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転生忍者少年はダンジョンに挑む  作者: 田舎暮らし
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第二話 村からの脱出

 セディルは、五歳になった。

 彼を取り巻く状況は変わらず、寧ろ悪化の一途を辿っている。

 今や、村長の家に『悪魔の子』がいる事は、村では公然の秘密となっていた。

 おりしも、今年は村内で不幸が続いている。

 家畜が病気で死んだり、知られていない病で村人が死んだりしたのだ。

 偶然と言えばそれまでなのだが、迷信深い無学な村人にとっては『不幸』を呼び込む必然、『悪魔の子』が存在するのだから、疑いの目は当然のようにセディルとセディナの兄妹に向けられてしまうのであった。

 最近ではその不穏な空気を幼心にも感じ取ったのか、セディナが不安そうに兄の背中に隠れに来ていた。


 「冗談じゃないよね……」


 自身も村人達の不安や憎悪を家の壁越しにヒシヒシと感じ、セディルは忌々しそうに思いを口に出す。

 このまま、さらに村に災厄が起これば、彼らの不満と恐怖は容易く暴発し、幼い兄妹を排除する方向に向かうだろう。

 今やその予測には、疑う余地が無い。


 (そろそろ、潮時か……。だけど二年掛けて練習しても、扱えるようになったのは『一般魔法』だけ……)


 セディルは、向い合せた両手の平に意識を集中する。

 世界のあらゆる場所に漂う『魔素』という元素を力の根源とし、不可思議な現象を引き起こす事が出来る力を『魔法』と呼ぶ。

 今彼が練習しているのは、その中でも最も簡単で、魔法を扱える者や素質のある者なら誰でも使えると言われている、『一般魔法』と呼ばれる簡易な魔術であった。


 意識の集中によって、セディルの手の平の間に、ポッと小さな火が点る。

 可燃物に火を点ける第一レベルの一般魔法、【発火】だ。

 他にも水を創造する【給水】や、部屋を換気したり舟の帆を押す程度の風を起こす【送風】、壊れた品物を直す【修復】等々いくつかの種類がある。


 (既存の一般魔法は最高位まで、『魔法レベル』10まで全て習得した。でもこの程度の力じゃ、戦いの役には立たないか……)


 確かにセディルは、魔法を使えるようになった。

 たかが一般魔法とはいえ、僅か五歳で知られている全ての魔法を習得したのは驚異的、と言って良いだろう。

 これは『何か』がくれた『特別な力』の影響ではないかと、セディルは疑っている。

 しかし同じ魔法でも、冒険者である『魔術師』や『僧侶』が使う魔法の威力や効果は、こんなものではないという知識も彼の中にあった。


 世界には一般魔法の他に、大きく分けて、その二つの職業に就く者達が習得する魔法が知られている。

 『魔術師』と呼ばれる術者は、古代から伝わる『力ある言葉』を用いて様々な事象を変化させる魔法を扱う。

 『僧侶』と呼ばれる聖職者は、神への信仰を糧に、超越的な存在である『神々』から力を借り受けて発動する魔法を使用する。

 魔法はそれら以外にもあると言われているが、広く知られているものは、この『魔術師系魔法』と『僧侶系魔法』の二系統だけであった。


 (いくら『何か』がくれた知識でも、今はこれが限界だ。僕がこれ以上強くなるには、どれかの『職業』の専門家に訓練して貰うしかない)


 冒険者と呼ばれる者達は、全て何らかの『職業』に就いている。

 強力な武器や重い鎧を使いこなし、前衛で戦う『戦士』。

 軽装を纏い、短剣や弓矢を扱い、罠を見つけ解除し扉の鍵を開ける『盗賊』。

 傷の回復や身の守り、生と死を操る神の使徒たる『僧侶』。

 古の力ある言葉を学び、神秘と破壊の魔法を多く扱う『魔術師』。


 有名なのは、これら四種の『職業』だろう。

 だが冒険者の職業は、これだけではない。

 これら四種の『基本職』からは、様々な職業が派生している。さらには職を複合して生まれた、上位の強力な職業の存在も知られている。


 (僕が就くとしたら、どんな職業が良いかな……)


 セディルは、自分が望む職を夢想する。


 「どうせなら、前衛で戦えるように強くって、当然魔法も使えて、一人でも冒険して生きられるように盗賊系の能力も持っているような、最強の職業が良いんだけどなぁ~」


 随分と虫の良い望みだが不可能ではない、とセディルは思っていた。

 あの『何か』がくれた『特別な力』とやらと、運命へのボーナスという言葉が真実ならば、これからの彼の人生に於いて、何らかの都合の良い出会いがあったとしても不思議は無い。

 それに、実際のところ彼の身体は五歳児にしては良く動く。

 外には出して貰えないので確かめる事が出来ないのが残念だが、『何か』がくれたセディルという身体の基本能力は、異常に高いようだった。


 (それを確かめる為に、【ステータス】を見たいんだけど……。こんな田舎の村には、その道具が無いんだよ……)


 この世界には自分の基本情報と、現在の能力を数値で表す【ステータス】情報が存在した。

 それを見れば、セディルが与えられた『特別な力』とやらの内容も判明する筈なのだ。

 しかしそれを見る為には、専用の道具が必要になる。

 珍しい物ではないのだが、冒険者や国の関係者以外には余り必要のない道具なので、セディルのいる村にはそれが無かった。

 

 (村を出るとしたら、まずは街に行って、職の事を教えてくれる冒険者を探さないとだね……)


 その道具は、冒険者なら多くの人が持っている。

 冒険者に会えば、セディルも【ステータス】を知る事が出来るのだ。


 (折角の第二の人生、死ぬのは勿論、退屈で長閑な生活も望まない。僕は強くなって、世界のあらゆる場所を巡るんだ!)


 生まれ変わったセディルが持つ、唯一無二の野心。

 それが『力』と『冒険』である。

 それらを得る為にも、セディルはこの村で死ぬ訳には行かないのであった。 




 それから、いくらも時間が経っていない、ある日。


 「ハァ、ハァ、ハァッ!」


 幼い妹の身体を背負ったセディルは、森の中をひたすらに走っていた。

 低い藪が行く手を遮り、太い木々の枝が日光を遮って視界も悪いが、今の彼にそれらを気にする余裕は無く、背中に伝わるセディナの体温だけを感じてセディルは走る。


 破滅の日は、唐突に訪れた。

 いつものように、セディルは村長の家の中でこっそりと『一般魔法』を練習していた。

 最近では片時も彼の傍を離れようとしないセディナも、じっと黙って兄の発動させる魔法を見つめている。

 その時、『悪魔の子』を一目見ようと肝試しにやって来た村の愚かな子供達に、魔法の練習をするその現場を見られてしまったのだ。

 運の悪い事に、セディルが使っていたのは、仕留めた獲物を切り分ける第八レベルの一般魔法【解体】だった。

 偶々、家の中で死んでいた鼠を見つけたので、その死骸に魔法を掛けてみたのだ。

 【解体】魔法の力を受けた鼠の死骸は、瞬く間に、皮、肉、骨、血、内臓とに分離し、それらが綺麗に床の上に並べられた。

 練習は成功。

 しかしその光景を目にした村の子供達は、悲鳴を上げて逃げ出してしまった。

 たかが鼠を魔法で解体しただけだが、迷信が堂々とまかり通るこの村では、悪魔兄妹が二人揃って邪悪な儀式でもしていたと思われたらしい。


 結果、村中の人々がセディルとセディナへの恐怖でパニック状態になり、武器にもなる農具を振り上げて、村長の家に村民達が押し掛けて来たのだった。

 彼らの要求は唯一つ、『悪魔の子』達の死である。

 そして村人と同じく恐慌に狂った祖父は、セディルとセディナを殺す事に同意し、娘である彼らの母親に兄妹を呼びに行かせた。


 セディルは、その時の母親の苦悶に満ちた顔を見て、全てを理解した。

 ここが限界だと。

 母親にも、もう自分達を庇う覚悟は無い。そう判断したセディルは、即座に妹と共に村長宅からの脱出を図った。

 こんな状況も想定して、セディルは最小限の荷物を見えない空間に物を収納する第四レベルの一般魔法【大袋】に入れて、用意していた。

 セディルは台所に行き、テーブルの上にあった食べ物を見えない袋に入れると、セディナを背負って窓から外へ飛び出し、裏手の森の中へと逃げ込んだのであった。




 肉体的にはまだ幼いセディルだが、その身体能力は、やはり並みの五歳児とはかけ離れた異常なものだった。

 大人でも移動に苦労する森の中を、自分と同じくらいの体格の女の子を一人背負っているにも関わらず、狼のように軽やかに走り抜けて迫って来た村民の集団から逃げ延びたのだ。


 (でも、まだ油断は出来ない……)


 セディルは知っていた。

 村には森で動物を狩る、『狩人』がいる事を。

 臆病な村人達は森の奥には入って来ないだろうが、猟犬を伴った狩人達はセディル達兄妹を殺す為に追って来る筈であった。

 犬に匂いで追われない様に、第六レベルの一般魔法【消臭】で二人の身体から出る匂いは消しているが、足跡までは消し切れていない。

 熟練の狩人と猟犬ならば、それを頼りに着実にセディル達を追い詰めて来る筈だった。

 セディルはなるべく足跡を残さないよう、森の中の土や苔を踏まない様にし、岩場を見つければそこに飛び乗って狩人を撹乱した。


 やがて夜になる。

 流石に狩人達も、夜の森で行動はしない。

 セディルも体力を回復させる為に、休息を取る事にした。

 今彼が頼る事が出来る力は、自身の身体能力と僅かな力の一般魔法だけ。

 セディルはその内の一つ、第二レベルの一般魔法【土穴】を使い、地面に穴を掘った。

 本来は野外でゴミを埋めたり、排泄する際に使う穴を掘るだけの魔法だが、セディルは子供二人が入り込める大きさの穴を作り出す。


 「お兄ちゃん……」


 親に見放され、狩人に追われて危険な森の中に逃げ込んだという絶望的な状況の中でも、セディナは兄にしがみ付いて不安そうな声を出しただけで、泣き喚いたりはしなかった。


 (正直、助かる。ここでセディナが泣き出したら、僕も終わりだから……)


 兄のセディル同様、セディナも普通の子供とは言えない程度に賢く、そして異常であった。

 見えない空間から羊毛で作ったフェルトの毛布を取り出し、妹と一緒にそれを被って土中に入る。

 さらに周囲から落ち葉を集めて身を隠すと、第五レベルの一般魔法【蟲避】を使った。この魔法は自分の周囲から小型の虫を遠ざける効果を示す。

 二人の周りから嫌な虫達が、一斉に逃げ出して行った。

 これで、毒虫に刺される心配もない。

 腐葉土の匂いが鼻孔を刺激するが、取り敢えず今夜の塒は確保出来た。


 第一レベルの一般魔法には、明かりを灯す【照明】の魔法があるのだが、何かを呼び寄せる恐れのあるここで使う訳には行かない。

 セディルは僅かな月明かりを頼りに持って来た荷物の袋を開け、台所からくすねて来たパンとチーズをセディナに食べさせる。    

 飲み物は持って来られなかった為、第二レベルの一般魔法【給水】を使い、飲み水を作り出す。

 セディルは手の平にちょっとずつ水を溜めながら飲み、コップ一杯分くらいの水を作り出して喉の渇きを癒した。

 そして大きなパンから小型のナイフで自分の食べる分を切り取ると、それに噛り付く。


 「お兄ちゃん、喉、渇いた」


 パンを食べ終わったセディナにも、水を飲ませてやる。彼の手の平に溜まった水を、セディナはコクコクと飲み干した。

 真っ暗な森の奥から、意外な程豊富な種類の音色が聞こえて来る。

 梟の鳴く声、虫達の蠢き、風が木々の間を吹き抜け、枝々を揺らす音。

 それらに混じる、得体の知れない獣の咆哮や、気のせいだと思いたい不気味な人語の囁き。

 自分達の身体から出る音を減らす第七レベルの一般魔法【消音】の魔法を掛けている為に、森の彼方から聞こえる恐怖の音が、二人の子供の耳にもハッキリと届いて来る。

 落ち葉の中で妹の頭を胸元にギュッと抱き締め、セディルはようやく一息吐いた。


 「怖くないか、セディナ?」


 泣かれないように、セディルは妹に声を掛ける。


 「怖いけど……、お兄ちゃんと一緒なら、セディナ大丈夫だよ」


 大きな黒瞳に涙を溜めつつ、セディナは兄の胸元から顔を上げる。

 インチキ幼児のセディルと違って、本物の幼女であるセディナにとっては、それが精一杯の強がりのようだった。


 「うん、お兄ちゃんが付いているから、大丈夫。疲れたから、一緒に寝よう」

 「うん……」


 大丈夫と言うのは大嘘だが、ここではそう言うしかなかった。

 それでもその言葉に安心したのか、セディナは彼の胸に顔を埋め、すぐにスヤスヤと静かな寝息を立て始める。

 妹が眠ったのを確認し、セディルはふと空を見上げた。

 枝々の重なりの隙間から、微かに星空が覗いている。

 そこには、前世の記憶にあるものよりも遥かに大きく見える、丸い月が浮かんでいた。

 見慣れぬ夜空の星々の連なりに、迫り来るような大きな月。

 それは、この世界が間違いなく異世界だと、セディルに認識させる。


 (こんな所で、殺されてたまるか……。僕はまだ、この世界を何も見ていないんだ!)


 その思いを糧として、セディルは妹の身体を抱き締めて夜の闇の恐怖に耐えるのであった。

       

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