プロローグ 03-18 転換点
次の日、減った腹をぐうぐう鳴らしながら目を覚ますとヘルがおかしな事を言ってきた。
『マスター。管理者のランクアップおめでとうございます。』
はあ? 何を言ってやがりますかね、このヘルは?
『マスターの電脳空間内に常駐していなかったのですぐに分からなかったのですがパンロック氏の記憶が融合した為にどうやら管理者ランクも融合されたようです。
したがってマスターのランクも上がり、ランクはAになりました。』
ふーん、で? どんな事が出来るようになったの?
『管理者ランクAになってもそのこと自体には効果はありません。影響があるのは魔石操作の使用権限が上がる事です。
魔石操作のスキルには本来は使用権限の段階があって少しずつ上がって行く物なんですがこれがパンロック氏の記憶融合によって一気に段階が上がってしまいました。』
一気に何でもできるようになったって事で良いのか?
『はい。そうなります。
では出来るようになったことを説明していきます。
まずデータチップ内の収録内容を書き換える事が出来るようになりました。パンロック氏のマーカーが代表例ですね。
次にデータチップ自体の機能の書き換えですね。魔法仗「エンド オブ ワールド」がこれの代表例ですね。
機能書き換えにともなう命令変更もあります。
それに直接命令して作動させる事もふくまれますね。
昨日のレーザー発射のトリガーの機能とかですね。
あとはデータチップの融合とかもこれにふくまれますね。
これは本来機密事項なんですがランクAになったので解禁された情報の中に生体の中にあるデータチップに対しても命令出来るというのもあります。
それとこれも機密ですがデータチップに使用者を限定できる機能があるのですがこれを無効化するというのもあります。』
うわー。データチップの事ならほとんどなんでも出来るんじゃないか?
『その為の管理者ランクAなんです。普通ここまでになるのに一生かかってもなれるかどうかです。』
そういう事で言うとパンロックの奴も大したもんだとも思うんだがなぁ。死んだ後に残した物があれだからなぁ。
『そこまで行ったからこそああいう物を残したんじゃありませんか? 自分の生きた証を後世に残したかったんじゃないですか? 』
そんなもんかなぁ。
まあ残されてたり無理矢理受けつがされたりした物は精々有効活用させてもらわないと割に合わないからさせてもらうとして。
さて今後どういうスタンスで人生を生きて行こうかねぇ。
『あれ? マスターは好きに生きていくんじゃなかったんですか? 』
そう思っていたんだけれども、あれは段々と出来る事を増やして行きながらその都度の選択肢を選ばざるを得ない時の為の指針としての生き方であって、選択肢を好きな一択で選べるようになってしまった今ではそれでは駄目なんじゃないかと思えて来た。
何でも出来る人生はどっちに向かって行けばいいんだ?
『はい、マスター。一緒に探して行きましょう。』
そうだな。まだまだ人生は始まったばかりだ。十歳なんだからな。先はまだ長いな。
第一部 完
って未だプロローグも終わってないのに「第一部 完」な訳あるか!
まだまだ続くぞ!
+ + + + +
人生の転換点ってのは過ぎたあとに分かるもんだ。
俺の転換点は言わずもがな精霊の導きの儀式だったな。
あれから俺の人生は波乱万丈、全然心休まる物ではなかった。
「ねえ、ロッくん。なにたそがれているの? 」
「これはいつものマスターのモノローグですよ。心の中でろくでもない事を考えているんですよ。」
「アハハハ。また言われてるのか、ロック。そろそろ現実逃避は止めろよ。次が来るぞ! 」
やぶの中から大型の魔獣が飛び出して来た。
ガッシュが大きめの盾を前面に押し出して突進を受けとめた。
そこをサーラが横から牽制のクロスボウを放ち気をそらせる。
最後に余裕を持ってヘルによるレーザーを確実に眉間に叩き込む。
いつものパターンだ。
これももう飽きたな。
なぜこんな事を俺達がしているのかと言うと最近なぜか魔獣の数が異常に増えて来て村で被害が続発しているからだ。
総合ネットワークでも魔獣の数が増えて来ているのは前から把握していたが理由までは調べてなくて後手を踏んでいる。
だからもっと前から積極的に調べろと言って来たのに総合ネットワークもバズものんきに構えてやがってこのていたらくだ。
真面目にやれよと言いたい。
さて、記憶融合の事件からもうすでに五年がたとうとしている。
俺はそのあいだ魔石操作のスキルの運用方法や他に役立ちそうな情報を集めてはデータチップに組み込めないかとか色々試行錯誤をしていた。
その他にも将来村の外の世界に行く時の為に体を鍛えたり勉強したりと色々して来た。
そんな時は大体サーラとガッシュが一緒に付いて来ていた。
必然三人での色々なコンビネーションがうまくなり今ではそれなりの物になって来ている。
ヘルの事も隠すのがめんどくさくなりばらしてしまい今はインテリジェンスウェポンと言うていで二人と普通に話をしている。二人とも動じない奴らだ。
サーラはあのあと医術のスキルの勉強に真面目に取り組みそのせいかスキルの恩恵かは分からないが急激にしっかりして来ている。
なぜかちょっとお姉さんぶる事もある。なんだよ一体。俺の中身の方が断然年上な感じだぞ。
ガッシュは相変わらずガサツだ。最近はちょっと気を使う場面もあるがそんなもんだ。
剣士のスキルが体になじんで来たのか体の動きが良くなってきている。だがまだまだだね。
ヘルは相変わらずだ。変わっても困るが。
二人と話せるようになって嬉しいのかどんどん話しかけている。
機能的にはそんなに変わっていない。元の杖の性能が良過ぎて手を加える所が見つからない。
ヘルは最近身体を欲しがっているそぶりがある。
昔のデータの中にアンドロイドとかマシンドールとかオートマタだとかがいろいろ出て来ているのを前から知っていて自分もそれになれるのではないかとたくらんでいるようだ。
まあ元は人間の電脳に依存するしかなかったので絶対に無理だったのが杖に移動出來て可能性がかなり高いと言う事を自覚してしまったのだから仕方ないか。
俺も出来たら手伝ってやりたいとも思っている。
俺は最近の世界情勢がなんか動いているのが気にかかって仕方がない。
なにかが世界中で起きていて自分がおいて行かれているような気がすごくする。
ヘルに聞いてみても総合ネットワークでは把握出来ていないようだ。
こんなへんぴな田舎にいると情報化社会に付いて行けなくなるぞとゴーストがささやくのだ。
だから俺はこの件が片付いたら村を出て世界を回ってみるつもりだ。
ヘルにはもう言ってある。と言うかつつ抜けだからな。
あとは他の二人だがどうするか。誘ってみるか。そして付いて来てくれるか。悩んでいる最中だ。
まあそれもこの件が収まってからだが。
俺はこの魔獣の増加は隣国が何やらからんでいるのではないかとにらんでいる。
定番だよな。魔獣をけしかけるのなんて。
だからとっとと原因を突き止めて全てを粉砕して俺の花道にしてやろうと思っている。
さあ、今度はこちらからしかけるか。