その3
フィクションですよ!
それから、予め言っておきますがお祭り気分なので、みんな少し(?)はじけてます。
実際も結構楽しい雰囲気でしたからね。
伝われば良いなぁ~
( ´ω`)
~登場人物のおさらい~
大社泉(出雲)と黒川冬実3海曹ペア
白川緑(白瀬)と森紗耶香海士長ペア
大江山郁野(橋立)と藤原弥生1海士ペア
新町百合香3陸佐と貴俊親子
新町と白川と森は、防大本部庁舎前を左に曲がって一般参加者が作る人の流れから外れると、交差点で車両を駐車場へ誘導する係員を横目に、理工学3号館のある右に向かって道を曲がった。
「そう言えば、ぶつかる直前に『白瀬さん』って聞こえた気がしたんだけど、緑ちゃんの名字は“白川”でいいんだよね?」
移動している短い間に、白川を“ちゃん”付けで呼ぶほど親しくなった新町からの思わぬ疑問に森は焦るが、白川は笑いながら返答する。
「それはねぇ、新町君?僕は南極とかペンギンがとっても大好きでねぇ。そんな話ばかりしているから、いつの間にか名前の似ている『南極観測船しらせ』から“白瀬”って言うあだ名で呼ばれるようになったんだよねぇ。」
予め考えていたのか、迷いもなく言い切った白川を見て少し安堵した森だったが、引っ掛かる部分もあって、あえて口を出した。
「新町3佐。補足しますと、白川さんが先程『南極観測船しらせ』と呼びましたが、それは文部科学省側の呼び方で、我々海自側は『砕氷艦しらせ』と呼んでいる事をお知らせしておきます。」
森の声を聞き、苦々しい表情を少しだけした白川と対照的に、新町は笑顔になっている。
「へぇ、そうだったんだ!ほら、テレビとかだと『南極観測船』って言ってるでしょ?それに陸は知り合い多いけど、海自の人って同期の三条君とか高崎君と、他に何人かしか知らないから、それ初耳!教えてくれてありがとうね、森ちゃん!!」
新町の嬉しそうな声に、白川は勝ち誇った様な表情を森に向け、それを見た森は先程の白川の様な苦々しい表情を作る。
そんな2人に気付かないまま、新町は記念講堂へと向かって2人を先導をしていった。
白川達と別れ、本部庁舎前を右に曲がった4人は、本部庁舎前の構内道路を挟んだ向かいにある総合体育館の近くで立ち止まり、どうするかを話していた。
「私は、行きたい場所が幾つかございますの。大社さん達はいかがなさいますの?」
その問いに、大社と黒川は顔を見合わせてからパンフレットを広げて相談し、最初は目の前にある総合体育館の中で行われている校友会の展示発表を見に行くと言って、大江山並びに藤原とは交差点を左折して別れた。
大江山と藤原が総合体育館に向かう大社達の背中を見ていると、彼女達に声をかける戦闘服3型の陸上自衛官が見えた。
彼らの腕章には神奈川地方協力本部と書いてあり、黒川が10度の敬礼をしているのと、笑っている陸上自衛官の姿、それと陸上自衛官に呼ばれた海上自衛官の姿も見える。
「あの海自の方、黒川さんのお知り合いの様ですわね?」
「一緒に任務にあたった事があったんでしょうね、きっと。」
大江山と藤原は、どこかのんびりと会話をすると、交差点を黒川達と反対に右折して、防衛学館横の道を歩きだした。
「ここの通りには、戦闘機や戦車が置いてありますわね?」
交差点の角に展示している戦闘機のそばには説明の看板があり、“F-1支援戦闘機”とある。
その他に74式戦車や61式戦車等も説明の看板と共に展示されている。
(あれは・・・魚雷・・・ですわね・・・)
展示物のひとつである93式艦艇用魚雷を視認した大江山は、冷や汗を一筋垂らしながら、そして横目で見ながら通り過ぎた。
「どうかしましたか?大江山さん?」
藤原の声に我を取り戻した大江山は、彼女に対してなんでもないと告げると、2人で目の前の丁字路を左折し、最初の目的地へと向かう。
彼女達が防衛学館向かいの建物に入っていくと、そこではステージの準備が行われていて、防大生達が忙しなく動き回っている。
大江山は1番近くにいた防大生に声をかけると、その防大生は分からなかったらしく、別の誰かを呼びに行った。
「大江山さん、何か気になったんですか?」
「ええ、銃剣道部の事でちょっとありましたの。でも、大したことじゃありませんのよ?」
藤原はパンフレットを広げ、1日目のタイムテーブルを確認すると、大江山に武道場の部分を指差しながら説明する。
「午前は空手道と、午後は合気道と剣道部の様子が見られるみたいですよ?」
「あら?私が見たいのは、見られないようですわね。あの防大生さんには、申し訳ない事をしてしまいましたかしら?」
パンフレットの武道場の欄を人差し指でなぞって丁寧に確認するも、大江山が見たい展示はどうやら無かったようである。
そこへ声をかけた防大生に連れられて、上級生らしきもう1人の男性の防大生もやって来た。
大江山が声をかけた防大生が彼女を指し示すと、一礼して奥の方へと走っていった。
呼ばれた男性の防大生は、大江山と藤原にそれぞれ一礼して、大江山に正対する。
「お待たせしました。銃剣道の事で聞きたい事があると伺いましたが、どの様なご質問でしょうか?」
「ええ、本当でしたら、銃剣道のデモンストレーションは見られるのか伺いたかったのですけれども、先程見られないと分かってしまいまして。」
大江山は伏し目がちにそう言うと、彼が悪いわけでもないのだが、防大生は申し訳ないと頭を下げる。
「私も、ご足労いただいたのに申し訳ありませんわね。それでなのですけれども、もし可能でしたらば、貴方が使っていらっしゃる木銃など、見せていただく事は出来るのかしら?直ぐでなくても、かまいませんの。」
一瞬面食らった様な顔をした防大生だったが、すぐに取りに行くと言って駆け出した。
「そう言えば、大江山さん?今思い出しましたけど確か昨日、銃剣道部の事、防大のホームページで確認してませんでしたっけ?」
その言葉に、大江山はそうだったかと考えたが、忘れたと藤原に返答した。
藤原は首を捻りながらも、代替案をどうするかと大江山にパンフレットを見せる。
食事のメニューを見るように藤原と2人でパンフレットのタイムテーブルを見ているのだが、大江山は時折藤原に気付かれないようにしながら、辺りを伺っている。
(まだこの時間であれば、人間の方々も少ないですわね。予定より30分早く入場出来たのも、日頃の行いが良いからかしら?楽しみですわね。白瀬さんではありませんけれど、ワクワクしますわね。・・・ふふっ)
一方、神奈川地本の海自隊員達と挨拶を済ませた黒川と大社は、校友会の展示を見るために総合体育館へと入っていた。
「凄いですね、黒川さん!あれが“グライダー”と言うものなんですね!?」
入って右側のグライダー部が展示している実物のグライダーを見て、大社は驚きの声をあげる。
「私も実物を見たの、以前の開校祭以来ですよ。あ、隣見てください、ヨット部ですよ!時々浦賀水道で見かけてましたよね!?」
黒川はそう言って大社に声をかけたが、大社はグライダーに意識を集中させている。
「話には少しだけ聞いていましたけど、SH-60Kと全然違うんですね?どうやって飛ばすんでしょう?“いずも”の甲板からも飛ばせるんでしょうか?」
大社は素朴な疑問といった風に呟いたのだが、黒川はそれに対して否定する。
「お言葉ですがグライダーは、長い距離をワイヤーとかで引っ張って離陸させないといけないそうなんです。確か800から1000m位だったかな?だから、もし“いずも”から飛ばすなら、カタパルトが必要になるんじゃないでしょうか?飛行甲板も多分300mとか400mは必要になると思いますよ?回収も大変そうですし、現実的でないのが残念ですね?」
黒川の言葉を聞いて、大社は大きく落胆した表情を見せる。
「カタパルト・・・。それに飛行甲板が400m級って・・・それはもう完全に・・・」
大社の言いたい事を察して黒川は、はっきりと大社に告げる。
「航空母艦。空母ですね。」
「ですね・・・」
大社が明らかに肩を落とすと、黒川と大社の耳に2人の防大生の声が聞こえてくる。
「おい、グループの書き込みは見たか?」
「今見たよ。大丈夫なのか、銃剣道部は?顧問に怒られるんじゃねえの?」
片方の防大生から銃剣道部と聞こえ、何故か大江山を連想した大社は、耳を先程よりもそばだててしっかり聞き取ろうとしていた。
「面白そうだし、武道場に行ってみるか?」
「俺はパス。勝手に試合やるんだろ?腕立てさせられるのは嫌だからな。」
「なら、俺もやめとこ。触らぬ神に祟りなし、だからな。」
「そうだ、対番(学生)の1年にも言っとけよ?忘れると『指導力不足だ!』とかなんとか言われて、結局腕立てに巻き込まれるぞ?」
「やべっ!間に合うかな?彼奴なら大丈夫だとは思うけど・・・」
会話を終えた2年生と思われる2人の防大生は、同じ方向だったようで、片方はグライダーの方へ、もう片方はその先のヨットの方へと歩いていった。
それを見ていた黒川は大社が黙り込んでいるのに気付き、何か焦っているようにも見えたため、声をかけようとすると大社が黒川に先に声をかけてきた。
「様子が変です。黒川さん、行きましょう。」
「えっ?様子が変ってどうしたんですか?それに何処へ行くんですか?」
「武道場です。場所は確認してあります。一緒に来て下さい。」
表情を硬くした大社は踵を返すと、駆け足で人の流れを縫うように総合体育館から飛び出した。
「何があったんですか!?説明してください!!」
後ろからついてきた黒川は、尋常ではない大社の様子に不安を覚える。
「先程の学生さんの会話で、銃剣道と聞いて不安になったのですが、大江山さんと連絡がとれなくなったのが確認出来ました。」
「えええっ!!一大事じゃないですか!!!迷子って事ですか!?」
「そういった単純な話では無さそうです。白川さんとは連絡が取れたので、通信障害等は考えられません。恐らく意図的に無視している可能性があります。とにかく武道場に急ぎましょう!」
説明をしていたために、黒川と速力を合わせていた大社は、全速力に切り替えた途端に黒川を引き離すと、武道場のある通りを左折した。
「は、速い・・・って、私も急がないと!」
遅れて黒川も大社を追って、丁字路を左折して武道場を目指した。
黒川が武道場の中へ入っていくと、大社の背中が見えて声をかけようとする。
しかし近くまで寄っていった時、黒川は大社に声をかけるのを躊躇する。
(い、出雲1佐・・・お、怒ってるみたい・・・)
全身から溢れだしているような怒りを大社から感じとり、黒川は恐る恐る、1歩ずつ慎重に近付きながら横に立つと、無言のまま大社の視線を追った。
そこには、剣道場で剣道に似た胴着等を着て木銃を持って立っている人物が2人の他に、審判役らしき航空自衛官と副審らしき防大生2人が右手に赤、左手に白の旗を持って試合場内に立っている。
「黒川さん、あの人物がそうです。ついさっき紹介がありました。」
「えっ?どこですか?」
「あの人物です。」
そう言って大社が向けた指先には、木銃を構えている小柄な人物がいる。その小柄な人物と相対しているもう片方の人物は大柄である。
木銃とは、文字通り木で出来た小銃のような形をした木刀の様なもので長さ166cm、三八式歩兵銃に銃剣を着けたのとほぼ同等であり、重さは1.1kgである。
銃剣先に相当する先端には“タンポ”と呼ばれるゴムが着けられていて、突きの衝撃を緩和する。
黒川は目の前の出来事が理解出来ないあまり、大社とこれから試合を行うであろう小柄な人物を交互に見てしまう。
大社はこの間にも盛んに大江山へ無線で呼び掛け続けるが、大江山からは返答が返ってこない。
黒川はここに来てやっとスマホを取り出して藤原へ電話を試みるも、電波が届かないか電源が切られているというアナウンスが返ってきた。
そこでSNSのグループに書き込みをして、返事を待つことにした。
流石にここにきて白川も心配になったのか、大社に大江山の捜索を打診したが、大社は既に見つけているとして断り、祭りを楽しむように伝えて白川との交信を打ち切った。
(普段、白瀬さんを嗜めている橋立さんなら、万が一白瀬さんが制御不能になっても私と2人なら大丈夫だと思っていましたが・・・まさか・・・白瀬さんより先に橋立さんがこんな事をするなんて・・・もっと私が注意を払っていたら・・・)
大社は自身の指導力不足を嘆きながら、気付かないうちに奥歯を強く噛み締めていて、黒川にその雰囲気が伝わってしまうと、黒川の足は震えだしていた。
試合場の方に目を向けると、航空自衛官は場が整ったと判断したのか、試合開始のために大声で『始め』と声をかけると、選手2人はそれぞれ木銃を相手に向けながら間合いを詰めながらはかる。
2人の距離が目測で約2~3m程になった時、小柄の人物が大声を上げながら、大柄の人物の懐に飛び込むような勢いで突っ込んでいく。
大柄な人物はそれをかわす、というよりも反射的にと言うのが適切な動きで体を横へずらしたが、それを追尾するように、小柄な人物の持つ木銃の先端が有効打として左胸に突きこまれ、一斉に3人の審判が右手の赤い旗を頭上に掲げ、小柄な人物が一本を決めた事が判明した。
銃剣道の有効打は突きのみで、部位は喉、左胸上部(上胴)、左胸下部(下胴)の3ヶ所のみ。
これ以外の部位に、突き以外の打撃等を与えても無効打となってしまう。
2人の人物は一旦足元のラインまで下がると、航空自衛官はそれを確認してから試合を続行させた。
今回の試合はどうやら、2本先取で勝敗を決める内容のようである。
今度は大柄な人物も先程の攻撃を警戒してか、小柄な人物から隙を伺うように距離をとっていると、またしても小柄な人物は一気に距離を詰めて有効打を狙ってきた。
寸前のところで小柄な人物の木銃の先を跳ね上げると、大柄の人物はここがチャンスとばかりに小柄な人物に突きを放とうとする。
しかし小柄な人物は一枚上らしく、木銃をすぐに自分の前で横に構えると、相手の突きを自分の木銃で受け止めながら後ろへ離れ、体勢を整えながら間合いをとった。
このまま膠着状態になると思われたが、すぐに互いがじりじりと間合いを詰め始める。
そこへ小柄な人物が大声をあげ足を踏み出すのとほぼ同時に、大柄な人物も大声を上げて距離を詰めるべく踏み出した。
そして互いに有効打と思われる突きを放つと、大柄な人物は相手の上胴と思われる部位に、小柄な人物は相手の下胴と思われる部位に、ほぼ同時に到達する。
場内はまだ一般参加者が少なく、防大生だけは連絡がまわったのか数十名が集まっていた。
中にはこの後0930から行われるデモンストレーションのためか、空手道部らしき道着の男性達もいるのだが、試合中の2人が動かなくなった瞬間、大社や黒川も含めた全員が一斉に静かになり、聞こえてくるのは祭りのアナウンスや近くを歩く人の声だけとなる。
そしてそれは審判達も含まれており、航空自衛官は我を取り戻したように慌てながら旗を頭上に掲げ、副審の防大生2人も慌てながら旗を掲げる。
それと同時に防大生の方から拍手が聞こえ、一般の見物人達からも釣られるようにそれに合わせて拍手がおこって武道場内全体が祝福の雰囲気に変わり、一般見学者の側から勝者に祝福の言葉が大きな声でかけられたのだった。
お読みいただき、ありがとうございました!
武道場ですが、拝見させていただくのをすっかり忘れていたため、想像となっています。
ら、来年はちゃんと見てきます!
その4は12月15日(金)1200に投稿予定です!
よろしくお願いいたしますです!
ヾ(°∀°ヾ)