるみたいだ。叔父さんに実力を認められたか?
うん? リーナも入ってるな。余り注目してなかったがそんなに強そうには見えなかったとおもうが。
ヘルは見てたよな。どの位だ?
『はい。ちゃんと見てましたよ。強さ的にはガッシュさんといい勝負に成るんじゃないですか? 』
ほう、そんなにか。こりゃホントに俺の腹案が炸裂するかもしれんな。あとが楽しみだ。
『大体その腹案ってのも分かりましたけど良いんですか? サーラさんに確認取らなくて。』
うん? そんなのは特にいらんだろ?
『まあいいですけどね。後で困っても知りませんよ。』
なんに困るんだよ? サーラには特に関係ないだろ?
『もう良いです。それより模擬戦に全集中して下さい。』
お、おう。なんだよヘルは一体。
まあ今は面白い模擬戦の時間だ。そっちに注目するか。
模擬戦は師範代達のが終わりいよいよガッシュの番になる所だった。
進み出るガッシュの相手はどんな奴だとそっちを見るとやっぱりリーナだった。
マッシュさんも自分の娘と兄の息子でどっちが強くなったか知りたいという思いが有ったのだろう。
まあ年齢的にも釣り合っているし良い勝負に期待したいもんだ。
そんなのんびりした事を考えていられたのもそこまでだった。
始めの合図がされると今まで大人しい感じで稽古していたリーナが急に大声で奇声を発した。
「きいぃぃぃぇえおおおおおおっっ!! 」
うわっ、なんだ一体? 一体何が起こった? リーナの気が狂ったのか?
動きも今までの基本に忠実といった感じじゃなく大きく大雑把に動いて力で押していくようなものに変わった。
なんだこれ?
もしかして気合を入れると人格が変わるとかいうのじゃないだろうな?
オイオイ困るぞ。こんなの聞いてないよ? この残念美人どうするよ。ヘルさん、どうしよう?
『知りません。マスターの好きにして下さい。プン! 』
俺の困惑をしり目に戦っている二人は心底楽しそうだった。
君たちは気楽でいいね!
+ + + + +
稽古全般が終わるとクールダウンを兼ねて皆で反省会みたいのをやるようだ。
ガッシュとリーナを除いて俺達はマッシュさんの家に移動した。
そこでマッシュさんに俺の考えた腹案を話してみた。
最初は黙って聞いていたが本人に聞いてやる気が有るのならそれでいいと言ってくれた。
俺のいい加減な案で良いのかと聞いたら別に悪くない案だと褒めてくれた。
マッシュさんも似たような事を考えていたが預けられるちょうどいい人が見つからなかったので渡りに船だと言っていた。
俺達の方がよっぽど若造で頼りに成らなさそうなんだがいいのかね。
俺達とマッシュさんで話を詰めていると脳筋と残念美人が揃って戻って来た。
そこで確認としてリーナに付きまとわれて迷惑しているのかと聞いてみた。
彼女はそこまで嫌じゃないが周りに迷惑を掛けるのが我慢ならないようだ。
それならと俺は取って置きの腹案を披露した。
つまり俺達と一緒に外の世界を回らないかと誘ってみた。
彼女はマッシュさんの顔を見て良いのかと聞いて来た。
マッシュさんは俺達が三人だけで世界を回るのにお前はいけないのかと逆に聞いて来た。
リーナは学園にも通っているしそんな好き勝手しても良いのかと思っていたらしい。
だから行けるのなら一緒に付いていきたいと言っていた。
どうやら話はまとまりそうだ。
後はいつ行くかと付きまとっていた奴らをどうするかだ。
俺としては知らない内にいなくなっていたと言うのがベストだと思うんだがどうするか。
変に構うと出発が伸びるかもしれないしなぁ。
トラブルはお呼びじゃないのよねぇ。