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転生忍者少年はダンジョンに挑む  作者: 田舎暮らし
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第十話 妹との別れ

 男は隊商宿の貴賓室で、一人の女と向かい合っていた。

 年の頃は、三十代の半ばだろうか。豊かな黒髪を丁寧にネットで纏め、ゆったりとした服を着た端正な顔立ちの美女であった。

 二人はそれぞれ椅子に座り、磨き上げられた黒檀製のテーブルを挟んで見つめ合っている。テーブルの上には磁器のカップが二つ置かれ、温かい紅茶が湯気を上げていた。


 「まさか、お前がいるとは、な……」


 予想していなかった再会に、男は少し戸惑ったような言葉を口にする。


 「意外だったかしら?」

 「いや、お前がここにいたのなら話は早い。何より、手間が省けた」


 男はセディナを預ける為に、この隊商宿にやって来た。

 そして目的の商隊に接触し、用件を告げようとした時、セディナを預けようと思っていた当の本人である商家に嫁いだ昔の仲間に出くわしたのである。


 「ちょうど子供達も独立して、私も暇になったのよ。だからこうして商隊と一緒に、小旅行を楽しんでいる訳なの」

 「なるほど、お前の旦那は寛大な男だったからな」


 男は、彼女の結婚相手だった商家の若い跡取り息子の事を思い出す。あれはもう、遠い昔の出来事だった。


 「それにしても、あなたは余り変わらないわよね」


 女は微笑みながら、男を見つめた。

 その鋭い眼光、鍛え抜かれた分厚い肉体、老いを寄せ付けない若々しい顔立ちは、彼女の昔の記憶にある男の姿そのものだった。


 「お前は、随分と変わったがな……」


 男は半ば呆れたように息を吐き、女の今の姿を眺める。

 上品な手付きでカップを摘み、紅茶を優雅に飲む女は、落ち着いた雰囲気を漂わせる清楚な奥方様にしか見えない。

 大商家の奥方として、何も不足しているものは見受けられないのだ。


 「私達六人がパーティを解散してから、もう二十数年も経つものね。人だって変わるわよ。私だって、今でも付き合いがあるのは、あなたともう一人の彼の二人だけだもの」


 女は遠くを見つめ、昔を懐かしむ。

 彼らはかつて、仲間としてパーティを組んでいた冒険者だった。

 幾度もの冒険を共にし、多くの強敵を倒し、未知の遺跡を踏破した。彼らは皆若く、力と才能に溢れ、怖れを知らずに戦いに挑んだ。

 自分達六人が揃っていれば、無敵だと信じていたのだ。


 だが、それも昔の話。

 今の男は、ただの貴族の別荘の管理人であり、女は商家の主人の奥方だ。

 他の仲間達も、それぞれの道を歩んでいる。


 「それで、私に用があるなんて、あなたにしては珍しい事よね。何の用なのかしら、『ライガ・ツキカゲ』?」


 彼女は、男が捨て去った名を呼んだ。


 「……八年前の用と同じだよ、イルメッタ・カリビング夫人」


 表情を変えずに、男が、いやライガが彼女の今の名を呼ぶ。


 「まあ、それじゃあ……」


 意味深な笑みを浮かべ、青い瞳をキラリと光らせるイルメッタ。


 「変な勘違いはするなよ。今度預けたい子は、ただの流民の女の子だ。偶々拾っただけだ。俺は女の子など育てられんし、他に預けられる当てもないからな」


 だからお前に預けるのだと、イルメッタの誤解を否定し、ライガは少し語気を荒げてそう言った。


 「ふーん、なるほどね」


 森で拾ったという奇妙な双子の兄妹の事情をライガから聞き、イルメッタは今度こそハッキリと笑い出す。


 「ふふふっ、あなたに女の子を預けられるのは、これが二回目ね。でも、そこまで否定するという事は……」


 イルメッタが少し目を細め、ライガを悪戯っぽく見つめる。


 「『実の娘』を捨てた男が、他所の娘を育てるなんて、流石にあの子への義理を欠いていて酷過ぎる。そんな事を考えているのかしら?」

 「……………」


 ライガは、その問いに何も答えない。眉の一つも動かさなかった。

 勿論それは、イルメッタの言葉を否定しているからではない。


 「あなたの娘なら、立派に成長して旅立って行ったわよ。もう三年前の話になるかしら。今では、両親と同じように冒険者をしているわ」


 彼女がそう語ると、ライガの顔が厳しさを増す。聞きたくなかった事を聞いてしまったように、忌々しそうに歯をギリッと鳴らした。


 「血は争えないわね」


 そんな彼の様子を見ても、イルメッタは優雅に微笑んでいる。

 或いは、楽しんでいるのかも知れない。


 「あの子、美しくなったわよ。今ではルナセイスに、あなたの妻に生き写しみたいにそっくりだわ」

 「ならば尚更冒険者になど、成るべきではなかったな。親と同じ愚か者の道を辿るとするなら、どうかしている……」


 語気を荒げたライガが鋭い目で、イルメッタを睨んだ。

 その目は、言葉を語っている。

 娘には自分達と同じ運命を辿って欲しくなかった。だから禍を呼ぶ自分から遠ざけて、お前に預けたのだと。


 「あら、言って置くけど、私は何もしていないわ。全てあの子が、自分で決めて自分で進んだ道よ。私にも、ましてや娘を捨てた親のあなたにも、あの子の人生に干渉する権利なんて何も無いものね」


 ライガの怒りを微風のように楽しみながら、皮肉を口にするイルメッタ。

 彼女もまた、只者ではない。

 彼ら六人がパーティを解散した時、全員が『マスターレベル』に達していた強者だったのだから。


 「パーティを解散した後、私はあの人と結婚して、あなたとルナセイスも結婚した。あなた達は夫婦になってからも、子供が出来てからも二人で冒険者を続けたのよね」

 「そうだ、そしてあいつは八年前に死んだ。俺が殺したも同然の状況でな。その時十歳だったあの子は……、一部始終を見ていた筈だ……。なのに何故、冒険者になった!?」


 娘の選択が理解出来ず、ライガは苦悩していた。

 テーブルに置いた拳が無意志に握り締められ、太い縄を纏めたような筋肉が膨れ上がって、頑丈な筈のテーブルが軋む音を立てる。

 冒険者をしていたからこそ、父が禍を呼び、母が死んだというのに、何故その娘が冒険者になど成ったのか。

 ライガには、その理由が判らなかった。


 (そんなの、簡単な理由なのにねぇ……)


 心の中でそんな事を思うイルメッタであったが、敢えて口には出さなかった。

 それはいつか、彼自身が悟らなければならない事だからだ。


 「それで、そんな駄目親だったあなたが、育ててみたい気になった子供っていうのは、どんな子なのかしら?」


 だから彼女が口にしたのは、別の事。

 妻の死以来、自らの力を封じるように無気力に生きて来たこの男の燻っていた魂の炎に、薪をくべるどころか、可燃性の液体を注ぎ込んだらしい子供がいる。

 この男に弟子入りを認めさせ、失われた職だった忍者を目指すという、前代未聞の快挙を成し遂げた謎の子供。

 イルメッタの次の興味は、その子に向いたのだった。


 「……一言で言うなら、『悪魔の子』としか表現しようがないな」


 ライガは大きく息を吐き、拳に込めていた力を抜くと、仏頂面でイルメッタにそう語る。

 彼が出会った子供には、正にこの言葉こそが似合っているのだった。




 隊商宿の外で待っていたセディルとセディナは、男に呼ばれて建物の中に入った。

 そして広い建物の中を歩き、二人は貴賓室に連れて来られたのである。

 その部屋の中で、セディルは一人の妙齢の婦人と出会った。


 「初めまして坊や達、私はイルメッタ・カリビング。あなたが師匠と呼ぶ男、ライガ・ツキカゲの昔の仲間よ。今は、ただの商人の妻だけれどね」


 そう名乗ったのは、三十代の半ばに見える、落ち着いた雰囲気の女性だった。

 かなりの美人でありながら、上品な仕草と優しそうな表情を浮かべた姿は、子供を安心させる包容力を持っている。


 「こんにちわ、イルメッタさん。僕はセディルと言います。こっちの子は、僕の妹のセディナです。二人共、五歳になりました」


 これから妹の保護者になる人に対し、セディルは背筋を伸ばし、丁寧な口調で礼儀正しく挨拶をする。


 「こんにちは、おねえさん」


 セディナも兄の真似をして、イルメッタに挨拶した。

 お世話になる初対面の相手なので、二人共包帯を外してそっくりの素顔を晒している。


 「あら、お利口さんね。誰に習ったのかしら?」

 「はい、親の教育の賜物です」


 本当のところは前世の記憶の残滓であって、彼は現世の親からは何も教えられていない。

 それでもセディルの笑顔には一点の曇りも無く、堂々とイルメッタにそう言ってのけたのであった。


 「なるほど、あなたがライガに囁いて弟子入りを認めさせた『悪魔の子』なのね」

 「はい、そうです。けど、駄目でしたか?」


 何故か世捨て人みたいに暮らしていた男を、弟子の育成とはいえ再び冒険者の道に連れ戻した事について、かつての仲間はどう思っているのだろうか。


 「いいえ、それで良いのよ。あの人、悪魔にでも囁かれないと、過去のイザコザから一歩も動かなかったでしょうから」


 男の為にも良い事をしてくれたのだと、イルメッタはセディルの事を認めてくれた。

 彼女も内心では、ライガがこのまま朽ち果てて行く事を、良しとはしていなかったのだ。


 「それで、あなたは良いのかしら? 私に妹を預ける事を、承知するの?」

 「はい、構いません。師匠の昔の仲間だって聞いていたので、どんな滅茶苦茶な人なんだろうと、最初はちょっと心配していました。でも、イルメッタさんに直接お会いしてみたら、とても上品そうな奥様だったので安心しました」


 セディルは良い意味で期待を裏切られ、内心ホッとしていた。

 相手は女性だと聞かされていたが、見るからに厳しい女傑のような人だったら、妹を預ける事を躊躇してしまったかも知れない。


 (精神的に落ち着いている感じの人だよね。師匠のパーティの仲間だと、回復担当の僧侶ポジションだったのかな?)


 雰囲気から判断すると、イルメッタの職業は癒し系であった。


 「判ったわ、その子は私が責任を持って預かります。大切に育てるわね」


 イルメッタはそう言って、セディナに柔らかく微笑んだ。


 「セディナちゃんって、言ったわね。ちょっと若く見えるけど、私はもうおばさんなの。大きな子供だっているのよ。気軽にイルメッタおばさん、と呼んでちょうだい」


 兄に擦り寄っていたセディナだったが、彼女に優しく話し掛けられると、口元をぎこちなくだが綻ばせた。


 「イルメッタおばさん……、お母さんと同じ匂いがする……」


 子供もいるという彼女から、セディナは優しい母親の気配を感じ取っていた。


 「そう言って貰えると、おばさんも嬉しいわね」


 イルメッタはニッコリと微笑み、セディナの柔らかい黒髪を優しく撫でてくれる。

 妹が彼女の事を怯えずに受け入れてくれて、セディルもやっと肩の力を抜く事が出来た。ここで両者に拒絶されては、今のセディルの力ではどうする事も出来ないのだ。

 セディルが師匠という新しい保護者を得られたのと同様に、セディナもイルメッタという優しい保護者を得る事が出来たのである。


 「それで、この子はどんな風に育てたら良いかしら? おばさんの子供は男の子だけだったから、参考までに聞かせて貰える?」


 短い間にセディナとの絆を築いたイルメッタが、セディルにそう訊ねる。

 妹を、どのように育てるか。

 それは、セディルにとっても重要な問題だった。

 彼は男の下で忍者になる修行を積む予定だが、首尾良く忍者に成れたなら、セディナを迎えに行くつもりでいるからだ。

 いずれは再会する予定である妹に、どんな女性になっていて欲しいかと、セディルは考えた。

 彼が妹に求める理想像のようなもの、それは今目の前にいる女性のような、癒し系の存在になってくれる事だった。


 「イルメッタさんみたいな女の子に、育てて下さい」


 結論を出したセディルは、彼女にそう言った。

 彼女のような女の子にセディナがなってくれれば、兄として非常に嬉しく感じるだろう。


 「まあ、私みたいな女の子で良いの?」

 「はい!」


 セディルは自信を持って頷く。


 「セディナは素直な良い子だから、大事に育てて下さい」


 素直で賢い妹だから、イルメッタに育てられれば育てられた通りに、間違いなく彼女のような女の子になる筈。

 セディルはそう確信して、イルメッタに妹を託したのであった。


 そして、妹との別れの時がやって来る。


 「お兄ちゃん……」


 ヒックヒックと喘ぐように涙ぐみ、兄に抱き着くセディナ。その妹を、セディルが優しく抱擁してやる。


 「大丈夫だよ、セディナ。大きくなったら、僕が迎えに行くよ。そうしたら、ずっと一緒にいられるよ。いつか、一緒に冒険にも行こう」

 「セディナ、お兄ちゃんと一緒にいられるの?」

 「そうだよ。セディナが、イルメッタさんみたいな女の子になれば、それに冒険者にもなったら、ずっと一緒にいられるよ」


 冒険には仲間が必要になる。

 セディナが僧侶にもでも成ってくれれば、一緒に旅する仲間が一人確保出来る。


 「本当?」

 「うん、本当」


 本心から、セディルは妹にそう言った。


 「約束するよ、セディナ」





 「話は終わったか?」


 部屋の外で壁を背にし腕を組んで待っていた男が、部屋から一人で出て来たセディルに声を掛ける。


 「はい」


 セディルは男の正面に立ち、深く頭を下げた。


 「妹の預け先を紹介して頂いて、ありがとうございます、師匠。イルメッタさんと師匠のお蔭で、セディナも安心して暮らして行けそうです」


 彼の因果な運命の巻き添えを食らった結果、生まれてからずっと家の中に閉じ込められていた可哀想な妹。

 その妹に、ようやくまともな保護者が出来たのだった。


 「イルメッタさん、優しい良い人ですね。師匠の仲間にも、普通の人いるじゃないですか」

 「……………」


 セディルにそう言われて、男は少々眉を奇妙な形に下げつつ沈黙する。

 まるで知らないなら、知らない方が良いと自分に言い聞かせているかのように。


 「ところで、師匠。師匠の本名は、ライガ・ツキカゲって名前なんですね?」


 イルメッタから聞いた、男の本名。

 名は捨てたと言っている今は、使われていない呼び名だった。


 「ああ……」

 「僕は、これからも『師匠』と呼んで、良いですか?」

 「好きにしろ」


 ライガは今まで通り、ぶっきらぼうにそう答えた。




 隊商宿の貴賓室には、イルメッタとセディナが残っていた。

 椅子に腰掛けたイルメッタの膝の上に、セディナがちょこんと乗っている。


 「それで、あなたはどうしたいのかしら?」


 それは八年前、彼女がライガの娘にしたものと同じ質問だった。


 「セディナは、お兄ちゃんとずっと一緒にいたいの……」

 「そうなのね。でもあの子は、ライガと同じ。冒険という魔物に、魅入られてしまっている男の子だわ……」


 あの短い会話の間に、イルメッタもライガ同様、セディルの異常さには気が付いていた。

 『悪魔の子』と呼ばれた通り、あの一連の受け答えは田舎の村で育った五歳の子供に出来るようなものではない。

 セディルの精神性は、明らかに普通の子供とは異質なものなのだ。

 それにあの子供は、冒険する事しか考えていないと、イルメッタは感じ取った。

 その為ならば、おそらくは無意識にだろうが、ありとあらゆるものを利用する事に全く躊躇する気が無い。

 半身である妹も、出会ったばかりのライガやイルメッタも、自分にとっての冒険をする為の協力者を得た、という認識なのだ。

 しかも、本人には全く悪意が無い。


 そしてそれは、ライガを超一流の冒険者に押し上げた動機でもあり、今の腑抜けた男に変えてしまった魔物でもある。

 ライガは、妻の死で一旦は正気に返った。

 しかし、それもいつまで続くかは判らない。現にセディルに囁かれ、彼を弟子にしてしまったのだから。 本人も言っていたらしいが、正に大いなる禍そのものと言えそうな、驚異の子であった。


 「じゃあ、セディナも冒険者になる。お兄ちゃんと一緒に冒険するの」


 冒険者の意味がまだ良く判っていないセディナだが、兄と一緒にいる為には、自分も冒険者になるしかない事には何となく気が付いていた。


 「イルメッタおばさんは、冒険者なの?」

 「昔はね」


 彼女が『女の子』だったのは、もう数十年も前の事。その頃の自分を思い出し、イルメッタは懐かしさに目を細める。


 「あなたが本当にお兄ちゃんに付いて行きたいのなら、冒険者に成りたいなら、鍛えて上げるわ。あの子にも、私みたいな女の子に育てて欲しいって、言われたものね」


 かつての自分、かつてのライガ、そしてその後に続こうとしているセディル。

 それでも、今のイルメッタに出来る事は、彼らを見守り、その望みの実現に力を貸して上げる事だけなのだ。


 「うん、セディナ頑張る! お兄ちゃんに言われたから、イルメッタおばさんみたいになるの」


 兄に言われた事。

 イルメッタのような女の子になり、冒険者に成れば、また兄に会える。

 いつまでも、ずっと一緒にいられる。

 その純粋な想いを貫く為に、セディナは彼女の顔を大きな黒い瞳でジッと見つめた。


 「ええ良いわ。このイルメッタおばさんがセディナちゃんを、大事に育てて上げる」

 「うん」


 セディナは、どこまでも兄に付いて行くだろう。

 ならば彼女がやるべきなのは、この女の子が兄の運命と狂気に食い殺されないよう力を付けて上げる事。

 その為にイルメッタは、セディナにかつての自分の技を余す事無く叩き込む事を決意する。

 忍者を目指す兄のセディルが『混沌』属性の持ち主という事は、双子の妹のセディナもそうである可能性が高い。

 であるならば、可能な筈。


 「あなたは私と同じ、立派な『人斬り』に成るのよ」

 「はい!」


 意味が判っていないが為に、セディナは素直な笑顔で頷いた。


 戦士系前衛職『人斬り』。

 それは東方に於いて、『侍』から派生した上位職の一つ。

 侍は、『秩序』と『中立』の属性を持つ者しか就く事が出来ない職だが、『人斬り』は『混沌』の属性を持つ者しか就く事が出来ない職である。

 侍は剣技と共に、魔術師系魔法を習得して操る事が可能だが、『人斬り』は魔法を習得するスキルは持たない。

 『人斬り』とは魔法を使わない代わりに、侍以上に剣技を極め、恐るべき威力の殺人剣を振るう能力を得る為の職なのである。

 特に、東方で生まれし最強の武器とも囁かれる片刃刀、侍の扱う『霊刀』と並び称される禍々しき凶器、『妖刀』を扱える唯一の職が『人斬り』だった。


 現在は大商人の奥方である、イルメッタ・カリビング。

 結婚する前の名は、イルメッタ・リンバルジ。

 冒険者達から奉られた二つ名は、『死斬血牙』。


 彼女はかつて、ライガ・ツキカゲともう一人の男と共に、三人でパーティの前衛を務め、数々の強敵を斬り殺し、深き血の海に沈めて来たマスターレベルの『人斬り』だった。

 こうしてセディル同様、妹のセディナもまた、冒険者となる為の師に出会ったのである。 

  

  


 

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[一言] イルメッタおばさん「包帯!?」
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