緑子 ヒーローの助手になる
あいにくの空模様ではあったが、雨が降るまえに会社に到着した緑子は、机のまわりを軽く掃除しながら今日の仕事のスケジュールを頭の中で組み立てていると、彼女の上司である課長の立花が話しかけてきた。
「渡来君今日の予定は把握しているかい?」
「なにか特別な事ってありましたっけ?」
小首をかしげながら緑子は課長に問いかけた。
「ほら、特務対策課が新たに人員を増員するためのテストを社員全員が受けることになっているじゃないか。 うちの課は今日だって先週通達したはずだよね?」
そう言われ緑子は思い出した。
「あっ……すいません忘れてました、でも特に用意するものはなかったですよね?」
「そうだな、とりあえず動きやすい服装で特務対策課を訪ねてくれ」
「はい、分かりました」
そう返事をして緑子は着替えるために更衣室へと向かった。
「あら、緑子じゃない」
そう声をかけてきたのは友人で特務対策課のオペレーターでもある小柄で可愛らしいメガネっ娘の|
白鳥美海であった。
「おはよう美海、そっちは今から仕事?」
「夜勤明けなのよ……今からかえるとこ」
と少し眠そうに美海は答えた。
「あら、それはお疲れ様……なんだか疲れてるわね」
「昨日襲来者の王を名乗る個体が現れたって特務対策課がパニックになってね……それ以外にも襲来者以外の特殊生命体も現れたとかでもうクタクタよ……」
身に覚えがありすぎるが、表情に出さないように努力し
「そ……それはタイヘンダッタワネ」
となんだかおかしな日本語になりつつ緑子は美海を労った。
「そのおかげで早急に増員をかけることも決まったし、もしかしたら緑子と一緒に特務課で働けるかもね」
とニッコリ微笑んだ。
「やぁねぇ、私に特務課なんて務まるはずないじゃないの」
緑子はおどけて答えたが美海は
「そうかなぁ?緑子割と運動得意そうだし案外いけそうじゃない? ……あ、ヤバ!待ち合わせの時間に遅れちゃう! 緑子またねー」
と美海は慌ただしそうに更衣室から出て行った。
「いつもながらに騒がしい子よね……私も準備していかなくちゃ」
と特務対策課へ向かうのだった。
* * *
「諸君!良く来てくれた。 私がこの特務対策課の長であり、このマッドブレイン社の社長でもある小村烈だ。 早速ですまないがこれよりテストを開始させてもらう! さぁ始めてくれ!」
その声と同時にテストを受けるために待っていた人たちの足元の床が消えた。
「はぁあああああ?」
その声と共に消えた床の下へ落ちていく緑子、まるでダストシュートにでも飛び込んだかのように滑り落ちていく、それほどの間もなくたどり着いた先には泥沼のような茶色の小さなプール。
「冗談じゃないわ!」
と素早くジャンプして池をよけて着地するが、同様に落ちてきた者たちは半分以上プールにボチャボチャと落ちて行った。
「はい、池に落ちた人はもう結構です。 シャワールームへご案内しますから係の者についていってくださーい」
とスピーカーから社長の小村の声がした。
「落ちなかった方は反射テストがおわりましたので、近くにいる方と組手を行ってください」
といきなりとんでもない事をいいだす。
だが一般の会社員に組手しろなどと突然いわれても困惑するものばかりだ。
「あの……ちょっとよろしいですか?」
と緑子は手を上げる
「ん?どうしたのかなお嬢さん?」
「私達事務員なんですけど組手しろっていわれても……」
その声に小村は向う側でなにやら話し合ったようで
「あーゴメンゴメン今日は事務方のほうからのテストだったのか、そりゃあいきなり申し訳なかったね。 じゃあ武道の心得なんかがある人だけ残ってもらってあとはこちらの事務方の増員候補として面接だね」
と誘導係がやってきたので緑子も着いていこうと歩き出した。
「ちょっと待ちたまえ」
小村の声がする
「先ほど声をあげてくれたそこの女性……渡来緑子君か、君は残ってくれ」
と呼び止められた。
「え……なんで私が残されるんでしょう?」
「君武道の心得あるでしょ? 池の飛び方もだけど歩き方でわかるんだから隠してもムダだよ」
と言われてしまった、面倒ごとにまきこまれたくなかったのに……と思ったが渋々会場に残る緑子。
「私簡単な護身術くらいしかできませんけど……」
「それならそれなりに必要とされる部署があるからテストはちゃんと受けて」
「はい……」
「では残ったものでテストを再開する! 今回は5名か……じゃあそれぞれ二人組を作ってくれ、残
ったものはこちらの職員とやってもらう!」
と、伝説の恐ろしい呪文『二人組』を唱えた社長。
見たところ緑子以外は全員男性だった為、当然のように一人残される緑子。
「さて、じゃあ俺の相手はそこのオネーサンでいいのかな?」
どこかで聞いた声に振り向くと、昨日みたメタルバンの中身の男がいるではないか。
「げっ!」
緑子は思わず声がでてしまった。
「何?オネーサン俺が相手じゃ不満なわけ?」
不満そうな顔で緑子を見ている男。
「いえ……そんなことは、突然強そうな男の人が出てきてビックリしちゃって……」
と、適当な事を言ってごまかす。
「えっ? あ、そう! やっぱりわかっちゃうのかなぁ、オネーサン見る目あるねぇ!」
となんだかわからないが男は浮かれだした。
「あ、あの……渡来緑子です。よろしくお願いします」
とりあえず自己紹介をしておく緑子、男は思い出したように
「あぁゴメン! 俺の名前は鋼爆覇だよろしく!」
と自分の頭の横でチョキのようなポーズをとっている爆覇、カッコいいと思ってるのかな
それ……と内心思ってはいたが大人なので口には出さず
「お手柔らかにお願いしますね」
とニコリと微笑んでおいた。
「大丈夫手加減するから! じゃあ早速いくよ!」
と爆覇は構えた。
緑子は構えを取らずに静かに立っている、そこに爆覇が一気に距離を詰めて突きを放つ。
緑子は爆覇の突き出した手首を外側にパァンと弾き、その勢いのまま突っ込んできた爆覇のあごを下から平手で持ち上げるように腕を突き上げた。
「ゲフッ」
という声とともに後ろに倒れ込む爆覇、さすがに自分から倒れ込んで勢いを殺したようだが、喉に衝撃を受けたせいでゲホゲホと咳が止まらないようだ。
「あの……大丈夫ですか? まさかただ勢いのままに突っ込んできただけだと思わなくて……」
とさらに爆覇の傷口をえぐるような言葉をかけていく。声もだせず涙をためて悔しそうに緑子を見ている爆覇に
「そこまでだ! 勝者は渡来君!」
と社長から声がかかる。
二人の組手を見ていた者たちが一斉にワッと歓声を上げる。
「渡来君凄いじゃないか、まさか爆覇に勝てる逸材がいるとは……」
と小村社長がいう。
「いえ……女性相手ということで油断しただけかと……」
「それは猶更許されない。 性別も年齢も関係なく敵と判断したら全力で戦わねば真のヒーローとは言えないだろう!」
「あの……私敵じゃありませんよ……?」
「それでもだ! 敗因が油断なんてヒーローとしてかっこ悪すぎるだろう!」
となにやら力説しはじめた小村社長。
「とにかく、渡来君は爆覇に勝った、これは事実だ。 そしてその男はこの特務対策課最強の男である、だから君は彼のパートナーとして今後活躍してもらう事にするよ!」
と小村社長が叫んだ。
「は? ちょっと意味がわからないんですけど……なんでパートナー?」
「君は爆覇と組手をしてみて何を思った?」
「そうですね……あまりにも素直すぎるというか、攻撃が単調すぎるというか、丸わかりすぎてこんな攻撃に当たる人間いるのかなとか色々思いました」
「ぐうううううう」
まだ声が出せない様子の爆覇が涙声で呻いている。
「その通りだ、彼は戦闘スーツの性能を限界を超えて引き出す能力を持っているがゆえに戦闘スーツの性能頼みの戦い方しかしてこなかったんだ、きちんと訓練を受ける意思もあまり感じられなくてね……今回の事で多少なりとも慢心していたことを反省してほしいんだ」
トップシークレットであるメタルバンの情報を、いきなり話し始めた小村社長に緑子は焦ったが周囲を見回しても誰もおらず、あぁこれはハメられたな……と密かに思った。
「気が付いたみたいだね? わが社にして国の機関でもある特務対策課のトップシークレット『メタルバン』が彼、鋼爆覇だよ。 申し訳ないがこの情報を聞いた君に拒否権はない、今日からメタルバンの助手として頑張ってくれたまえ!」
と、高らかに宣言されてしまった。
頭痛をこらえるように額をおさえていた緑子だったが
「助手ってなにしたらいいんです?」
「最優先任務はメタルバンを鍛えることだな、とりあえず色々な戦い方を仕込んでやってくれ」
「流石にそれは専門家にたのんだほうがいいのでは……」
「追々考えるとしてとりあえず緑子君に任せたいと思う。 なにせ自分を負かした相手だからな、言う事を聞く気にもなりやすいだろう」
「私なら絶対イヤですけど……」
「まぁそういう事だから! 社長命令!」
「……はい。」
そんなやり取りをしていたら館内に非常ブザーの音が鳴り響く
『都内より緊急通報あり、全職員及び特殊戦闘隊は直ちに配置についてください詳細は……』
とアナウンスが流れだした。
「これは早速お仕事の時間のようだね、爆覇と緑子君も現場へ向かってくれ」
「え?私この恰好でいくんですか?」
「今回は時間がない! 爆覇も早く準備しろ!」
と小村社長は急かした。
「はぁ……なんでこんなことに」
と真っ赤なジャージ姿で緑子は現場へ駆けつけることになったのだった。