03-01-04 王都の道場にて
皆でぞろぞろと俺を先頭にして歩き近くの道場とやらに行く。まるで昔のRPGみたいだ。うん? 昔のRPGってなんだ?
俺が変な記憶に頭を傾げているともう道場に着いていた。ホントに近かった。五分も歩いてない。
こんな近くにそんな達人がいたなんてこれも灯台下暗しっていうのかね?
あっ、そうか。そんな人が近くにいるからここら辺の治安が良くて宿屋も総合ネットワークに推薦されるほどで奴らも強引な手段を取ってこれなかったのか。凄く納得した。
でもヘルさんや、そういう周辺情報はあらかじめ教えて置いて欲しいんじゃがのう。
『あらあら、お爺さん。もうボケて来たのかしらねぇ。そういうのは段々分かって来るのが面白いとか言ってたじゃありませんか。』
そんな事言ったかのう? 最近の事は良く覚えておらんのう。
『そうですよ。しっかりして下さいよ。お爺さんや。』
ヘルとお爺さんムーブで遊んでいると道場の扉が開いて体の細いおっさんが出て来た。姿勢がピシッとしてるからこの人がこの道場の館長なのかね。
「うん? 誰か来たと思ったらいつもの連中じゃ無いのか。あんたら見ない顔だがここに何か用かい? 」
あっ?! やっぱり!!
ヘル、謀ったな! 謀ったな! ヘル!!
『ん~~? なんの事かな~~? 分からんなぁ~。』
しらばっくれるんじゃ無いよ! ネタは上がってるんだ!
「あっ、すいません。この道場の人ですか? 俺達出来れば見学とかしたいんすけど良いっすか? 」
これどう見ても奴らのフラグが立ってるじゃないか!
「おう、良いぞ。と言っても今は誰も来ていないから練習はまだやって無いけどな。」
『クククッ、今頃気づいたか。だが、奴のネームプレートをよぉぉく見てみろ! 』
なんだと?! あっ?! くそっ、何時からだ! 何時から仕組まれていたんだ!
「あっ、じゃあ道場の中を取り敢えず見せてくれないっすか? ……あれっ? 」
『フフン、最初からよ。お前が家を出る前から決まっていたのだよ。あーっはっはっはっはっは!! 』
そ、そんな前からかよ。一体俺は何時から奴の掌の上で遊ばされて来たんだ?!
『奴の方が一枚上手だっただけの事よ。あーっはっはっはっはっは!! 』
「どっかで見た覚えが有るような? どこだったかな? 」
「うん? その顔どこか面影が有るような? ……もしかしてお前ガッシュか? 」
「えっ、そうだけど。なんで分かったんすか? 」
「俺だよ。マッシュだよ。お前の父さんの弟の。覚えてないか? 」
「えっ? あっ! そうだ! 思い出したよ! 叔父さんじゃん! 」
「おう。久しぶりだな。十年ぶりか? 良く覚えてたな。元気にやってたか? 」
「うん! 久しぶり。全然元気だよ。そりゃ覚えてるよ。俺の目標の人だからな。ここが叔父さんの道場なの?」
「ああ、そうさ。結構良いだろう。」
…………。
…………。
…………。
まあ、今見たように知り合いの道場だった訳なんだがなんで初めから言わないんだよ。
『その方が面白いじゃないですか。』
あ、そう。
+ + + + +
あの後俺達は立ち話も何なのでと道場の隣の家に招かれ色々話を伺っている最中だ。
マッシュさんは昔は俺の親父のバズと義勇兵の纏め役をしてるオルドと三人でつるんで色々やってたらしい。
結構有名になったと言ってるがホントかねぇ?
そんなこんなでバズが何でかママンと結婚する事になって村に帰る事になった時マッシュさんは道場を立ち上げるっていう夢を実現する為に王都に残る事になった。
実家はガッシュの父親が継ぐしね。
そしてようやく道場を立ち上げたのが十年前だそうだ。
道場を立ち上げた事を実家やバズ達に報告しに村に帰った時にガッシュとは始めて会ったらしい。
その時の叔父さんが凄くカッコ良かったらしくそれに憧れてガッシュは剣の訓練をする様になったという。
ちなみにマッシュさんのスキルは剣術だそうだ。そりゃ憧れるわ。
で、ついに話は俺達が道場に来た理由に及んだ。
変な連中に付きまとわれていて今度そいつらが突っ掛かってきたらボコボコにしてやるつもりでその肩慣らしで稽古できたらと伺ったと。
で、ヘル情報だとそいつらがこの道場にもちょっかいを出しているらしい。
まったく迷惑な奴らだよな。ちょっかいを出すしか出来んのか。
俺達の方は多分杖に関してだと思うがマッシュさんの方は何に対してちょっかいを出されているのか。
聞いてみるとなんと娘さんに対してちょっかいを出されているそうだ。
えっ、定番の土地の権利証明書や誰かの財産関係とかじゃないの?
ヘルもこの事知ってたな。そりゃのんびり対応にもなるわな。
そんな事を話していたら出掛けていたその娘さんが帰ってきた。
「ただいまー。父さん道場はどうしたのー? 門下生の人達開くのを待ってるよー。あっ、お客さんが来てるの? 」
「おう、リーナ。こっちに来い。」
「なに? あっ、こんにちは。娘のミシュリーナです。」
そこにはすんごい美人がいた。
歳はまだ俺達くらいだが出るとこは出ていて引っ込む所はちゃんと引っ込んでいる。
顔も小さめで髪は長く金髪でつやつやしている。
目はぱっちり口は小さく鼻は高く肌もプルプル声も小鳥が囁くようであらゆる全てが整っている。
マジか。こんな人がこの世に本当にいるのか。
サーラも田舎基準で言えば美人の範疇に入ると思うがこの人は次元が違う。
俺達三人は皆揃って口を開けっ放しにして彼女を凝視していた。
マッシュさんの咳払いで俺達は正気を取り戻しようやく挨拶を返した。
成程ねぇ、そりゃちょっかいを出す訳だわ。出さん方がおかしいレベルだわ、これは。
マッシュさんは道場を開ける為に出て行ったので俺達は自己紹介をしておいた。
彼女ミシュリーナ、以下リーナは俺達と同じ年の十五歳だそうだ。王都には学園があってそこに通っているらしい。
今学園から帰って来た所だそうだ。
うーん。これどうするよ。ホント。
これちょっかいを出すのは当たり前じゃね? それに文句を付けるのって無理じゃね?
おい、どうするよ。ヘルさんよ。
なにか名案でも有るのか?
『名案は絶対あります! 皆気が付いてないだけでそこに有るんです! 』
お、おう。急にどうした? もしかして名案が浮かばないとかか?
『違うんです。これはそんなのじゃありません。ええ、絶対に違います。』
何だか変に慌てている様だが大丈夫か? そんなに気にするな。皆でゆっくり考えていこう。な?
『はあ。はい、分かりました。』
でもホント、どうするかなぁ。一応案が有るっちゃ有るんだがなぁ。結構無茶っぽいしなぁ。マッシュさんに後で聞いてみよう。
まあそれまでは棚上げだ。ここに来た元々の用の稽古をお願いしてみるか。
道場に行ってみると案外俺の案は結構イケてるんじゃないかと思えた。




