プロローグ 03-15 愚か者
杖にさわるといきなり強い光が「赤い」宝玉から発し周囲全体に照射された。
俺は杖をさわった状態のままなぜか硬直し目も閉じられなくなりその光をずっと見続けた。
発する光はちかちかと非常にこまかく点滅しているようだった。
目が充血していくのが分かり目の奥が痛みだした。そして次第に段々と痛みが強くなってきた。
『マスター! 緊急事態です! 電脳防壁が攻撃を受け突破されました! 電脳空間が謎のデータに侵食されています! このままでは私が消滅してしまう可能性が有りますので一時的に総合ネットワークに退避します。マスターの御武運をお祈りしております。さようなら。さようなら。マ"』
そんな事を言ってからヘルは反応しなくなった。
なんだよ、さようならって。もう会えないみたいな事言うなよ。不吉だろ!
そこまで考えていた時痛みが最高潮に達したせいか俺は意識をうしなった。
+ + + + +
気が付くと俺は床に倒れていた。
手にはなぜか杖を握りしめていた。
頭がガンガンする。
俺は自分がなぜ倒れていたのか分からなかった。
記憶が曖昧でここがどこかも分からない。
今がなん時ごろかも分からない。
倒れていたのは石壁で出来た部屋で窓もなく暗くて見た感じ地下室のようだ。
明かりの魔道具がついたまま俺の近くに落ちていた。
床は少しほこりっぽいが気になる程でもない。
俺は起き上がり服に付いたほこりを払うと再度なぜ倒れていたのか思い出そうと頭を振ってみた。
まず昨日の事を思い出そうとするが良く思い出せない。
自分の事は思い出せるだろうと考えると名前が思い出せた。
俺の名前はパンロック。パンロック・ロリングストンだ。
辺境の村の領主だ。
ん? 待てよ? そんな名前だったか?
それに領主? 領主の息子だった気もする。
まあ息子でも家督を継げば領主になるか。
なんか朦朧とする頭で部屋を出てフラフラと廊下を歩いて行く。
手にはなぜか杖を持ったままだ。
この杖になにかあるのか? 分からない。分からないがそのまま持っていく。
なにかの手掛かりになるかもしれん。
廊下には見覚えがある気がする。
たどり着いた階段を少しずつ上がって行くと本棚の裏に出た。
そこから出ると俺の執務室だ。
だがかなり散らかっている。
誰だこんなに散らかしたのは? オルターナか?
あいつももう少し落ち着けば嫁の貰い手も出来るのにな。
ん? オルターナ? 俺の娘?
いや、俺は未だそんな年じゃないよな?
不思議に思いながら執務机に着くと机の上も大量の資料で散らかっていた。
こんなお力の資料書いたかなと首を傾げながらふと窓に目を向けると外はもう暗くなっており窓に明かりの魔道具の光に照らされた俺の顔がうつった。
その顔はまだ幼さを感じさせる少年の顔でひどく疲れているように見えた。
+ + + + +
気が付くと俺は床に倒れていた。
手にはまだ杖を握りしめていた。
頭がガンガンする。
俺は自分がなぜ倒れていたのか一瞬分からなかった。
しかし次の瞬間には思い出していた。
また失敗したのだ。
俺はスキルを得てからなんだか失敗ばかりしているような気がする。
スキルを得た事によって脳の作業能力が限界に近くなっていて、いわゆる馬鹿になっているんじゃないだろうな。
あ、ヘルか? ヘルが脳内にいる事で余計に負荷がかかっているんじゃないか?
おいヘル。そこの所はどうなんだ?
だが呼びかけても返事がない。只のしかばねのようだ。ってしかばねではなく只の人工知能か。
あ、そう言えば総合ネットワークに退避するとか言っていたな。神殿に迎えに行かないといけないのか? めんどくさいな。
まあそれはおいといて今はなん時頃なんだ? もしかして何日も倒れていた訳じゃないよな? そんなに腹が減ってるようには感じないし。
もしそうなら最低でもバズ位は様子を見に来てるだろうし。その為に隠しボタンの事を伝えておいたんだからな。
怒られない範囲の時間でありますように!
俺は服のほこりを払いながら起き上がりあたりを見回してみた。
明かりの魔道具がついたまま俺の近くに落ちていた。
それを拾い手に握ったままの杖を見た。
杖の宝玉の上の方にはさわる前には気付かなかったネームプレートが見える。
そこには【エンド オブ ワールド 製作者:パンロック・ロリングストン ▼】と書かれていた。
おうふ。「エンド オブ ワールド」って中二病かよ。マジかこいつ。
俺はこんな奴に良いようにあやつられてこんな羽目になったのか。
なんだか凄くがっくりきた。
「パンロック・ロリングストン」
最近こいつの名前をよく聞くから結構凄い奴かと思っていたが現実はざんこくだ。
こんな奴でも領主が出来るとは。まあバズでも出来るのだからおさっしか。
俺はため息をつきながら研究室を出てフラフラと廊下を歩いて行く。
手には例の杖を持っている。今回の事でこれだけが戦利品だ。
もう手をふれても放してもなにも反応がないので多分安全だろう。
壁に管理者にさづけるみたいな事が書いてあったので俺の物にしても良いだろうし。
廊下を歩き突き当たった階段を上がって行くと本棚の裏側だ。
そこを裏から押してみると簡単に開いた。
資料室に出て本などが散らかっている隙間を抜けて執務机まで行く。
机の上にはまだ見てない資料も残っている。
明日からまたやらなければならない事が増えた。
ヘルを迎えに行ったりとかこの杖をどうするかとか。資料アサリもまだ全部すんでないのに。
うんざりしながらふと窓に目を向けると外はもう暗くなっており窓に明かりの魔道具の光に照らされた俺の顔がうつった。
その顔はまだ幼さを感じさせる少年の顔でひどく疲れているように見えた。
+ + + + +
次の瞬間突然頭に激痛が走った。
さっきよりもひどい頭痛で頭がシェイクされているような感じだ。
俺は我慢出来ずにその場に椅子を巻き込んで倒れた。
痛みをこらえ切れずゴロゴロと転がり積まれた本などをお構いなしになぎ倒した。
わめき声も大きく上げた。
もしかすると本館の皆にも聞こえていたかもしれないがそんな事には構ってられなかった。
しばらく、もしくは結構な時間そうしていたらようやく痛みが引いてきた。
俺は荒く息をつきながら大の字に床に寝転がった。
しばらくそうして天井をにらみつけていたが、俺はやにわに立ち上がると落ちていた杖をひろい上げ執務机の角に思い切り叩きつけた。
ガツンと音を立てて杖は机の角に当たったが全然傷がついた風でもなく、逆に机の方が角がへこみひしゃげた。
俺は悪態をつき杖をその辺に放り投げた。もう杖に興味などかけらもなかった。
杖は馬鹿な管理者の気を引く罠だった。
俺はまんまと罠に引っかかった間抜けだった。
そして罠にかかった結果、
俺は大事なパートナーのヘルを失い、
いらないくそ野郎の記憶を強制的に受けつがされた。




