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3日にわたって降り続いた雨は、トウローン地区の植物を
すべてなぎ流すものだった。そびえる一棟の高層ビルだけが、
水浴びをした直後の悠然をたのしんでいる。
相馬は、丘の絶壁からそれを眺めていた。
「ヒュー、こりゃ神の裁きでも下ったのかね。すげえ光景だ」
はしゃぐ男子を制して、紗々が冷静に分析をはさんだ。
「神の力、それはあながち間違ってないよ。もっとも、“神”は私たちの
味方ではないようだけど。エイドタワーの周りを一掃する光臨、でしょうね」
光臨、と呼ばれる大規模災害。政府の発表では、テイリス系企業の
地下組織がテロ行為を行っているそうだ。しかし相馬たちは、これが
ガルモア政府の事業なのを知っていた。移動の自由など無く、ほとんどの人は
一生を産まれた地区で過ごす。孤児にならない限りは…。
「オレたちってさぁ、運が良かったのかなあ」
「良くないと思うよ、確実に」
「………だよな」
親がいなくなり、公式の記録すら消えたまま、体一つで存在する子ども。
彼らは自分たちを、光臨の観察者や光見と呼んで
オオカミそっくりの生態で暮らしていた。