表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

桜並木を想う

掲載日:2018/03/15

まだ、まだだ。

逸る気持ちを抑えつつ、

いつも通る、まだ蕾をつけた桜並木のことを考える。


桜の花という、

大きな木に咲く、一つだけでは小さな花が、


視界いっぱいに広がる空に、

地面を固く守るアスファルトに、


こっそり、ひっそり忍び込み、やがて全てを薄桃色に染め上げる、



そんな奇跡をあなたに見せるためにやってくる。



桜の根はあなたの、目には見えない新しい可能性。

桜の幹はあなたの、幸せな未来を描くための記憶。

桜の枝はあなたの、風にも雨にも負けない誰かを想う気持ち。

桜の花はあなたの、これまでの頑張りを示す証。


ねえねえ、

いつもあなたが下を向いて、通り過ぎてしまうその空は、


この一瞬にしか咲くことのできない、

私たちにはこんなにも『美しく』見えるのだと、



あなたの心に教えてくれる季節がやってくる。



人生に優劣などないのだと教えてくれる人達は、


いつか、一瞬を全力で咲き、散っていく花々のように、

数え切れないほどたくさんいる。


生き様に勝ち負けはないのだと教えてくれる人達は、


皆、誰もが、花々が散った後になる

果実以上に素晴らしい。


風に乗って、雨に打たれて、儚く舞い散る花びら。

変わる必要も、変わらない必要も、必要としない。


そのままの私でいいの。


いつかは散っていくとわかっていながら、

今、この瞬間を咲き誇る矛盾も、


自分を捨てて変わることより、

ありのままの自分で前へ進んで行きたいと思うことも、


変化よりも、進化を望んだ自分も、


そのままを全部受け入れて、

上へ、先へ、前へ、進んで行くわ。


だって、私が生きた後に、実がなり、

また来年、あなたをあっと言わせるような、

綺麗な桜の花を咲かせるのだから。


そんな声が聴こえてきたから。

私も、二本の脚と、二本の腕、

全部合わせて一つの身体で、

全身を使って、


全力で風を切って、雨に打たれて、前へ進んでみようかな。


私の後にできるのは、何か分からないけれど、

ありのままの私を受け入れられたら、


過去も未来も現在も、

まるで桜の木の如く、

私という種がいつか大地と空を繋いで、


きっと何かいいものがなる()が、

私の心に私だけの()がなるのだと、そう確信が持てるんだ。


春にしか、桜の花は咲かないけれど、


夏も、秋も、冬も、

実は、桜はずっと、


春に、花を咲かせ、

初夏に、実をつけ、

夏に、木が持つ全てを緑の葉に変え、

秋に、葉を黄色や赤色に彩りながら、

冬に枝だけになってしまった木に、


これからの自身の未来を、託している。

生きている。


花がなくとも、桜はただただ逞しく生きている。

桜の『美しさ』に気がつくのは、


桜自身が自分の『美しさ』について、

桜自身で語るからではない。


桜の一途な生き方に、

あなたが『美しさ』を見出せる心を持っているから。



『そうなの。人間って不思議だわ。

春になると皆、私を美しいって言ってくれるの。

人間の、私を美しいと思ってくれる気持ちこそ、

私には素晴らしいものだと、美しいものだと感じるのに。』


桜は、いつも優しく教えてくれている。


桜の花に、

「今年も美しく咲いてくれてありがとう。」と言ってみる。


桜ははいでも、いいえでも、どういたしましてでもなく、


『ありがとう。あなたの心こそ美しく、素晴らしいわ。』と言った。


桜の土からはみ出した根に、

「踏んでしまってごめんなさい。」と言ってみる。


桜は許すでも、許さないでもなく、


『こちらこそ邪魔してごめんなさい。私は動くことは出来ないけれど、一生懸命咲き誇るから見ててね。』と言った。


あのとき、

桜が生きる、暗い公園の街灯で照らされたあなたの顔が、

『ありがとう』と言いながら、

笑顔とも泣き顔ともつかない表情で、


顔を抑える手の平に、頬に、


零れ落ちていった涙は、


街灯の、桜の薄桃の、柔らかな光を吸い込んで、

私の中にいろんな色を生み出して、

確かに涙の中で感情が生きていて、


今まで私が目にしてきた、


あなたの履いていたエナメルのピカピカの靴とも、

あなたが着てきたラメの入ったきらきら光る洋服とも、

あなたの耳でゆらゆら揺れるピアスとも、

あなたのばっちり決まった化粧とも、


ショーケースに飾られていたダイヤモンドとも、


どれとも違う『美しさ』と『素晴らしさ』を持っていた。


私にはその涙が、どんなものよりも『美しく』『素晴らしく』感じた。

ああ、これが『美しい』ということなのだ。

そう、『美しい』とは、『素晴らしい』とは、


こういうことなのだ。


桜は、長い時代(とき)の中で、常に『美しい』ものを、

『素晴らしい』ものを見ていたのだ。


私の中のわたしが、春風と共に喜びの声をあげた。



ありがとう。

あなたの『好き』が、

誰かを新しい世界へと導く扉になる。


ごめんなさい。

あなたの『嫌い』が、

誰かに自由の大切さを教える鍵になる。


さあ、桜並木を越えた先にある、

あなただけの鍵で、

あなただけの扉を開けよう。


桜の花はいつか散ってしまうけれど、

桜は散ることも含めて、生きている。


毎年春にだけ咲く桜の花を想う

あなたの心も、生きている。


桜並木を越えた先にある、

扉はいつでもあなたを待っている。


どれだけ時を経ようとも、どちらも『美しく』咲き誇る。


そんな風景を思い描く、


もうすぐ、もうすぐだ。

私の心は躍ってる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 桜の花だけではなく、幹や枝などの全体に意味を与え、春以外の美しさにも目をやっている部分に感銘を受けました。 昔、私は、「私にとって桜は幸福の花」と言った方の言葉に感心をしつつも、花ばかり、花…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ