元軍人と新米兵士3
2人用声劇台本です。
推奨比率は(2:0)ですが、一人称、語尾改変等で(1:1)でも使用可能です。
シリーズ物ですので、可能な限り最初からご使用下さるとストーリーが分かりやすいかと思います。
所要時間:20分前後
キャスト
マスター・軍人A:
ルーキー・軍人B:
ルーキー
「…よし、今日こそ……!」
マスター
「いらっしゃい……うん?
何だお前さんか、久し振りだな」
ルーキー
「えぇ、そうですね。
あれから2年…経ちました」
マスター
「もうそんなになるか。
俺も歳を取ったな」
ルーキー
「え…?」
マスター
「歳を取るとな、1年があっという間なんだ。
そうか…2年……お前さんはどうしていたんだ?」
ルーキー
「何とか、やれている…と思います。
部下も持つ様になりました」
マスター
「ほう…?
体格も少しは様になった様だ。
そうか…お前さんも下仕官持ちか」
ルーキー
「えぇまあ…お察しの通り、毎日悩み悩みですが…」
マスター
「そんなもんだ。
そしてそれは、日に日に重くなっていく」
ルーキー
「重く……えぇ、そうですね。
せいぜい押し潰されない様にします」
マスター
「ふん、可愛げが無くなったな、お前さんも」
ルーキー
「褒め言葉と受け取っておきます。
ところで…」
マスター
「分かっている。
だが、いつまで立ち話をしているつもりだ?」
ルーキー
「お答えを頂いたら、座らせて頂きます。
約束…お忘れになられていない様で安心しました」
マスター
「そこまでボケちゃいねぇさ。
だがな、ここは俺の店だ。
ルールは俺が決める、分かるな」
ルーキー
「……では、失礼します」
マスター
「分かりゃあいい。
さて曹長どの、酒は…」
ルーキー
「階級で呼ぶのはよして下さい。
そうですね、では……バーボンを少し、頂きます」
マスター
「少しは分かる様になってきたか。
お前さんは運がいいな。
バーボンなら先日仕入れたヤツがある。
とっておきを開けてやろう」
ルーキー
「…有難うございます」
マスター
「…2年……か…」
ルーキー
「美味い…
今、何か…?」
マスター
「いや、少しな…」
ルーキー
「…昨夜、久し振りに夢を見ました」
マスター
「夢…?」
ルーキー
「えぇ、あの頃毎晩の様に見ていた、悪夢です」
マスター
「…そうか」
ルーキー
「2年の間に忘れたと思っていたんですけどね。
日々の訓練や、下仕官のトラブル沙汰の片付けやらで毎日追われてましたから」
マスター
「ははっ」
ルーキー
「…何です?」
マスター
「いや…お前さん、気付いてねぇ様だからな。
それはな、忘れたんじゃねぇ、単なる逃避だ」
ルーキー
「いえ、そんな事は…!」
マスター
「思い至らねぇなら、お前さんもその程度って事だ。
なぁ、本当に…忘れてしまっていいのか?」
ルーキー
「っ!
……それは…しかし、忘れてしまうのが一番いいんです。
でないと私はーー…」
マスター
「撃てなくなる、か?」
ルーキー
「……もう、嫌なんです。
失望したくない」
マスター
「自分に、か?
それは嘘だな」
ルーキー
「それはどういう意味ですか」
マスター
「分かっているだろう。
お前さんは、周りに失望されたくないだけだ。
ここに初めて来た頃の自分を恥じているのか」
ルーキー
「それは…勿論そうです。
撃てないなんて、軍人失格だと貴方も言ったじゃありませんか!」
マスター
「あぁ、そうだ。
だがな、俺は忘れろと言った覚えはねぇぞ」
ルーキー
「しかしそれでは…!」
マスター
「あの戦役でお前を救ったのは俺の同期の男だ」
ルーキー
「っ!!!
やっぱり、そうだったんですね…」
マスター
「あいつは、お前の盾になって二階級特進した」
ルーキー
「そんなっ……」
マスター
「…気付いていたんだろう、何故そんなに驚く」
ルーキー
「……すみません」
マスター
「望んだ答えじゃなかったからか?」
ルーキー
「………すみません…」
マスター
「俺にはな……お前さんは、希望なんだ」
ルーキー
「え…」
マスター
「皆、色んなモン抱えて、もがきながら生きている。
そこに軽重も深浅も無い。
自分だけの積荷を背負ってんだ」
ルーキー
「でも俺には何も…!」
マスター
「残ってねぇか?」
ルーキー
「……分からなく、なったんです」
マスター
「…吐け。
壁にぶちまけるよりは多少マシだ」
ルーキー
「この2年……必死でした。
この店に来る事が支えだったんです。
あの頃の自分には聞く権利が無いと…教えて頂けなかったのは、そういう事なんだと思って、必死で。
ただそれだけで。
いつか、胸を張って会いに行こうって…ずっと…」
マスター
「……そんな大層な店じゃないがな」
ルーキー
「いいんです、これは自分で勝手に決めただけですから。
そうでもしないと、前に進めなかった」
マスター
「…で、胸を張れる様になったか?」
ルーキー
「それは……どうなんでしょう。
この店に入るまでは、そのつもりで…」
マスター
「それで、分からなくなった、と」
ルーキー
「……少しは、変われたと思ったんですけど…」
マスター
「ふむ……少し、教えてやる。
あの時何があったのかをーー…」
間
軍人B
「…いつまでそうしているつもりだ?」
軍人A
「一人にしてくれ」
軍人B
「覚悟はしていたんだろう?
悔やむ気持ちは分かるがーー…」
軍人A
「お前に何が分かるってんだ!!!」
軍人B
「……そうだな、俺はまだ部下に殉職者を出していない」
軍人A
「…すまん、それ以上言うな」
軍人B
「お前が謝る必要は無いさ。
俺もな」
軍人A
「……なぁお前は…後悔しねぇか」
軍人B
「何を」
軍人A
「…ここに居る事を」
軍人B
「後悔しているのか?」
軍人A
「…分からなく、なったんだ」
軍人B
「…俺にはな、知っての通り夢がある。
それを叶える為にここにいる。
だから後悔なんてした事はない」
軍人A
「夢…それは、ここに居なきゃ叶わねぇのか?」
軍人B
「どうだろうな…他にも手段はあるのかもしれないが…
俺は、ここで叶えると決めた」
軍人A
「何故だ!?
少しでも多くの人を助けたい、あぁ大層な夢だ!
だがここじゃなくてもいいだろう!?」
軍人B
「そうかもしれないな。
だが、傾ぐかもしれないだろう?
目的地へ行く道は幾つもあるが、迷えばいつまでも到達出来ないさ。
遠回りでもいい。
この道がどんなに悪路でも、俺はこれからも道を違えるつもりはない」
軍人A
「自分で決めた道だから、何があっても後悔しねぇって言うのか」
軍人B
「少し違うな。
悔やんでも何も得られないと知っているからだ。
過去は戻らない、どんなに望んでも。
どんなに血の涙を流しても、あの蟻の行列は巣には帰れない」
軍人A
「過去は切り捨てるっていうのか!?」
軍人B
「違う。
糧にするんだ」
軍人A
「糧…だと…?」
軍人B
「あぁ。
だから、ずっと胸にあるんだ」
軍人A
「…お前は、強いな」
軍人B
「いいや、人一倍臆病者さ。
迷子の子猫ちゃんになりたくないだけだよ」
軍人A
「…俺にも…そんな何かがあるんだろうか」
軍人B
「空を飛びたいんだろう?」
軍人A
「それは叶わねぇガキの頃の夢だ」
軍人B
「叶うさ」
軍人A
「はっ、どうやって」
軍人B
「俺には見える。
お前がいつか、空を飛んでいるのをな」
軍人A
「馬鹿も休み休み言え」
軍人B
「なぁ、その時はきっと俺も隣りでーー…」
SE:空襲警報、サイレン
軍人A
「こんな昼間に非常警報!?」
軍人B
「夜襲ばかりだと侮っていたな、これも作戦か!
行くぞ!」
軍人A
「待て、無線だ!
こちら第5ぶた…ーー…今、何と…」
軍人B
「どうした?」
軍人A
「待って下さい、それでも出動すべきでは…
納得出来ません!!
クソッ、どうなってんだ!」
軍人B
「おい、行かないのか!?」
軍人A
「…俺達の部隊は待機命令が出た」
軍人B
「待機!?
何故だ!!」
軍人A
「あくまでも本線は夜襲、此度の空襲は陽動作戦だと」
軍人B
「陽動だとしても、晒されるのは民間人じゃないのか!?
協定を破った向こうが何もせずに帰る訳がないだろう!!」
軍人A
「待て、命令に背くのか!」
軍人B
「クソ喰らえだ!
悔やみたくないからな!」
軍人A
「くっ、俺も行く!!」
間
ルーキー
「…不思議だったんです。
あの時確かに、敵襲は夜間だけと決められていた筈でした。
夜間のみシェルターに避難すれば、それ以外は家で過ごす事が出来た」
マスター
「協定を提示してきたのは元々敵国だったが、こちらとしても条件が良いと飲んだ。
民間人の被害を最小限に抑えられるからな。
以前、お前さんの話を聞いた時にすぐに分かったさ。
あの日の事だとな」
ルーキー
「…その協定が、破られたのは何故なんですか」
マスター
「最初からそのつもりだったかは分からんが、お互い夜襲のみで決めの一手を図りかねていた。
業を煮やしたんだろうとの見解が出たが…結局の所反旗を翻した敵国の軍人共が武力で反勢力を潰して終戦した、ってのはお前さんも知っているだろう」
ルーキー
「えぇ……
人は何故、争うんでしょうね…」
マスター
「さぁな、業が深いんだろうよ」
ルーキー
「業……ですか」
マスター
「あぁ、古から続く、業だ。
そういやぁ……叶わなかったな、結局は」
ルーキー
「……少尉」
マスター
「あん?
おいおい、俺は退役した身だとーー…」
ルーキー
「本日は、書状を預かってきております。
お受け取り下さい」
マスター
「…いらん、持って帰れ」
ルーキー
「それは出来ません。
どうかお目通しをお願いします」
マスター
「ちっ…嫌な予感はしていたんだ、あれから2年…姑息な手を使いやがって」
ルーキー
「この店の契約は5年だと伺いました。
私がここへ初めて来たのは3年目、もうじき契約は切れます」
マスター
「駄目だ、戻るつもりは毛頭無ぇぞ!
司令を呼べ!」
ルーキー
「その司令からの書状ですので…
それと、もう一つ」
マスター
「まだ何かあんのか!?」
ルーキー
「司令からお預かりした手紙です。
どうぞ」
マスター
「手紙…?」
ルーキー
「えぇ、大尉から、と言えば分かる、と…」
マスター
「っ、寄越せ!」
手紙・軍人B
「万が一の為に、ここに記しておく。
その時ならきっと、お前より階級も上になっているだろうしな。
司令には、お前がもし退役する事があったら渡してくれと伝えておいた。
なぁ、一緒に見てみたくなったんだ。
お前が言っていた、突き抜ける青を、視界の端に去っていく白を、遥かな地平線を。
頼む、俺の夢も乗せてやってくれ。
空で待っている」
マスター
「……っ…馬鹿野郎が…」
ルーキー
「…司令がお待ちです」
マスター
「書状、見せてくれ」
ルーキー
「どうぞ。
では、私は先に戻ります。
失礼致します!」
マスター
「……第1航空船団、第3部隊顧問隊長…
とんでもねぇ大役押し付けやがって、あの野郎…
余計な手回しするんじゃねぇ」
軍人B
「空を飛びたいんだろう?
叶うさ。
俺には見える。
お前がいつか、空を飛んでいるのをな。
お前の番は、まだまだ先だ」
マスター
「あぁ、俺にはやらなきゃいけねぇ事がある。
そうだろ…?
…せいぜいボウズ達の未来を、青臭くしてやるさ。
第1航空船団、第3部隊顧問隊長、拝命致します!!」
-end-
有難うございました!
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元軍人と新米兵士、これにて完結です。