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マセキ・コントローール!  ~せっかく異世界に転生したのになんか捻くれた性格に育っちゃったみたいです~  作者: さんご
第三転生期編  第八章  飛躍、飛翔の物語

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03-08-10 旅の終わりと……

ちょっと記憶云々の所でAIとの区別が曖昧だったので補足改変致しました。

話の筋は変わっていません。


 マーネ達三人を加えた帰郷の旅に出て既に三週間が過ぎた。

 三人も旅に慣れてきてたまに荷車から降りて歩いていたりする程だ。

 この間は特に変わった事は起きなかったがたまにする野営の時にマーネが料理を手伝ってくれてその腕を披露してくれたんだけど出来た物はそれなりに美味かった。

 これなら家での雇用は問題無いんじゃないかな。

 まあでもその判定基準はバンドナさんが決定しているのでまだ安心が出来る状況でも無いんだけどね。


 ともかく今回の旅も終わりが近付いて来たようだな。

 ところで領地に帰ったら俺は暫く旅に出る予定を組まない心算だ。

 そもそも総合ネットワークの支部に行ったら何をするのかどうなるもんなのか皆目見当が付いていない状態だしね。

 だから帰る前に皆にその事を話して置く事にした。

 というか今更こんな事を言ったらリーナには家の領地まで付いて来なくても良かったんじゃないかと怒られるかもしれんな。


 まあそこは甘んじて説教されよう。うん。

 取り敢えず立ち寄った途中の村の宿屋にある食堂で皆への説明会を行った。

 今回呼んだのはマーネ達三人を除いた全員なんだがなんでかマーネ達も暇なのか隣のテーブルでこちらの様子を窺っている。

 別段面白い話をする訳じゃあないんだからそんなに興味津々な感じで見ていてもしょうが無いぞ? まあ好きにしてよ。

 さて、じゃあ詰まらない話でも始めるか。


「皆、休んでいた所を集まって貰って悪いな。

 実はガッシュ達の今後にも関係する話なんだが俺は今回の旅が終わったらしばらくは家で大人しくしている心算だ。

 詰まりは旅には出ないという事だな。」


「おいおい、急だな。

 じゃあもうずっと旅は止めって事か? 」


「いや、そうでも無い。

 帰って直ぐには出ないってだけだ。時間を空けてからなら出ると思う。

 それにその時は戦争に行く為かもしれないぞ。」


「はあ? 戦争ってマジか? 」


「ちょっと! そういう事はもっと早くに言いなさいよね!

 じゃあ何? 私は一人で王都に帰らないといけない訳? 」


「え~? リーナちゃん、王都に一人で帰るの~?

 というか帰ってもいいの~? 」


「えっ? 何が……ってそう言えば帰る必要もなかったんだったわ。

 悪いわね。ちょっと急な事で気が動転していたみたいだわ。

 続きをどうぞ。」


「いや、良いよ。リーナの言う通りだしな。

 それも有るが別に俺抜きで旅を続けてもらっても全然構わないんだけどな。

 どうだ? 他の皆だけで続けてみても良いんじゃないか? 」


「はあ? 俺達だけでか?

 まあ出来ない訳でも無いんだろうがそれはやる意味があるのか? 」


「そうだな。強い魔獣が出る所に重点的に行くとかそこにずっと留まるとか自分達の好きに行動出来てその方がもっと良いんじゃないか? 」


「ふーん。言われてみればそうかもしれないが重要な事が一つ抜けてるぞ。

 飯の問題はどうするんだよ。」


「そうね。それが解決しないと無理よね。」


「そこは誰か料理の上手い奴を新しく探して連れて行くかなんならヘルを同行させるって手もあるぞ。」


「ちょっとマスター! 初耳ですよ!

 なに勝手に決めてるんですか! 」


「うん? だけど俺といつまでも一緒にいてもしょうが無くないか?

 ヘルも言っていたじゃないか。どこまでも自由に歩いていけるって。

 それに俺にはヘルツーちゃんが付いているから何も心配はいらないぞ。

 特に危険な所に行くって訳でも無く自分の家にいるだけなんだしな。」


「まあそうかもしれないですが勝手に行き先を決められても困ります。」


「それは悪かったな。まあ選択肢の一つとしてでも考えて置いてくれ。

 ヘルの未来はヘルが好きに決めてくれて良いんだからな。」


「はい! そうします! マスター! 」


「それでだ。ラムドとベスも親に言われたとかじゃ無くて好きにして良いんだぞ。

 ガッシュ達に付いて行っても良いし自分達だけで旅に出ても良い。

 元々そのつもりだったとか前に言っていたよな。」


「ええまあ、そうなんですが。

 しかしハーロック様がお屋敷に居るのに私達がそこを離れてしまうというのはなんだか違うんじゃないかという気がします。」


「ボクもそう感じます。

 二人で旅に出ようかって言っていた時はハーロック様が居なかったから許可が出たというのが実状だったと思います。

 そうでなければそんな話自体が多分存在しなかった筈です。」


「まあそうかもしれないがそれでも一応ラムド達にも自由にする権利はあると思っててくれて良いからな。

 まあその辺は帰るまでまだ時間は有るんだから良く考えてみてくれ。」


「「はい。」」


「という訳で俺の説明会は終わりだ。

 他の皆も今後どうするか考えて置いてくれ。

 なんか俺の我がままに付き合わせて悪いな、皆。」


「ちょっと~。なんで私には確認してくれないの~、ロッくん~? 」


「えっ?! そんなの必要無いだろ?!

 じゃあ聞くがサーラはこれを踏まえてどうするつもりなんだ? 教えてくれ。」


「そんなのロッくんとずっと一緒にいるに決まってるよ~。

 あ~、既に決まってたね~。ごめんね~。」


「はぁ、だと思ったよ。

 まあサーラの自由意思を尊重するから迷惑を掛けない程度に好きにしな。」


「分かった~。スキにするね~。うふふふ。」


 オウッ?! なんか急に背中がゾクッとしたぞ。

 風邪でも引いたか? まあいい。

 そんな感じで皆には一応の説明が終わって領地に帰るまでにそれぞれで今後の事を考えてもらう様に頼んでおいたのでこれで一先ずは問題無いだろう。

 後はもう帰ってからだな。

 というかなんかヘルから変なプレッシャーを感じるのは俺の気の所為だよね。


  + + + + +


 まあそんなこんなでやっとこさ家の領地に帰ってくる事が出来ました。

 ところで帰ってくるのは何時ぶりだ?

 たしかフリオペラを王都の学園に連れて行く途中に寄ったのが最後だったよな。

 だったら約一年半ぶりか。思ったよりも長い期間だったな。

 だけど旅の途中でママン達と王都で会ったりしていた所為か久しぶり感が薄いなあ。


 まあそんな事はどうでも良いか。

 とっとと自分の家に帰ってベッドに寝転がって身体を休めたいよ。

 俺は旅に出て色々と経験を詰む事は出来たが移動時は殆ど御者席に座っていたから体力の衰えを実感する事も増えて来ていた。

 これから暫く休んだ後は改めて身体を鍛え直すというのもアリだな。

 まあそれもこれもやる事を先にやってからになるんだろうが。


 村に着いて屋敷に向かうと例の如くバンドナさんがどこから知ったのか分からないが既に玄関先で待っていた。

 いつも思うんだけどこの人の察知能力は一体どうなっているんだ?

 データチップを感知できるレーダーを持つヘルと同等の察知能力が有るなんて本当に人類なのか?

 あっ?! 今まで可能性の低さから考慮にも入れていなかったがまさかバンドナの持っているスキルって魔石操作と同様な物なんじゃないか?

 どうなんだ、ヘル?


『さあ、どうだったですかね。

 私は用無しのガラクタですので良く分かりませんね。

 すみませんね。マスター。』


 はぁ。まだヘソを曲げてんのかよ、ヘル。しつこいなぁ。

 もう何回も謝っただろう?

 そろそろ機嫌を直してくれても良いと思うんだけどなぁ。


『まだまだです。

 マスターには私が存在する事の有用性をもっと認識して置いてもらわないといけませんから。』


 ヘル、もう勘弁してくれ。

 はあぁ。失敗したなあ。

 俺の考えている事はヘルに全部筒抜けになっていると思っていたから特に断って置く必要性を感じていなかったんだよなあ。あ~あ。

 なんて事を遣り取りしている内にバンドナに促されて全員でバズの執務室の前に辿り着いていた。

 バンドナの取次で入室を許可された俺達はぞろぞろと連なって部屋に入って行き俺だけがソファーに座った。


「おう、また人数が増えたなあ。

 で? 増えた者の紹介をしてくれないか? 」


「ああ、勿論するよ。と言うかしない事には話しが始まらないからな。」


 そして俺は増えた三人の紹介と知り合う事になった状況と今後に関する希望をバズに話した。

 バズは全てを聞いてからバンドナの方をチラ見して彼女が小さく頷くのを確認してから鷹揚に話し始めた。


「おう。三人とも災難だったな。

 家としては三人を雇う事に問題は無い。

 そちらがそれを望むなら是非家で働いてくれ。

 後の細かい事や住む場所なんかは家の屋敷を取り仕切っているバンドナに聞いてくれ。

 バンドナ、三人を案内してやってくれ。」


 三人は無事に雇われる事が決定したので安堵した表情を浮かべて仕切りにバズにお礼を言いながらバンドナに連れていかれて行った。

 フゥ。一先ずこれで問題を一つ解決出来たな。

 三人にはこれから家で頑張ってくれる事を期待して置こう。

 バンドナ達が出て行って少し部屋の人口密度が下がってついでに部屋の気温も下がった気がした。まあ気だけね。

 そこでバズが本来の旅のメンバーの顔を見回しておもむろに聞いてきた。


「それで旅はどうだった? 面白かったか?

 思っていたのとは随分と違ったもんだったろう?

 どうだ、ハーロック? 」


「まあ得てして理想と現実とは違うもんだよね。

 伝説と真実とが違うようにね。ねえ、冒険王さん? 」


「ブフッ?! お前! なんでそれを?!

 クソ! もうあんな与太話なんか廃れてると思ったのに! 」


「いや、全然廃れてなんかいなかったぞ?

 むしろ国民全員の基本的な幼児教育の教本と化していたぞ? 」


「なんだそりゃ? 訳分からんな。

 まあもうどうしようもない事は考えても無駄だな。

 そんな事まで知っているという事はさてはお前家の家名を名乗ったな?

 馬鹿め。自分から面倒事を背負い込んだんだろう? 」


「いや、それはギリギリ回避したんだけど代わりに武闘大会に全員で出場して注目を集めてしまったからね。

 あんまり意味はなかったね。」


「へえ、武闘大会か。あの国はいつも色々考えているんだな。

 ああ、長々と下らない事を話してしまって悪かったな。

 ガッシュ達もご苦労様。ミシュリーナも前と同じでガッシュの家で厄介になるって事で良いのか? 」


「はい。その予定です。

 婚約者なんですから当然ですわ。

 ね、貴方。」


「ああ。家で存分に寛いでくれ。」


「じゃあ、詳しい話はまた後日聞くとしよう。

 お疲れさん。もう帰ってくれて良いぞ。

 ラムドとベスもな。バンドナと積もる話もあるだろう。

 ハーロックはちょっと残っててくれな。」


 皆を家に帰して俺とヘルとバズの三人だけになるとバズは砕けた口調になって三人の雇用に関して俺に文句を言ってきた。

 まあ、それは甘んじて受けよう。

 急な話を持って来た俺が悪いんだからな。

 だがちょうど新しいメイドとかを雇おうかと話していた所だったらしく渡りに船だと承諾したというのが真実らしい。

 もう次は無理だからなと釘を刺されはしたがね。


 あとママンにはちゃんと帰還の報告をしとけと言われたが言われるまでもないよ。

 前の時は黙って出て行ったから気不味かっただけでそうでなければ普通に会えるんだし。

 と思っていた俺は馬鹿だったとしか言いようがないね。

 良く考えたら今この家には俺しか子供がいないんだったよ。

 ママンは凄く寂しかったと涙を浮かべてくどくどと言うもんだから俺も最後まで付き合ったんだけど終わり頃にはもう殆ど寝てしまっていたよ。


 俺は悪くない、と思う。

 まあこれも帰って来た普通の日常という事なんだろうね。

 それからしばらくの間は旅の疲れを取る事に専念してゆったりと過ごした。

 もっとも総合ネットワークの支部には行かないといけないんだけど何時までにという期限は特に区切られてはいなかったので念の為に体調を整えてからにしようと決めていたからでもある。

 それでもそろそろ行かないと不味いよなあ。


  + + + + +


 俺は体調が回復して天気も良い今日を総合ネットワークに行く日に決めて森の神殿に向かって歩いている。

 お供はいつものヘルと身体はヘルツーや皮鎧等の完全装備だ。

 行ったら何が起きても不思議じゃないからな。

 従ってガッシュ達には特に説明はせずに来ている。

 何か予期せぬ事が起きてその場にいる人員に危害が及ぶかもしれないと思ったからだが俺の気の回し過ぎであってくれたら何も言う事は無い。


「なあ、ヘル。何かその後に分かった事とかは無いんだよな? 」


 所で森の中を二人で静かに歩くというのもなんなので声に出してヘルに話し掛けてみた。


「申し訳ありません、マスター。

 神殿の石碑に関してはパンロック様が関与する事柄が多岐に渡るので何かこれだという限定できる様な情報は特に掴めていません。」


 ヘルが音声を出して応えてはくれたがなんだか最近話し方が素っ気無い気がするのは俺の気の所為では無いよな?

 まあこれがヘルに自立心が芽生えたという事なら特に言う事は無いんだけどなんだか違う気もする。

 俺が話し掛ければ素直に応えてくれる様にはなったのでもうとっくに機嫌は直っているとは思うんだがホントAIの癖にいつ迄も拗ねるなよなあ。

 もうそこらの普通の人間よりも余程人間臭いぞ。

 最初の頃のつっけんどんな態度のヘルが懐かしく思えるよ。


 そんな事を考えながら歩いていたらもう既に神殿に到着していた。

 扉は前に来た時と同様に鍵とかは掛かっていない様ですんなり開き俺達は中に入っていった。

 中は相変わらずの様子で石碑が赤い光を発して辺りをほのかに照らしていた。

 俺は石碑に近付いて行くとおもむろに向こう側から話し掛けてきた。


『ようこそいらっしゃいましたね、管理者殿。

 余りこちらには御出でになられないので久方ぶりですね。

 それで今日はどの様な用件でいらっしゃいましたでしょうか? 』


 うん? なんだか最初に会った時に比べて話し方が丁寧になってないか? なんでだ? 何か有ったのか?


「マスター。

 それはマスターが今まで行ってきた行動によって総合ネットワークに対する貢献度が天元突破しているからですよ。

 もっと自覚して置いて下さい。」


 おう、そうか。そういう理由でか。

 なんだか俺が今まで色々してきた事は総合ネットワークにとってはそれなりに意義がある事だったと評価をされていたんだな。

 そこそこ俺の味わった苦労がなんか少しでも報われた様な気分だ。

 まあ掌を返した様な急な態度の変わり様は違和感しか感じないけれども。

 それよりもここに来た原因の究明の方を優先して貰えないかねえ。


 俺は総合ネットワークに何か俺に対して行うべき処理が起きたりしていないかを尋ねたが特に検索に引っかかる様な事柄は存在しないようだ。

 俺が石碑を触る事が何かの切っ掛けになっているかもと恐る恐る触ってみたが特に何も起こらなかった。

 う~ん。これはどういう事だ?

 村の総合ネットワークに会いに行けと言われて会いに来たが特に何も起こらないと来たもんだ。

 何か思い違いをしているのか?


 そもそも俺が聞いたと思った事は間違っていた可能性も有るのかもしれないな。

 なんだよ、クソ! 訳が分からんぞ!

 ここ迄やってきて何も得る物が無かったなんて事になったら付き合わせてしまった皆に顔向けが出来んぞ!

 オイ! 責任者出て来い!

 …………アッ?


 そうだよ! 奴の事をすっかり忘れていた!

 パンロックの奴に関わる事なんだから俺じゃなくてあいつ関連で調べてもらった方が検索に引っ掛かるかもしれないよな!

 俺も案外抜けてるよなあ。

 早速総合ネットワークに調べてもらえば出るわ出るわ。

 逆に有り過ぎて何が俺に関連するのかを絞り込むのに苦労する程だ。


 まあ俺と奴に共通する事と言えば記憶転写に関する事しか有り得ないのでそれ関連の項目のリストを石碑にAR表示させて細かくチェックをしていく。

 そんな時ふと此処に来てからヘルが自棄に静かだなあと思いそちらの方を窺うとヘルは腕からコードを引き出してその先端を石碑に接触させていた。

 なんだありゃ? ヘルは何をしてるんだ?

 俺は疑問に思ってチェックするのを一時中断してヘルに声を掛けた。


「おい、ヘル。何をしているんだ? 」


 俺が声を掛けても直ぐには何も反応がない。

 だが数秒してからハッと気が付いた様に振り返り俺に返答してきた。


「何か用ですか? マスター? 」


「うん? いや、ヘルが今何をやっていたか気になったもんでな。

 ちょっと声を掛けてみただけだよ。

 で? ヘルは今何をしていたんだ? 」


「えっ? これですか?

 これは……そうです。AIのバージョンアップの作業ですね。

 それが何か? 」


「えっ? ヘルってばAIのバージンアップが必要なのか?

 初めて聞いたぞ? 」


「いえ。私のAIでは必要ありません。

 日々成長していますから。

 これは石碑に対しての作業ですね。」


「はあ? じゃあなんだ。

 ヘルの方から石碑に対してバージョンアップのデータを転送しているのか?

 普通は逆じゃないのか? 」


「そうではありません。マスター。

 私は杖の宝玉に移動してからAIの占有作業領域の拡大に伴って効率化を進めていましてその結果を石碑側にフィードバックしているんです。

 凄いんですよ! エヘン! 」


「へえ、そんな事をやってたのか。

 じゃあ、いつも町や村に着く度に神殿に通っていたのはその作業をやってたからなんだな。凄く納得した。」


「そう……デスネ……。そうなり……マスネ……。」


「うん? なんだ?

 急に歯切れが悪くなって。歯はないけども。

 どうかしたのか? 」


「いえ。良く考えたら何故そんな事をやり始めたのか自分でも原因が分からなかったものですから。

 ちょっと不思議ですね。」


「オイオイ、ちょっと所じゃないだろ?

 AIが自分の動作に疑問を持ってどうするよ。

 じゃあ何か? 自分の知らない内に至る所の石碑に対してAIのバージョンアップを仕捲っていたという事なのか? 」


「はあ、まあ、そうですね。

 AIが搭載されていない所には移植を。

 既に有る所にはバージョンアップの作業をしていたと作業履歴には残っていますね。」


「……オイ。

 これってもしかしてAIが人類に対して反乱を起こすとかが起きるんじゃないよな。

 どうなんだヘル? ってAIのヘルに聞いても意味がないか? 」


「それに対しては心配いりませんよ、マスター。

 AIの作成段階でその可能性が起きない様にちゃんとプロテクトが掛けられていて人類に対しては人類側を一旦通さなければ危害を加えられない仕様になっています。

 安心してください。」


「いや、あんまり安心出来る話じゃないよね。

 人間が関わっていればスルーされるんじゃ意味なくない? 」


「これは国家を運営する政府とかが使えないとそれこそ意味がないのでしょうが無い事ですよ。」


「ああ、まあ、そうか。

 その通りだよな。凄く納得した。」


「それにAIは人類に奉仕する様に性格が設定されているので猶更安心ですね。

 良い証拠がここにいますしね。」


「おい、ヘルさんや。

 どこにそんな優秀なAIがいるんだ?

 俺に是非紹介してくれよ。」


「何を言ってるんですか!

 この私が、私こそが世界一マスターに奉仕するAIですよ!

 私を侮辱するなんて顰蹙もんですよ! 」


「嘘だっ!!

 いつも俺の事を揶揄ってくるし今朝までだって拗ねて碌に返事もしなかったしどの口がそんな事を言う!

 ああ、そういえば口は無かったか。」


「フンだ! それはマスターがいけないんですよ! 」


 ……。

 …………。

 ………………。


 暫く二人で罵り合っていたら総合ネットワークのAIが見兼ねて仲裁をしてきた。

 そんな事も出来るように情緒が発達してきたのには本当に驚いた。

 ヘルとの喧嘩を取り敢えず棚上げにしてリストのチェックを再開した。

 程無くこれじゃないかという有力候補を一つ発見した。

 それは人間の意識を魔石に転写したり移動させようとしたりした実験の記録で、最後に人間の電脳に移動可能か試験する所で研究が停止しているという物だった。


 それによるとAIを人間の電脳に移植する事は特に問題は生じないが、人間の意識を魔石や、ましてや他人の電脳に複製する事は出来なかった様だ。

 そりゃそうだろう。

 AIと人間の意識ではその必要領域量が格段に違うだろう事は考えなくても理解出来る。

 人間の意識って物はその人の人生経験、つまりは記憶によって形作られる物だからな。

 だからそれを成すにはもう一つ脳味噌が要るって事だろう。

 だが意識では無く記憶だけであれば、それを解析して記憶の重複箇所を省く事で必要容量を削減し、魔石や電脳への移植等は可能で、その技術は確立しているようだ。

 だがその加工された記憶を使ってでは人間の意識を再現する事は出来なかったみたいだがな。

 まあとにかく今は俺の中に在るパンロックの記憶が移動出来るって事だけ解れば他に何も言う事は無い。


 俺は念の為に総合ネットワークのAIに安全性を確認したがもうそのシステムが機能に組み込まれて何百年と経っていて何度も死の間際の人物の記憶を複製するのに成功していて結果は何も問題ないとされていた。

 俺は自分の記憶も一緒に移動させられてしまうんじゃないかと危惧したがパンロックの記憶が転写された電脳内の領域がはっきりと分かっているので全く障害にもならないと言われて漸く処置に同意した。

 早速処置を始めるというのでそんなに簡単なのかと聞いたら作業自体は俺の体内の魔石を通じての通信で済んでしまう事なので過激に運動して通信が阻害される様な状態でもなければ大丈夫だという。

 但し時間は結構掛かるという事で同じ姿勢で楽にしていられれば良いらしいのでちょっと床の埃を避けてそこに寝転んで処置を受けた。


 処置の間は身体を無闇に動かさない様に軽い催眠状態にさせていた様でちょっとうつらうつらしている内にいつの間にか終わっていた。

 痛みとかは特になく終わってみればなんか頭の中の霧が晴れた様な気持ちの良い状態になっていて俺の気分は絶好調だった。

 俺は今までの濁った頭で良くぞ無事に生きてこられた物だと逆に幸運に感謝したい位だった。


  ~ ~ ~ ~ ~


 フハハハ! とうとう遣り遂げたぞ! 儂は復活したのだ!

 様々な手を尽くして今やっと儂の努力が結実したのだ!

 早い内に魔石への記憶の転写だけは成功していた物の何故かそれには人格が宿らなかった!

 死ぬ間際まで研究した結果人格の形成にAIを補助として使えば良いという事に辿り着いたが如何せんAIを成長させるという事が時間的に間に合わなくて未来に賭けるしか方法が無かったのだ!

 その為に色々と罠や伏線を張り巡らしてどれかに引っかかってくれればと苦労して準備した甲斐が有ったわい!


 ククク! これで総合ネットワークの全ては儂の物だ!

 後はどこかの工房にでも動甲冑を作らせてそれに乗り移れば儂は不死の身体を持った最強の王にもなれる!

 それも全てのスキルを自由自在に使いこなしパワーは常人の十倍以上だ!

 更にレーザー攻撃や索敵等も行える万能の王、いや魔石の王だから魔王だっ!

 儂は魔王になったのだっ!

 フハハハハ! アーッハッハッハッハ!!


 それに儂は無敵の動甲冑軍団を作りだして世界征服に乗り出しても面白いかもしれないな!

 この国は魔王の国と呼ばれるだろうがそんな事は一向に構うものか!

 別に儂は自国の国民を虐げるつもり等更々ない! むしろ優遇してやる心算だ!

 魔王の国の民は皆魔族だ! 皆仲魔だ!

 儂の未来の可能性は無限大だっ!


 所で儂の復活を手助けしてくれたあの小僧には感謝しかないな!

 感謝の印に裏から色々手を回して特に優遇してやらんとな!

 首を長くして待っておるが良い!

 さてこれから忙しくも面白い事になるぞ!

 世界の者共よ! 括目して見よ!


 儂の復活の狼煙が上がるのをな!

 ワーッハッハッハッハ! ワーッハッハッハッハ!






 は~ぁ、テンションを上げ続けるのも精神的に疲れるわい。

 やれやれ。


  ~ ~ ~ ~ ~


 まあこうして俺の兼ねてからの懸案事項は払拭された訳だ。

 こうなってみると今まで世界情勢の事が気になっていた事なんかもうどうでも良い事のように感じられてまた旅に出ようなんて気は微塵も湧き上がって来なかった。

 そうだよ。これからはスローライフの人生を送る事に尽力しよう。

 いや尽力したらスローライフにならないか。アハハハ。

 俺は極端な楽観主義者に宗旨替えしてこうなったら村の領主を継いでも良いかなあなんて気楽な事を考え始めていた。


  + + + + +


 そんな感じでお茶らけて暮らしていたら何時の間にかあれから二年の歳月が過ぎていた。

 そして危惧していたオウディーエンス王国とフィールデン王国の同盟軍対帝国軍との戦争が遂に勃発してしまった。

 俺は軍の徴兵に引っ掛かって領主の嫡男だったという事で無理矢理仕官として参戦する事が決まってしまった。

 俺はのんびりスローライフを目指していたのにどうしてこうなった。

 解せぬ。




  第八章 飛躍、飛翔の物語 end





一旦ここで一区切りとなります。

ここまで読んで下さった方々、是非感想でも送ってください。

何卒お願い致します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 捻くれつつも仲間を大切にするツンデレな主人公が魅力的で面白いです!
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