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その6

 こちらはフィクションです!


 2017年最後を締めくくる投稿となりますので、ぜひともよろしくお願いいたします!


 高校生位の女性から突然声をかけられた森は、相手にその場で待っているよう声をかけて、新町に話しかける。

「新町3佐、彼女は呉の知り合いなんです!ちょっとだけ話してきたいので、その間だけ白川さんをお願いします!白川さん、理工学館へ新町3佐と逃げないでくださいよ!!」

 強く念押しされた白川は、嫌々ながらも逃げないことを約束し、それを見ていた新町はその様子が面白かったのか腹を抱えて笑いをこらえている。

 それを見ながら森は白川の方に行かないよう、急いで少し離れている女性に向かって駆け出した。

 幸い、白川は新町に隠れるような位置であったため、女性は白川に気付かなかったようである。

「ナミちゃんじゃない!!お久しぶり!何で防大に来てるの!?たしか、呉だったよね!?」

 森はそう言いながら、ナミと呼んだ女性と手を取り合って再開を喜ぶ。

 この女性、小谷ナミは夏の呉基地での艦艇公開の時に偶然白川と出会い、白川は森と共に小谷へ艦内の案内を行っていたのである。

 それと同時に小谷は民間人で唯一、白瀬(白川)の本名を知っている人物でもある。

「森士長、艦艇公開ぶりです!広島地本さんから自衛官志望者向けの防大ツアーがあるって聞いてて、ここでの申し込みで0900(マルキュウマルマル)から参加してたんです!それと、明日の晴海での“しらせ”出港の式典も絶対見たいので、ちょっと無理しちゃいました!」

「そうだったんだ!見送りしてくれるなんてありがとう!って、まさか防大受験するの!?ていうか、広島からなんで朝に間に合ってるの!?学校は!?」

「実は防大と航空学生(航学)も受験はするんですけど、本命は一般曹候補生と自衛官候補生です!それで間に合った理由ですけど、部活はだいぶ前に引退してたので、授業終わってすぐ広島空港から飛行機で羽田まで行って、横浜の親戚の家に泊まってからここへ来たんです!」

「そっかあ。でも、もし防大や航学受かっちゃって、曹候補落ちちゃったら諦めるの?」

「防大はどうするかまだ決めてませんけど、航学なら当然岩国の“しらせ”飛行科ヘリパイ目指しますよ!」

「えっ、すごっ!?CH-101のヘリパイ目指すの!?ナミちゃんの『しらせ一筋』、徹底してるよ!?」

「それもそうですよ!必ず行くって白瀬1尉と森士長とも約束しましたからね!」

 CH-101は“しらせ”の艦載用輸送ヘリコプターで海自岩国航空基地に所在する“しらせ”飛行科所属で、横須賀地方隊の直轄である。

 横須賀地方隊直轄であるのにも関わらず岩国航空基地に所在している理由は、海自航空集団第111航空隊のMCH-101と同型機であるため、整備や訓練・教育の利便性を考慮して岩国基地へ配置されたのである。

「その白瀬1尉の事なんだけど、このままで事情を聞いてくれる?」

「白瀬1尉がどうかされたんですか?」

「実は・・・」

 小谷と森は互いに再会したことに興奮を隠しきれず、両手を取り合ったまま再会を喜びあっているように新町に見せながら、白川の事を説明し始める。

 白川はそれを邪魔しないようにかつ、森が根回しを終えるまで少し離れて見ていようとしている。

 数日前から白川達が考えていた取り決めで、レアケースであると思いつつ、万が一白川(白瀬)の事を知っていて、艦長達の取り決めを知らない人物に会ってしまった場合、事情説明のためにそうするようシミュレーションをしていた。

 森は使うことになるとは思っていなかったのだが、思わぬ所で想定が役に立った事になる。

 新町はというと急な事で事態を飲み込めず、白川に事情を聞こうと肩を叩いた。

「あのナミちゃんって子、呉からわざわざ来てるの?」

「僕も今日来てるって全然知らなかったけど、どうもそうらしいねぇ?小谷君は南極観測船・・・もとへ、()()()“しらせ”を志望していてねぇ。成人式を南極圏で迎えたいっていう夢を持っているんだよねぇ。」

 新町は白川の言葉に違和感を覚えなかったのだが、何かが引っ掛かったのか白川の言葉を思い出し、引っ掛かりを覚えた正体に気付く。

(ああ、()()()じゃなくて、()()()だからか。聞き慣れてるからスルーしちゃう所だったよ。ふ~ん・・・それにあの子と呉でも会ってるのか・・・。)

 森と小谷を見ていた新町は、もう1つの引っ掛かりに気が付くと、こちらは白川に質問をする事にした。

「そうだ、緑ちゃん?ちょっと気になったんだけど、さっきなんで“()()()”って言い直したん?あれだけ“()()()()()”にこだわってた筈なのに。」

「それはねぇ、新町君?小谷君は海上自衛官を志望しているからなんだよねぇ。越冬隊を志望しているなら“南極観測船”が適切だけど、自衛官志望なら“()()()”が適切だと、僕は思うんだよねぇ?」

「ああ、そう言うことかあ。・・・なるほど、そう言うことな訳かあ。」

「そう言うことな訳なんだよねぇ。」

 白川と新町が話を終えると、それを待っていたように小谷が白川に声をかけてくる。

「お久しぶりです、白川さん!あの時は私と一緒に“しらせ”を見学していただいて、ありがとうございます!」

 小谷が一礼して握手を白川に求めると、白川は両手で握手に応じる。

「お久しぶりだねぇ!小谷君とここで会えるなんて、とても凄い奇跡だねぇ!!」

 白川は小谷と握手したまま少し引き寄せ、軽く驚く小谷とハグをする。

 新町はその様子を見て2人が姉妹のように見えたのだが、白川が小谷と比較して背が低く見えたために小谷がお姉さんのように見えていた。

 そしてハグを終えた白川は、新町と小谷をそれぞれに紹介すると、それぞれ2人は互いに自己紹介する。

「小谷君!()()()僕が新町君に防衛大学校の特別ツアーしてもらっているんだよねぇ!あ、でも小谷君は、地本さんのツアー中らしいねぇ?一緒に行けないねぇ・・・」

 白川は少し寂しそうな表情をすると、小谷は笑顔でこう答える。

「大丈夫ですよ、白川さん!ツアー自体はもう終わって自由行動なので、一緒にまわれますよ!」

 そんな白川と小谷のやり取りをそばで見ている新町は、白川に対して感じている違和感のようなものが拭えずにいた。

(『()()()僕が』・・・かあ・・・。そう思って見てるからか、なんでも引っ掛かっちゃう・・・)

 新町が物思いに耽っていると、小谷が自分の方を向いているのに気付き、すぐ思考を中断する。

「新町3佐、私も参加してもよろしいでしょうか!?」

「いいよ、ナミちゃん!訓練展示が終わったら、1大隊と3号館も案内してあげる!それから、武山の通信学校の教官してる後輩も午後から来るっていうから、紹介してあげるよ!陸の通信はいいよ!!興味あるなら話だけでも聞く!?」

「えっ!?あ、えっと・・・」

 突然の新町の勧誘に、小谷は困惑したまま視線で白川に助けを求める。

 白川はそれを汲み取って小谷の横に立って肩を組むと、驚く新町と小谷をよそに、口の右端を少し上げ胸を張って挑戦的な雰囲気を作ると、新町にこう言い返した。

「新町君、海自志望の小谷君が困ってしまっているんだよねぇ。陸自君が海自から横取りなんて、よろしくないんじゃあないのかねぇ?それと、もし陸とか(くう)に小谷君が連れていかれそうになったら、()()が引き摺ってでも取り返すとかなんとか言っていたんだよねぇ。確か、そうだったよねぇ?森君?」

 突然白川に話を向けられた森は、新町からの針のように鋭く尖った視線も浴びて、しどろもどろになっている。

 これは、小谷を海自側に保護すると共に、先程耳を引っ張られてしまった事への森に対しての白川の対抗処置でもあった。

 もちろんそういった事情から、白川は新町から刺さるような視線を浴びている森へ助け船を出すつもりは無いのである。

 そうとも知らず新町は、森に対して含みを持たせたような言い方をしながら、1歩ずつゆっくりと近付いていく。

「へぇ~?森海士長は、この3等陸佐の私から、将来有望な人材を奪うって言うんだ?ふ~ん、いい度胸だいね?」

 新町は小谷と森を交互に見て、森に顔を向けると不敵な笑みを浮かべる。

 森はいつの間にか不動の姿勢を取り、目の前に迫る新町の迫力に気迫負けしてしまい、あふれ出る冷や汗を感じながら早く1400になって欲しいと強く願うのと同時に、バス停から一番近くて薬剤師がいる薬局の場所を思い出そうとしていた。

 何故かというと、この腹痛は一般の第3類医薬品では効かないと思い、少し薬効が強く登録販売者や薬剤師がいないと販売する事の出来ない“第2類医薬品”もしくは、薬剤師がいないと販売出来ない“第1類医薬品”の鎮痛剤を買おうと決めたからである。

「・・・なあんて、ごめんね紗耶香ちゃん。ナミちゃんが海自に行きたいって言ってるのに無理矢理引っ張ってくるなんて、私には出来ないんだよ。私も実を言うと希望は(くう)だったんだけど、今はご存知の通り陸佐なんよ。無理矢理そんな事したら、ナミちゃんをもう1人の私にしちゃうからね。」

 新町は笑顔を見せると、森にかけていた圧力を解放してから横にいる小谷へと笑顔を向ける。

「ナミちゃんがどんな理想を持ってるか分からないけど、自衛隊って思い通りに行かないこともあるってところなのは、忘れないで。でも、受験するならしっかり頑張ってね!ああ、でも、陸自の通信に来てもいいんだからね?気が変わったら言ってね?そうだ!私の名刺あげる!一応、航空無線も船舶無線とかも仕組みとか教えてあげられるから、そっちでも頼っていいからね?これ緑ちゃんにもあげるよ!森士長も陸佐の私の名刺、欲しいよね?ね?」

 胸ポケットから名刺入れを取り出すと、縦書き文字の左上に陸上自衛隊の緑色のロゴマークの入った名刺をそれぞれに渡す。

 内容は凄くシンプルで右1列目に【防衛省 陸上自衛隊】、右2列目に【東部方面隊東部方面通信群】、中央には【3等陸佐 新町百合香】、左列には朝霞駐屯地の代表連絡先が記載されている。

 裏側は英訳された同じ内容の文面が、横書きで印刷されている。

 小谷がしげしげと名刺の両面を眺めていると、場内に男性の声でアナウンスが響き渡る。

『間もなく、陸上競技場におきまして訓練展示が行われます。なお、訓練展示中は装備品展示を中止させていただくと共に、訓練展示のため車両が移動したり、火薬等を使用します。危険防止のため、お客様は自衛官や生徒の誘導や指示に・・・』

 予定時刻よりやや遅く始まったアナウンスだが、場内はざわめき、撮影すると思われる人物達は皆それぞれにC社やN社等の撮影機材を、撮り逃さないようにと真剣に構えている様子を見せている。

 競技場の中央のフィールドに視線を向けると、草のような置物が所々に置かれていて、想定としては草原のような場所であると思われる。

 球技体育館側からは、陸上戦闘服に草で擬装を施し、顔にも“ドーラン”と呼ばれる化粧品を塗った防大生達が89式小銃を持ってフィールドの中央に近付いてきている。

 この、“フェイスペイント”とも呼ばれる“ドーラン”だが、ある化粧品メーカーから販売されていて、茶・緑・黄・黒の4色を使って、シュミラクラ現象が起きないように顔を風景へ溶け込ませるようにしている。

 このシュミラクラ現象とは、例えば家や車両の正面、空き缶の上面等、目・鼻・口のように見える部分があると、それが人間に見えてしまう脳が引き起こす錯覚現象の事を言い、自衛隊員等がドーランを塗る時はいかにこの現象を抑えて、敵から見た時に人間として認識をさせないようにするかが生死を分けるポイントとなっている。

 そして、このドーランは陸自や防大等の売店である“PX(ピーエックス)(Post eXchange)”でも販売されていて、これの近くには女性用のメイク落としも販売されている。

 長時間落とさずにいると、サバイバルゲーム等でドーランを使用している方々であればお分かりいただけると思うが、汗等で落ちにくい成分が配合されているため、メイク落とし等できちんと落としておかないと肌トラブルの原因となってしまうからである。

 少し話は逸れてしまったが、陸上競技場トラックの直線中央まで隊列を組んで行進してきた小隊は、停止をすると回れ左をしてから、一斉にその場で立て膝をつく。

 そして小隊長、分隊長、班長の各学生が場内アナウンスで紹介されると、各々の配置に着くべく別れていった。

 そういった諸々の状況説明を新町からされている森と小谷はというと、陸上競技場を見ながら口々に感想を述べる。

「すごい・・・新町3佐の言う通り、ここからだと皆さんの顔がはっきりとは分からないですね・・・」

89式小銃(ハチキュウ式)、いいなぁ・・・海自も早く更新されて欲しいなぁ・・・」

 聞いていた白川も、森の言葉に同調するように訓練展示を準備している学生達を見ながら呟く。

「まだ海自は64式小銃(ロクヨン式)だからねぇ・・・」

「そうなんですよね・・・」

 白川がため息混じりにそう言った事に森も同意していると、新町は小谷の左肩に右手をのせてこう言った。

「ナミちゃん?海自の教育隊でも64式小銃(ロクヨン)扱うから一応言っておくけど、“ピストン(かん)用ばねピン”の紛失とかには、絶対に注意してね。」

 そう言われて小谷が新町を見ると真剣な表情になっていて、その隣の森も真剣な表情で深く大きくうなずいている。

 小谷は2人の真剣さに圧倒され、緊張から唾を飲み込んでから、恐る恐るといった風に新町へ尋ねる。

「新町3佐、そのピストン?・・・ばねピン?に、何かあるんですか?」

 小谷は今までに聞いた事の無かった小銃の部品の話に、やや戸惑いを感じながら聞き返した。

 海自教育隊での訓練でも当然使用してはいるのだが、小谷は“しらせ”の航海や職種に意識がいっていたようで、今まで調べていなかったか、若しくは調べていても失念していたと思われる。

 “しらせ”の艦艇公開の際に、海自の階級章や自衛官の宣誓文を問われ正確に答えた小谷も、流石に小銃については今一把握していなかったようである。

「“ピストン桿用ばねピン”。今は、“ばねピン”で覚えててもいいけど、これかなり小さい部品で、しかも教育隊とか防大の教育用で使ってる64式小銃(ロクヨン)は、他の部品もだけど、しょっちゅう分解結合してるから摩耗していたりするの。現場用だとそうでもないとはいえ、小さいって事もあってとにかく紛失しやすいから、教育隊では手順とか脱落防止の方法とかをしっかり聞いて覚えてね?」

「はい!了解しました!アドバイス、ありがとうございます!」

 小谷の返事に新町は、陸自へ勧誘したいという誘惑が再び喉元まで出かかっているのを無理矢理に飲み込む。

(いいなぁ、海自さんは。我が家は旦那と2人で言いすぎちゃったからなぁ・・・。お姉ちゃんは反発して一般大学受験するって聞かないし、貴俊は空自のパイロットになりたいって言うし・・・。私が言うのも変だろうけど、陸自も悪くないんだけどなぁ・・・)

 新町がそう一人ごちていると、彼女達から反対側の球技体育館側上空に注目を促すアナウンスがされ、それと共に、大きなエンジン音を響かせながら攻撃ヘリコプターAH-1Sが競技場上空へ進入してきて、大きく円を描いて偵察するように数回旋回すると、進入してきたのと反対の上空で新町達のいる学生舎側を向いてホバリングしている。

「あれが陸上自衛隊のヘリなんだねぇ!?岩国のCH-101とは当然だけど、やっぱり色々と違うねぇ小谷君!!」

「私、海田の駐屯地祭りにも良く行ってたんですけど、OH-1とかも凄いですよ!なんかこう、お辞儀するみたいに機体を傾けたりするんです!」

 小谷は手をヘリに見立て、指先を地面に向けてその時に見た観測ヘリコプターOH-1の機動飛行を真似た。

「ヘリコプターのお辞儀、是非見てみたいねぇ!」

「緑ちゃん、それだったら動画のサイトで陸自とか総合火力演習(総火演)を検索すれば、OH-1(ニンジャ)とかOH-6(フライングエッグ)の動画、いっぱい出てくるよ?」

 などと目を離している隙に彼女達の近くの建物屋上からロープが2本垂れ下がり、その地上付近ではサポートのためか、迷彩服の人物が姿を見せている。

『会場左手、建物の屋上をご覧下さい。これよりレンジャー部隊が降下を開始します。降下を行いますレンジャーは、小隊指導教官長作(ながさく)(とおる)1等陸尉と大隊(づき)陸曹鷺沼(さぎぬま)平太(へいた)2等陸曹です』

 場内アナウンスが終わる直前、屋上にいるレンジャー役の2名はロープを持つと背中を地面に向けて、壁を地面のようにして立つと制止する。

『中隊長、こちらレンジャー!これより降下を開始する!』

『中隊長、了解!』

 この場内アナウンスによる模擬通信の直後、1度壁を蹴って体を壁から離すと2階の中間付近まで降りて足をつけ、そこで壁を蹴って1階付近まで来ると下降速度を落とし、そこからゆっくりと地面へと降り立った。

「すごいねぇ!レンジャーも『ニンジャ』みたいだねぇ!」

「すごいでしょ、緑ちゃん!?あの降下した小指(しょうし)(小隊指導教官)の長作君が学生の時に、私の同期の潮静1佐が指導教官だったんだけど、勧誘して相馬原(そうまがはら)の12通信隊から習志野に連れてったって噂になってたんよ。聞いた時は本当に驚いたね。レンジャー取得して結構間を開けてからだったけど、空挺レンジャーを取得したらそのまま第1空挺団に取られちゃったんよ。」

「そんなに彼は凄いんだねぇ!」

「凄いなんてもんじゃないのよ!?あ~あ、私の部下になってくれたら、もっと早く色々進んだんだろうになぁ・・・」

「進んだって何がだねぇ?」

「ん~、それは内緒。色々は、色々だいね。」

「ケチだねぇ、新町君も。ちょっとくらい教えてくれてもいいんじゃないかねぇ?」

 それを傍らで聞いている森と小谷は、口をあけたまま呆然としている。

「森士長?レ、レンジャーって、そんなに簡単になれないんじゃありませんでしたっけ?」

「うん・・・いくら勧誘されたからって、早々簡単には・・・それに第1空挺団って、同じ習志野にある特殊作戦群と同じ位に恐ろしい所って聞いてるんだよ。って言ってるけど、私、話だけしか聞いたこと無いけどね・・・」

 彼女達が雑談している最中も展示は進行し、球技体育館側から2台のバイクが入ってくる。

『ただいま偵察用バイクが偵察のため進入してきました。こちらは神奈川県武山駐屯地、第31普通科連隊より参加しています』

 バイクを運転している隊員をよく見ると、89式小銃を構えたまま、両手を離して運転をしている。

「すごいねぇ!森君、小谷君、あれは倒れないバイクなのかねぇ!?」

 白川が目を大きく見開いてバイクの動きを追っていると、森と小谷も驚きながらバイクに視線を向ける。

「いやいや、緑ちゃん。あれは普通のバイクに自衛隊用の装備を少し着けてるだけだから。」

 新町も視線を向けると、バイクは既に停止して寝かせられ、隊員も地面に伏せていて、間もなく偵察活動を終えようとしていた。

 地面から隊員が起きると素早くバイクに跨がり、その場で方向転換すると来た道を戻っていく。

「白川さん、あれ、見えますか!?」

「小谷君、見えるけど見えないねぇ!今度はまるで無人のバイクだねぇ!!」

 戻っていく隊員はそのまま乗って戻っていったのではなく、バイクの左側に体を隠しながら球技体育館側へ戻っていっていたのである。

 これは敵や敵陣からの攻撃から、身を守りながら自陣へ戻る為の操縦方法である。

『中隊長、こちら偵察隊!赤旗の台付近に、装甲車含む1個分隊を確認!』

 バイクが姿を消して模擬通信のアナウンスが流れた後、学生舎側で赤い旗を持った隊員若しくは学生が観客に分かるよう大きく降ると、今度は球技体育館側のFH-70に動きがあった。

 砲身を少し左の赤旗に向いて止まると、続けて角度を20度程度に上げていく。

 それと同時に大きなディーゼル音を響かせ、10式戦車が陸上競技場の入り口に姿を見せる。

 その瞬間、カメラを構えた見物客達は一斉にシャッターを切り始め、10式が調整のために砲身を動かす度に、連写する者もいるのであった。


 2017年中はご愛顧いただきまして、ありがとうございました。


 2018年もご愛顧いただけるよう努力して参りますので、どうかよろしくお願いいたします。


2017年12月29日

 月夜野出雲

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