その4
今回もフィクションです。
いやあ、それにしてもまだ1日目の前半が終わってないとは・・・
どれだけ長くなるんだろう(汗)
審判達は掲げていた“赤い旗”を降ろすと、航空自衛官が近くにいた防大生の1人からマイクを受けとり、アナウンスを始めた。
「大江山学生の2本先取!よって勝者、大江山学生!!」
大江山学生と呼ばれた小柄な人物は、観客達の割れんばかりの拍手をうけながら、1歩前に出て一礼すると、元の位置に戻っていった。
未だ観客達からの拍手が鳴り止まない中、航空自衛官はマイクを持ち直すとアナウンスを再開する。
「プログラムには記載されていませんでしたが、これで銃剣道部の模擬試合を終わりたいと思います!一同、礼!」
銃剣道部らしき学生達と共に、試合をしていた2人も面を着けたまま礼をすると、大柄な人物と小柄な人物は別々の部屋へと入っていった。
「大社さん!銃剣道部、すご・・・」
そこまで言いかけた黒川は、普段と表情は変わっていないにも関わらず何かがいつもと違う大社に、言葉を出そうにも出てこない錯覚に陥る。
黒川が視線を大社からそっと外すと、小柄な女性が入っていった部屋の前に、藤原がおろおろとした様子でうろついているのが目に入った。
そんな藤原と偶然視線が合った大社は、自分達の方へ来るようにと、藤原に向かって手招きをする。
藤原が怯えた様子を見せたため、黒川は恐怖心で横の大社を見ようとも思えなかった。
「く、黒川、3曹、れ、連絡出来なくて、ご、ごめんなさい!あ、あ、あの、私・・・私、減給では済まないのでしょうか・・・?そそ、それとも、じょ、上陸止めですか!?と、というか、私、い、生きて帰れますか!!?」
大社から尋問を受けた藤原は、体を震わせたまま泣きそうな声で黒川に聞いている。
黒川も藤原に似た泣きそうな声を発した瞬間、タイミング悪く大社が声をかけてくる。
「藤原1士、あの・・・」
「「ひえぇ!」」
黒川と藤原が同時に悲鳴を上げると、大社は悲しそうな表情を浮かべてから、一先ず2人を落ち着かせることにした。
「あら?大社さん?何故こちらにいらっしゃるのかしら?校友会の展示は、もう見てまわられまして?」
大社を前に一切今までの事をおくびにも出さず、笑顔で大江山は近付いて来る。
「大江山さん・・・いえ、橋立さん。事情は全部、藤原1士から聞きました。藤原1士に1尉の権限で強く口止めして、しかもスマホの電源まで切らせて、こんな騒ぎを・・・。動機は何ですか?何故こんな事を・・・」
黒川は大社の話を聞きながら藤原の泣きそうになっている横顔を見て、艦魂と言えど1佐と1尉の板挟みに遭ってしまった彼女に、同情せざるをえなかった。
「あらあら、まるで大社さんは、今私が読んでいる推理小説の探偵さんみたいですわね?でしたら、私は泣きながら、しかも読者の皆さんに説明しながら、仕出かしてしまった事をわびる犯人のような演技をすれば、よろしいのですわね?」
泣き真似をしようと右手を目の前に持ってくると、表情を消した大社はそれを止める。
「いえ、そのような事は一切不要です。事実を簡潔に答えていただくだけで結構。」
大江山は少し瞑目すると、少し大社からの視線を逸らすように畳と反対の、板張りの道場の方へ視線を向ける。
「了解しましたわ。一言で言うなら、艦魂以外の強い方と勝負してみたかった。たったそれだけですの。それ以上もそれ以下も、理由はございませんわよ?」
大江山の返答は大社にとっては驚きだったようで、目を見開いたまま身動きが出来なくなっていた。
黒川と藤原も同様だったようで、この光景だけを切り取ると、奇しくも橋立が言っていた、推理小説の中で犯人が告白しているシーンのようである。
「たった・・・たった、それだけの理由で・・・こんな騒ぎを・・・」
「私は特務艇ですのよ?海に浮かんでいますのよ?それなのに“井の中の蛙”・・・“大海”を知らないなんて、皮肉もいいところだとは思いませんこと?出雲1佐?」
「ですが、それで騒ぎを起こしていい訳では・・・」
「私は、“大海を知る蛙”になりたいのですの。確かに、私は強いと自負しておりますし、艦魂の方々からも仰っていただいておりますが、それは所詮、仲間内だけでの事・・・。実際、先程の試合では勝ちはしましたけれども、学生さんに肉薄されてしまいましたのよ?出雲1佐、貴女も“大海”をもっと色々知るべきですわね?」
推理小説であれば、ここで警察に連行されるようなエンディングを迎えるのかもしれないのだが、現実を見てみると、大江山は普段通りの穏やかで優しそうな笑みを浮かべているだけである。
対している大社はというと厳しい表情を崩さず、大江山へ向けている視線も同様に厳しいままだ。
会話が途切れ沈黙した大社と大江山の間から、雪山で感じられるような氷点下の空気が黒川と藤原に向かって流れているように錯覚し、2人とも同時に鳥肌になって身震いする。
そこへ、審判だった航空自衛官が帽子を手に持ったまま、不安げな様子で近付いて来る。
大社がさりげなく階級を確認すると、3等空佐(以下、3空佐)だと分かった。
「大江山さん。お怪我とか、されていませんか?」
「少し突きを受けた部分が痛いですけれども、許容の範囲内ですからご安心くださいまし。それにしても、私を学生にしてしまうなんて、指導教官さんも機転がききますのね?」
上胴に軽く手を当てると3空佐に笑顔を見せ、なんとも無い事を証明した。
「急な事でそれしか方法が思い付きませんでした。それにしても、大江山さん。貴女に土下座された時は驚きましたよ。そこまで試合してみたかったなんて、思いもしませんでした。」
「本当に私のわがままに巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした。先程、木銃や防具等を貸していただいた女性の学生さんにもお礼を申したのですけれども、改めて指導教官さんにもお礼とお詫びを申し上げます。」
航空自衛官と大江山の話を聞いて、大社達3人は言葉を失い、特に大社は呆れ果てていた。
「藤原さん、土下座ってどう言うこと?」
黒川は小声で事実確認を藤原にすると、藤原は小声ながらも動揺で大声になりそうなのを必死に抑えながら報告する。
「わ、私も知りませんでした!3等空佐さんと内密に話がしたいって言って少し離れたんですけど、多分その時にしたのかもしれません!」
そんな彼女達に男性の防大生が近付いてきて、3空佐と大江山に一礼する。
「大江山さん、先程は手合わせしていただき、ありがとうございました。」
この防大生は先程大江山と試合していた人物だったようで、大江山は防大生に握手を求め、彼はそれに応じた。
「そう言えば、自己紹介しておりませんでしたわね?大変失礼いたしました。私は大江山郁野と申しますの。貴方は先程の場内での紹介では、“はなしろ”学生さんと聞こえたのですがお間違えありませんかしら?」
大江山と“はなしろ”学生とが自己紹介を交わす時間が無いほど急に組まれた対戦カードだったため、彼女はこの場で自己紹介したのである。
「はい、間違いありません。自分は4大隊の華城太郎と言います。画数の多い方の華に岩国城の城と書きます。」
大江山は、ショルダーバッグから黒いスケジュール帳のような物を取り出して、華城の名前と他の何かをメモしているらしく、ペンを走らせている。
華城は大江山がスケジュール帳を取り出す時、背表紙に金色の字で“Maritime Sel…”と見えたような気がしたのだが、一瞬だったため確信が持てなかった。
「4年生と伺いましたけれども、卒業後はどちらの幹部候補生学校へお進みになられますの?」
スケジュール帳をショルダーバッグにしまいながら華城に質問すると、大江山は軽く小首を傾げる。
「はい。自分は航空要員ですので、奈良へ行く予定です。」
空自の幹候校は奈良県奈良市の“奈良基地”に所在しており、2017(平成29)年12月現在、奈良県において地方協力本部以外で唯一の自衛隊施設である。
なお、陸自の幹候校は福岡県久留米市に所在する通称“久留米”、海自の幹候校は広島県江田島市の通称“江田島”である。
「あら、江田島ではないのですの?残念ですわね・・・」
華城の返答にがっかりした大江山の言葉に、3空佐は大江山や黒川達を見渡して疑問を口にする。
「あれ?もしかして皆さん、海の方ですか?」
「私と大社さんは民間ですけれども、こちらのお2人は海自の黒川3曹と藤原1士ですわ。」
突然大江山に話を振られた黒川と藤原は緊張で固くなったまま、ぎこちなく10度の敬礼して自己紹介する。
そして3空佐は大江山達と軽く雑談して、最後に周りにあまり吹聴しないよう、華城達防大生にも同様の注意を促し、その場を後にした。
「あの、また試合していただけますか?負けたままは、やはり悔しいので。」
華城の声に、大江山は数秒思案すると笑顔でこう答えた。
「私も華城学生さんに勝ったとは言え、貴方の放った突きが“痛み”として、私の鍛練不足を教えてくれましたわ。出来れば私からも再戦を、華城学生さんに是非申し込みたいですわね。」
大江山が突きを食らった上胴にあたる部分を数回さすると、位置が位置だけに華城は視線のやり場に苦慮してしまう。
大江山はそんな華城に気付いているのかいないのか、微かに微笑むと1歩近付いて見上げ、彼の目を覗きこむ。
その行動に、2人の周りにいる黒川達が少し動揺するが、大社だけは、成り行きを見守る事にした。
勿論今までの経緯があるため、即介入が出来るように2人の会話には最大限注意を払っている。
大江山から視線を外す事が出来ずにいる華城は、内心では狼狽えながらも金縛りに遭ってしまったように体を微動すら出来ずにいる。
「私は偶然にも海自横須賀地方隊にいる、ある珍しい艦艇にご縁がございますの。」
「珍しい・・・艦艇?ですか?」
大江山は少しだけ背伸びすると戸惑う華城の耳元で、彼だけに聞こえるようにそっと囁く。
「ええ。その艦艇がお分かりになりましたら、お訪ね下さいまし。もし再会できましたら再戦もそうですけれども、“はしだて”で華城学生さんと一緒に、海自1美味しいお食事を御一緒したいですわね。ご縁がありましたら、ですけれどもね?」
大江山は離れる間際に困惑する華城へウインクすると、耳まで真っ赤になった彼をその場に残し、3人と共に武道場を後にした。
その場に残された華城は顔を赤くしたまま、審判をしていた防大生に声をかけて横須賀地方隊の事を聞いた。
声をかけられた方の防大生は海上要員であったようで、横須賀地方隊の事を説明し始めた。
すると放送で学生を呼ぶアナウンスがかかると海上要員らしき防大生は、説明の途中ではあったが呼ばれた場所へと走っていった。
残されたもう1人の審判だった防大生は顎に手を当て、何か考え込んでいる。
何か分かったのかと華城から訪ねられると、先程の件とまったく関係無いと前置きして、考えていた事を答える。
「先程の女性の名前、『大江山』さん、でしたよね?」
「そうだけど、それが?」
「百人一首に【大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみもみず 天橋立】というのがあるんです。ただ、これは偶然でしょうし、海自と関係あるとはちょっと思えません。陸の事でしたらもう少し分かると思うのですが・・・。考えがまとまってもいないのに、余計な事を言ってすみませんでした。」
そう言った彼は陸上要員だったようで、艦艇と結びつける事が出来ずに分からずじまいとなってしまったが、百人一首が出てきた事で、華城に大江山の印象が強く残ることにはなった。
更に言えば、ここに先程の海上要員の学生や海自の誰かがいれば、航空要員の彼に更なるヒントが与えられたのかもしれない。
しかし、この場にいない以上は無い物ねだりであり、華城が大江山とこの先もう一度会えるのかは、運命に委ねられる事となった。
武道場を出て右に曲がった大社達は、丁字路を左折し陸上競技場方面へと歩いていくのが見える。
大江山以外は笑顔が消えていて、特に藤原は時々お腹を擦る仕草もしている。
「あの、黒川3曹?帰る時に、横須賀中央に寄っていっても大丈夫ですか?痛み止めが欲しいんです。お腹が痛くなってきて・・・」
「お腹のどの辺が痛いの?上の方?下の方?」
「胃の近くがキュウって感じで痛い気がするんです。」
「いつから?もしかして武道場にいる位から?」
「はい。大江山さんから黒川3曹達に連絡を禁止と命令された位からです。」
「その時、不安は強く感じた?」
「私1人じゃ、どうしていいのか分からなくて相談したかったんですが、黒川3曹達に連絡出来なくて不安に・・・そしたら段々痛みだしてきたんです。」
「そっか。大変だったね?それでちょっと質問続けるけど、朝ご飯は何を何時頃食べ・・・」
黒川は歩きながら藤原に質問している中、大社と大江山は周りに聞かれないように無線で会話をしている。
『空自の方が寛容だったのは、良いのか悪いのか私には分かりません。ですが橋立さん、問題を起こすのはこれっきりにしていただきたい。出来ないのであれば、途中でも藤原さんと一緒に即時帰っていただきます。』
『それは困りますわね?まだ見ていない場所がございますのよ?』
『橋立さんの事情は知りません。私から警告が発せられた事は、しっかり重く受け止めてください。それから、“はしだて”艇長並びに霧島海将補達にもこの事案を報告をします。覚悟を決めておいて下さい。』
『それは、仕方ありませんわね。来年もこちらへ来てみたいですし、防衛大学校からも出入り禁止にはされたくありませんものね?ここは大人しく、朝に森士長が言っておられた“自重”をいたしますわね?』
『出来れば、最初からそうしていただけるとありがたいです。それから、華城学生へ最後になんと声をかけたのか、教えて下さい。』
『出雲1佐、御自分の好奇心で詮索されるのは、あまりよろしくない事ですわよ?私にも、華城学生さんにも、プライバシーと言うものがございますの。出雲1佐であっても・・・いえ、旗風幕長達と言えども、私達のプライバシーを犯すのであれば、例え幕長や出雲1佐達と・・・』
『好奇心ではありません、橋立さん!鞍馬元幕長や旗風幕長から、外の方々とは接触を控えるように再三再四通達されているんですよ!?教えて下さい!話の内容によっては華城学生さんにも迷惑が・・・』
そこまで大人しく話を聞いていた大江山は、突然表情に怒りの感情をのせて、喋っているように大社を見ながら無線に自身の声を流す。
『出雲1佐!!華城さんは関係ありませんわ!!私達の事は、私達で解決すべき問題だと思いませんの!?』
『橋立・・・さん・・・』
『・・・あ・・・し・・・失礼しましたわ、出雲1佐。・・・私・・・あの・・・・・・申し訳・・・ありません・・・』
ここで少し沈黙が流れた後、大江山は苦しそうな表情を浮かべると自身の心情を吐露し始める。
『出雲1佐・・・、ここに強い方々がいらっしゃると艇長さんに聞いてからずっと、試合が出来るように楽しみながら今日の事を計画していましたの。・・・銃剣道部の学生さんにどう接触してからの、どう指導教官さんにお願いするかの手順を考えたりなど・・・。今思うと、白瀬さんのいう“ワクワク”した状態だったのかもしれませんわ。そして、今もその“ワクワク”した状態が続いておりますの・・・目的の試合は終わったはずですのに・・・。それに・・・先程も、何故か怒りたい気持ちが止められず・・・私、その・・・今の私の事が、よく・・・分からないのですの・・・』
実を言うとこの2人の会話は白川にも聞こえていて、武道場からずっと会話をモニターしていた。
(橋立君がこんなに好戦的なのは、僕が知るなかでは初めてだねぇ。人間君と試合した興奮状態が治まらないのかもしれないのかねぇ?それに、開校祭の事を聞いてからずっと、僕と同じようにうずうずしていたんだろうねぇ・・・。今までは基地や港の中だけだった艦魂達の世界が、物理的にも精神的にも広がってしまっている・・・。確実に僕以外も変化しているねぇ・・・あれ?・・・僕もちゃんと変化しているのかねぇ?どうなんだろうか?困ったねぇ、自分の変化は気付きにくいからねぇ・・・う~ん・・・でも、なんか橋立君の変化は、よく分からない部分もあるねぇ・・・何が原因なんだろうねぇ・・・。やっぱり、僕も現場に行けばよかったかねぇ?)
白川は大江山の行動を考察していたが、どうしても腑に落ちない部分が気になり、思考の沼にゆっくりと潜水艦のように潜行していこうとしていた。
「緑ちゃ~ん!?お~い、緑ちゃ~ん!?聞こえてる~?」
「白川さん、また長考ですか?」
新町と森の会話を聞き逃していた白川は、思わず森の顔を数秒間、呆けた顔で見つめてしまった。
「え・・・森君?おっと!申し訳ないねぇ!えっと、何の話だったかねぇ?」
「ジュース買うか聞いてたんだけど、どうしちゃったの?緑ちゃん?」
「新町3佐、白川さんは時々こうなっちゃうんですよ。」
「へえ~!緑ちゃん、私と一緒だいね!仲間だ仲間だ!」
白川は慌てて、周りが色々珍しくて集中出来なかったと釈明して、自分も買うと告げると3人で記念講堂内の自動販売機へと向かう。
「さて、紗耶香ちゃんは知ってると思うけど、緑ちゃんもせっかく防大に来たんだし、防大でもやってる自衛隊名物“ジューじゃん”、やってみよっか!」
新町は自動販売機を背にすると、にやりと笑って右手で拳をつくる。
森は表情こそ笑顔だが、良く見るとその笑顔はひきつっているようにも見える。
「“ジューじゃん”は確か、“ジュースじゃんけん”の事だったねぇ?いいよ!やってみようねぇ!」
「緑ちゃん、知ってたのかぁ。ま、いっか。よし!あ~ほらほら!紗耶香ちゃんも早く右手、出した出した!」
新町と白川はやる気満々で長袖を捲ると、森が準備出来るのを待つ。
「よし!緑ちゃんも紗耶香ちゃんも、本気出してよ!?」
「当たり前だねぇ!本気じゃなかったら、面白くないからねぇ!」
「私も、いつでも行けます!」
「よし!一発勝負行くよ!!せーの、じゃんけんぽん!!」
新町の掛け声に、全員が出したのは“グー”で、あいこだった。
「あいこで、しょ!!」
次の気合いの入った掛け声で出したのは、新町と白川は“チョキ”、森が出したのは・・・
「紗耶香ちゃん、ご馳走様!!いやあ、ひっさしぶりのジューじゃんはいいなあ!」
“パー”を出した森は、新町と白川に奢っていた。
「森君、申し訳ないねぇ?」
この“ジューじゃん”ことジュースじゃんけんは、じゃんけんに負けた者が、参加者全員に奢るゲームのようなものだが、参加者が多いと白熱すると言われている。
なお、その時の発案者のルールで、勝った者が奢る場合もあるため、一概に勝てばいいわけでもない場合がある。
「いえ、最高記録には全然届いていないので、大丈夫ですよ」
森はやや影のある笑顔を見せると、新町と白川から最高何本だったか、質問を受ける。
「最高は教育隊時代の21本でした。私じゃないですけど聞いた中では34本が一番多かったですね。もしかしたら、もっと多い人もいるかもしれませんけど。」
「私は1回だと紗耶香ちゃんより多い24本だったかな?その前に3連勝してたから、つい、連勝出来ると思って参加しちゃって、ストレート負けからの3連敗・・・。最高記録も含めて3回合計約60本ちょっと。あの時3尉になりたてだったし、給料日前だったし、実家への仕送りと欲しかった無線の資料や雑誌代も重なっちゃって、お財布的に厳しかったなぁ・・・。」
「ですね、新町3佐。わかります、その気持ち・・・」
新町と森はそれぞれの当時を思い出したのか、同時にため息を吐き出す。
白川は2人の様子を眺めていたが、自分の持っているコーヒーの缶を見つめると、物思いにふける。
(ジューじゃんかぁ・・・。時々見かけていたジューじゃんをする事になるなんて、以前の僕には想像すらも出来なかったねぇ・・・)
白川が少しずつコーヒーを飲んでいると、新町は飲み終わったのか立ち上がって缶を捨てに行こうとする。
森も立ち上がると新町から空き缶を受け取り、近くのゴミ箱へ捨てにいった。
そして森が戻ってくると、3人で一番近い研究室のブースへと歩いていった。
お読みいただきありがとうございました!
今までゆっくり水面下で、静かに進行していた新町と白川の【化学反応】が、いよいよ加速を開始しそうです!
果たして加速していく化学反応を、森は止められるのか!?
彼女のストレス耐性と胃腸は何処まで持つのか!?
次週12月22日(金)1200、『森士長・・・頑張って!(遠巻きに)応援するから!!』(半分本当のような、半分嘘のような予告)
お楽しみに!!