その2
このお話はフィクションです。
特に砕氷艦しらせの運用は完全にフィクションとなっていますが、そこは、まあ、見逃していただけると、その、嬉しいです(汗)
護衛艦“とさ”多目的区画での騒ぎが落ち着いた所で、土佐はスマホを返却しながら高崎に相談すると、他の当該艦艇達の艦長や艇長達とも相談するとしてその場での判断は保留された。
そして、後日決まった事の一部を紹介すると、
1つ、艦魂達は乗員を付き添い人として一緒に行動する事
2つ、艦魂達は付き添い人の一般の友人として行動する事
3つ、艦魂達は有事発生の際、付き添い人をその場に置いてでも速やかに艦艇に戻る事
等となっている。
なお、“しらせ”だけはスケジュールがはっきりと決定しているため、白瀬とその付き添い人は、他の艦魂や付き添い人達とは予定が違っている。
そして、偽名と付き添い人を各々、出雲は“大社泉”として衛生員の黒川冬実3曹が、白瀬は“白川緑”としてディーゼル員の森紗耶香士長が、橋立は“大江山郁野”として給養員の藤原弥生1士が付くという事にそれぞれ決まり、1日目である土曜日に行く事となった。
なお、2日目の日曜日に行く予定の土佐は、以前に高崎から名付けられた偽名“河内”に不服を申し立て、行く予定の日曜までに自分で名前を決める事を高崎に告げた。
同じく日曜日に行く中海とYT99の方は、複数の候補が上がってしまったため名字と名前の組み合わせで迷い、こちらも土佐同様に予定日までに決める事となった。
その他当日までの準備として各艦魂達の私服を購入したり、公共交通機関でのマナーやそこで使用されるICカードの使用方法等を各艦艇のWAVE(女性海上自衛官)達から、催し物が行われる場所やそこでの振る舞い等については艦長や副長等の士官の内、在籍していた事のある者から各艦魂達へそれぞれにレクチャー等が行われ、準備を整えていく。
なおYT99については乗員にWAVEがいないため、特務艇ASY91“はしだて”の藤原が担任した。
そして、催し物がある当日の土曜日に時間を戻して、時刻は午前7時38分。
行き先を【回送】と表示させたバスは、黒川や大社達を含めた乗客全員を降ろした後にロータリーを転回した後、帝急バス・須22系統は表示を【横須賀駅行き】に変えて、元来た道を下って行った。
催し物開始の約1時間半前に到着したが、既に門の前から列がのびている。
大社、白川、大江山の3人は楽しそうにその列の最後尾に向かっていった。
その一方、森と藤原は、自分達が乗ってきたバスを視線で追っていると、森は右肩に、その隣の藤原は左肩に手を載せられる。
2人はそれぞれに手を載せられた方へ振り向くと、黒川が少し暗い表情をしながら首を数回横に振り、2人の目を見ながらこう言った。
「森、藤原。・・・並びましょう。」
黒川のその様子から否定する事は出来ないと察して、藤原は大人しく大江山のそばに近寄っていった。
森は未練がましくバスの下っていった道路を見ていたが、右肩に載せられていた黒川の手に少し力が加わったように感じたため、色々と諦めながら黒川と共に大社達の所に向かう
「く、黒川3曹。あの正門にいる方の階級章って、に、2等陸尉さんですよね?」
黒川と森が列に加わった直後、藤原は震える声であまり見る事のない、陸上自衛隊の階級章を黒川に聞いていた。
その2等陸尉(以下、2陸尉)の右側に、見慣れない紺色で詰め襟の学生服のような姿に制帽をかぶる若い男性が不動の姿勢をとり、その2陸尉の反対側である左横と左斜め前には門柱があり、黒川達の位置からはまだ見えないのだが、左斜め前の門柱に掲げられている看板には、横書きでこう書かれている。
【防衛大学校】、と。
そして、2陸尉と詰め襟を着用している防大生の背後には大きな立て看板があり、そこには【防衛大学校開校記念祭】と大きく縦書きで書かれている。
「に、2等陸尉さんで、間違いないなさそうだね・・・」
黒川達も艦魂達同様ここに来るにあたって失礼の無いよう、陸上並びに航空自衛隊の階級章の確認等、必要最低限の学習は自主的に行っていたが、実際に目の当たりにした藤原は自信が無くなってしまっていたのである。
「藤原1士、今私達は私服ですもの、失礼の無い程度に挨拶すれば大丈夫ではないかしら?逆に誰かに10度の敬礼を始めたら、1日中する事になりますわよ?」
「そ、そそ、そうですよね!?」
藤原が大江山と涙目ながらにそう雑談している中、森は別の意味で涙目になっている。
「・・・だよねぇ。そして昭和27年8月1日に保安大学校としてスタートして、昭和29年7月1日に防衛庁と自衛隊が発足したのと同時に、ここ横須賀市走水にある通称『小原台』又は『防大』、正式名称、防衛大学校も誕生したんだよねぇ!それで、“大学校”となっている理由なんだけどねぇ?学校教育法第1条に規定されている“大学”と違って、防大と埼玉県所沢市に所在する防衛医科大学校は文部科学省の管轄ではなく、防衛省管轄で設置し運営しているから、“大学”ではなく“大学校”になっているんだよねぇ!それから防大と防医大は共に一般大学と同等の学士、大学院と同等の修士や博士の学位も取得できるんだよねぇ。そして学習の内容は学群と言うものに別れていて、理系に相当する群は応用科学群、電気情報科学群、システム工学群、それから文系に相当するのは人文社会科学群だそうなんだよねぇ!どれもこれも、学習してみたくなってしまうんだよねぇ!本当は関西にある西都海洋大学にある海洋生物コースにペンギンとかの研究室があるらしいから、そこにも行って授業を受けてみたいんだよねぇ!でも、防大にも興味深い応用化学科だったり機能材料工学科や地球海洋学科もあるからねぇ!応用化学科だと無機や有機化学だったり、淡路君にも使われているFRP、日本語では繊維強化プラスチックと言うそうなんだけどねぇ、そういった事が学べるそうなんだよ!それからそれから、燃料だったり火薬だったりも学べるそうなんだよねぇ!ワクワクするねぇ!それから艦長や副長達から聞いたんだけれども、時計塔の中には給水塔の機能と共に落下試験塔も兼ねていたり、各学生舎のエントランスには大隊を象徴するスコードロンマークが・・・」
いつもの事なのではあるが、森がついうっかり防大の学群や学科について疑問を口にしたとたん、白川の口から森の疑問だけでなく、歴史や学生舎について等が濁流のように溢れ出てきてしまい、聞いた自分が馬鹿だったと心の中で涙を流す。
森は途中で黒川や大社達に、救援を請うために視線を向けながら、心の中で国際信号旗Vを掲げるも、何処からも回答旗が帰ってこず、森は今日1日の行く末を悟ってしまった。
このV旗、意味は『私は援助が欲しい』である。
「あの、大江山さん?森士長を助けて上げなくてもよろしいのでしょうか?」
背後から止まる事なく聞こえてくる白川の声と、今にも悲鳴を上げそうな森の様子に、藤原は居たたまれなくなってしまったのである。
しかし、大江山は小さく首を横に振ると、少しだけ森達を見やってから、藤原を見る。
「藤原1士、白川さんはああなってしまうと余程の事が無い限り、誰にも止められないのですの。2次被害も考えられるので、森士長には耐えていただくしかありませんの。残念ですけどもね?」
大江山はそういうと、文庫本をショルダーバッグから取り出して読み始める。
表紙にはカバーがかけられていて内容は不明だが、大江山が開いた時に少しだけ見えたページからの雰囲気で想像するに、ライトノベルや恋愛小説ではなさそうである。
そしてそれから約1時間後の午前8時27分頃、門の中では自衛官達に動きがあった。
門の内外にいる数名の自衛官が持つ無線から、頻繁に音声が聞こえるようになり、当該する人物達も返答しているらしき音声も聞こえてくるようになった。
それに伴い、手荷物検査場にも人員が集まり、最後に手持ち式の金属探知機を持った数名の自衛官達が1度手荷物検査場を見てから正門の外を向くと、正門の側にいた2陸尉と防大の学生が顔を見合わせて、正面を向く。
並んでいた一般の参加者達もその様子にざわめき始め、大社や黒川達、それから森と(一方的に)喋っていた白川も何事かと口をつぐんで正門の方を注目する。
2陸尉は時刻を腕時計で確認すると、待機列に向かって右手で門を指し示しながら、案内を開始した。
「間もなく入場を開始しますが、ここを入っていただきますと手荷物検査場があります!鞄等は予め開けていただいて検査場へお進み下さい!スムーズな検査にご協力を・・・」
その他に金属探知機を通る事も説明し、こちらも予めポケット等から金属類を出すように案内をしている。
そんな中、2等空尉(以下、2空尉)と2等海尉(以下、2海尉)も出てくると、2空尉は大社達の側で、2海尉はその更に後ろの方に歩いていき、同様の案内を始める。
(へぇ、こうして見ると陸上や航空の隊員君達を見比べるのも、なんとなく面白いねぇ!・・・そう言えば、航海士君が1年の時の小隊指導教官?だった陸上の人、とても怖かったと言っていたねぇ?雰囲気が全然違ったと言っていたけれど、どんな人なのか見てみたいし、本当なのかも知りたいねぇ!)
気が滅入っている森に気づかれないようにしながら、白川は口の端を吊り上げた。
手荷物検査場を抜けて正面奥に本部庁舎が見え、そこの車寄せには時折入ってくる黒塗りの公用車が案内されている。
「黒川3曹、い、今通った車、陸将補さんが乗ってらっしゃったみたいですよ!?」
「森さん、その後ろから来た車、外交ナンバー着けてますよ!?」
「本当だ!テレビ以外では初めて見ました!」
「えっ!?あ、あれが外交ナンバー!?と言うことは黒川3曹!森士長!あの車には外交官の方が乗ってらっしゃるんですよね!?」
辺りをキョロキョロしながら、恐る恐る歩いている黒川、森、藤原の3人の後ろには、別の意味でキョロキョロしている者がいる。
「白川さん、後ろ見ながら歩くのは危険ですよ?」
「そうですわよ?大社さんの言うとおりですわよ?」
「大社君!大江山君!あそこに見えているのが理工学の1号館のようだねぇ!その隣が2号館のようだねぇ!」
白川は夢中になって、配布されていたパンフレットと実際の建物を見比べながら歩いている。
「と言うことは、あれが3号館だねぇ!?どんなものが見られるか楽し・・・」
そういいながら横の大社の方を見ようとした瞬間、白川の前方を歩いていた女性が突然立ち止まる。
「3号館!?」
そう大声を出して振り向こうとしている女性と、余所見をして歩いている白川が、衝突コースに入ったのが見え、大社はすぐさま大声で注意喚起をする。
「白瀬さん!ストップ!衝突警報!」
突然の事に、大社は思わず白瀬と本名で呼んでしまったため、先を歩いていた黒川達3人はぎょっとしてしまい、立ち止まって後ろを振り向く。
「大社君?なにご、ぎゃっ!」
「わあ!」
しかし大社の注意も間に合わず、白川と女性は衝突してしまい、お互いに転けてしまった。
「あいたたたぁ・・・」
「いたた・・・なるほど、このための注意だったんだねぇ・・・いたたた・・・」
腰をさすりながらよろよろと立ち上がる白川の背後で、黒川が女性の方へ駆け寄っている。
「すみません。私、海自衛生で3曹の黒川と言います。頭とか打ったりしていませんか?」
「ああ、大丈夫、大丈夫!足とかも挫いたりしてなさそうだし、切り傷も・・・出血も無いし、大丈夫!」
そのやり取りを背後で聞きながら白川は、大社と大江山から注意を受けている。
そこへ高校生位の男性が白川達に駆け寄ってくる。
彼は、跪く黒川の側まで来ると、両膝を地面につけて頭を下げる。
「メガネのお姉さん、母さんが迷惑かけてすみません!怪我とかありませんか!?」
男性はこの女性と親子関係にあるようだが、何故か母親より先にぶつかってもいない黒川の方を心配している。
「貴俊、母さんがぶつかったのは、あっちの人。こっちの人は海自の衛生さんだって。」
貴俊と呼ばれた男性は、目の前の黒川を見てすぐ白川の方を見て黒川に頭を下げる。
「あ・・・ごめんなさい!失礼しました!」
そう言って立ち上がると、白川に近付き頭を下げて謝罪している。
白川は貴俊をなだめると、立ち上がっていた貴俊の母親に声をかけて謝罪の意を示す。
母親の方はからからと笑い、自分も不注意だったと白川に謝っている。
「ごめんなさいね?貴女達が3号館に興味示してるみたいだったから、つい立ち止まっちゃって。」
「僕も前方不注意だったからねぇ。本当にごめんなさい。」
「いやいや、お互い様だよ!」
母親と白川が打ち解けたと思われるタイミングで、貴俊が母親に声をかける。
「母さん。時間も近いし、群馬地本の水上さんの所に行ってくるよ。」
「ごめんね?水上さんにはメールしてあるけど、『案内で忙しいだろうから、夕方に挨拶する』って、貴俊からも伝達しておいて?それから確認するけど会合地点、防大正門前。時刻、1700。いいね?それから時刻規制するよ。」
母親は男性が着用するような、黒色の耐水性、耐衝撃に優れていそうな腕時計を袖を少し捲って出すと、貴俊にも見るよう促す。
それを聞いた貴俊は、黒川や大社達を見て少し顔を赤くすると軽く抗議した。
「ええ~!?ここで!?恥ずかしいって!!それに昨日の夜やったじゃん!時間は合ってるよ!」
「だーめ!あれはお父さんの時計で、でしょ?万が一の事もあるんだから、恥ずかしいも何もないでしょ!?つべこべ言わないで始めるよ!」
貴俊の抗議も虚しく、母親は腕時計に表示されている時刻に視線を落とす。
「分かったよ・・・。お姉さん達、話し中にごめんなさい。こうなると母さん、僕の話を聞かなくて。」
貴俊は白川達に謝罪して、母親と同じ様な腕時計で自分と母親の時計の時刻を確認し、腕時計のボタンに人差し指を添える。
「いいよ、母さん。」
母親は貴俊の声を聞いた瞬間、表情を引き締めて目を細める。
白川は母親のその表情や様子の変化に、鞍馬や旗風達DDHやDDGの艦魂達を重ね合わせて見つめている。
大社と大江山も、白川と同様に思っているのだが、大社はそれとは別に思うところが出来たようで、厳しい表情を崩さずにいる。
「時刻規制を実施する。3、2、1、今。」
母親と貴俊の時計から同時にデジタル音が短く聞こえ、2人は腕を下ろす。
「それじゃあ、お母さんはこれから・・・」
「理工学3号館でしょ?潮静1佐がいつも言ってたよ。あ、急がないと!母さん、これも潮静1佐が言ってたけど、面白いからってお昼抜きは絶対ダメだからね!」
そう言うと貴俊は右手を軽く上げて、本部庁舎右側にいる戦闘服姿の自衛官の所に向かう。
「あ、貴俊!各大隊の学生舎、ちゃんと見てくるんだよ!特に1大隊!」
「分かってるって!」
貴俊は少し振り向くと、そのまま人の流れに乗って行ってしまった。
「まったく・・・お昼抜きなんて、今はそんな事しないのに。潮静君は余計な事言って。もう、やんなっちゃうんだから!」
その様子を見ていた大社、白川、大江山の3人は、傍目にはじっとその様子を見ているように見えるが、その実は無線で活発にやり取りをしていた。
『出雲君、あの女性は時刻規制をおこなったねぇ?』
『それも、2を2と言っていました。陸上、若しくは航空の方のようですね。』
『どちらかは分からないですけれども、自衛官のご家族は皆さん、ああいう事をされていらっしゃるのかしら?』
『それは無いんじゃあ無いのかねぇ?でも、ちょっと興味深いねぇ!』
そう言うと白瀬は、黒川達と雑談している貴俊の母親に近付く。
『白瀬さん、お止めになった方がよろしいですわよ!?森士長に怒られますわよ!?』
大江山が止めるのも聞かず、彼女達の輪に入っていく。
「先程は自己紹介もしないで、失礼してしまったねぇ。僕は白川緑と言って、今日は友人の森君達と遊びに来てみたんだよねぇ。」
森と藤原は、白川の突然の行動に驚きかけるが、下手に驚いた所を目の前の女性に見せる訳にもいかず、口をつぐむ。
黒川はなんとなく白川が動くであろうと思っていたため、特に驚きはしなかったものの、彼女達の話に合わせられるよう会話に注意を払う。
「私の方こそごめんなさい。3等陸佐(以下、3陸佐)の新町百合香です。それにしても白川さんって黒川さんと双子だと思っちゃいましたよ!そっくりですね!」
新町は白川と黒川を見比べて、顎に指をあてる。
「僕も黒川君と初めて知り合った時は、鏡でも見ているんじゃないかって思ったんだよねぇ!世の中って不思議だねぇ!」
少し大袈裟に驚いた白川に、嫌な予感、若しくは悪い予感のようなものを感じる5人。
「世の中には、自分と似ている人間が3人はいるって言われてるから、案外防大にあと2人くらい、いるんじゃないかなぁ?」
「人間・・・ねぇ。僕は・・・」
白川が返答を返そうと思った直後、森の強い視線と、大社の無線を受ける。
『白瀬さん、正体を公開するような事を言っては駄目です。』
『了解したよ、出雲君。別にそんな事言うつもり無かったんだけどねぇ?僕にはどうやら信用が無いようだねぇ?』
そこへ大江山がその会話に加わる。
『仕方ありませんわよ。森士長から呉での艦艇公開の件、伺ってしまっていますもの。』
『橋立君にも了解だねぇ。・・・やれやれ、本当に僕は肩身が狭いねぇ。』
実際にはバックグラウンドでやり取りをしているのだが、見た目に黙ってしまった白川に、怪訝そうな表情で尋ねてくる新町。
「白川さん?急にどうしたんですか?」
白川は慌てて意識を新町に向けて、取り繕うように早口で喋る。
「いや、あ、研究室が気になってしまってねぇ!森君!先ずは記念講堂に行って、空気力学実験室と理工学3号、4号館が見られるようになる10時まで研究室のブースを見ようじゃ無いかねぇ!?」
自分に話しかけられると思っていなかった森だったが、不自然にならないように肯定の意を示す。
そしてここで白川と森、大社と黒川、大江山と藤原に別れて行動する事になった。
なお、森は横須賀出港の時刻もあるため1400までには防大を出発せねばならず、白川の面倒は黒川が引き継ぐ事になっている。
出発時刻が森と白川で違うのは、白川のみに使える裏技が理由である。
「ねえねえ、白川さん、森士長?良かったらさ、卒業生の私が案内してあげるよ!どう!?」
白川達が黒川や藤原達を見送ると、新町は目を輝かせて白川に聞いてくる。
森は本当なら白川の事があるため断りたかったのだが、3陸佐の新町には言いにくく、白川が自主的に断る事を祈っていた。
「本当かねぇ!?いやあ、中の事を知ってる人に案内してもらえるなんて、なんて幸運なんだろうねぇ!嬉しいねぇ!森君!一緒に行こうじゃないかねぇ!!」
白川が何の躊躇いもなく脊髄反射のように発した言葉が耳に届いた瞬間、森は白川の言動に気を付けながら新町にも配慮しなければならないという、彼女にとって地獄のような展開が決定した。
(私にどうしろって言うのよ!何で白瀬1尉に関わるとこんな事になっちゃうの!?もう、帰りたい!機関室に引きこもりたいよぉー!)
そして森は、帰りの帝急バスの行き先を横須賀中央駅行きに変更すると共に、胃薬を買ってから帝急の電車で横須賀基地に帰る事を決定した。
お楽しみいただき、ありがとうございました!
余談:執筆中の11月26日(日)に、“しらせ”はオーストラリアのフリーマントルに到着しました。
今後の乗員や隊員の皆様の、御安航をお祈りいたします!