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てぶくろの話

作者: 聖 さくま

てぶくろの話


ある日、車の中を掃除していた私は、シートの下から薄汚れた毛糸のかたまりをみつけた。

丸まった黒いそれを開いてみると、それはちいさなてぶくろだった。

今はもう高校生になって、すっかり無口になってしまった息子が、まだ小学校の低学年だったころのものだろう。

彼はてぶくろをよく失くしたものだ。新しいのを買っては失くし、毎週毎週その繰り返し。はじめのうちは叱ったこともあったが、あんまり年中失くすものだから、それももうばからしくなって、じきに何も言わなくなってしまった。

これは、初代から数えて何個目のてぶくろだったろうか。


冬の朝、凍える寒さの中で、彼の小さな手を守ってくれたてぶくろ。

雪で遊んでびしょぬれになったり、転んで泥だらけになったりしながらも、てぶくろは冬中息子と一緒だった。

庭に雪だるまを作ったこともあったっけ。不格好なスノーマンが、陽にさらされてだんだん小さくなってしまうのを、幼い息子は悲しそうに見ていた。

小柄で細かった息子は、泣いて帰ってきたこともある。そうそう、あのときはお友達と喧嘩して。

いくつものシーンが私の頭の中に映し出されて、私はしばし、てぶくろといっしょに記憶の中に身を投じていた。つかの間のやさしい思い出に、心がやわらかに溶けていく。

ふと振り返れば、最近、息子との会話がめっきり減っていたことに気づいた。


私はしずかに立ち上がった。


ありがとう、てぶくろ。

つい感謝の思いが口からこぼれたのは、やさしい気持ちになれたからだ。


このてぶくろを見せたら、息子も懐かしいあの頃を思い出すだろうか。

寒い風に負けず、てぶくろをはめて外を駆け回ったまぶしい日々のことを。


年頃で言葉少なな彼のこと。むっつりと黙っているだけかもしれない、それでも。

たとえ話は弾まなくとも、同じ気持ちであのころの思い出を、きっと分かち合える、そう思った。




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