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その1

このお話はフィクションです。


 時刻は午前7時27分、場所は神奈川県横須賀市を通る県道209号線。

 その道にある馬堀(まぼり)交番西側交差点を直進した帝急バスの最後部に、黒川(くろかわ)冬実(ふゆみ)3等海曹、(もり)紗耶香(さやか)海士長、藤原(ふじわら)弥生(やよい)1等海士が並んで座っている。

 外の様子は秋も進んでおり木々も冬仕度を段々と進めていて、所々に葉っぱが枯れ落ちて寒々しい光景も見受けられる。

 そんな外の様子に合わせるように、3人とも何故か表情が冴えずに寒々しく、まるでお通夜状態になっている。

「黒川3曹、森士長。このバス、横須賀駅に戻らないでしょうか?すごく気が重くなってきましたよ・・・」

 藤原の重苦しい声に、右隣の森とその更に隣で右端窓際の黒川は、全く同じタイミングでため息をつく。

 ちなみに今日は3人とも上陸許可がきちんと出ているのだが、別々の艦艇乗員がこのバスに偶然乗り合わせた訳ではない。

「まぁまぁ給養員の藤原君?せっかくのお祭りなんだから、楽しまなければ、損ではないかねぇ?」

 1つ前の2人掛け席通路側に座る黒縁メガネの女性、白川(しらかわ)(みどり)が後部席中央に座る藤原に笑顔で振り向く。

 その表情はとても楽しみだという感情が溢れ出ていて、誰がどう見ても子供のようにはしゃいでいるようにしか見えない。

「白川、さん。あの、白川さんは気にしないかもしれないですけど、私達はすごく気になりますよ・・・」

 その藤原の声に、白川と双子のようにそっくりな黒川が、赤く細いフレームのメガネを人差し指で上げ、ずれを直すと白川にため息混じりに心情を吐露する。

「本当の事を言うと私も正直、森さんと藤原さんと一緒で、気も足も重いです。高校生の頃に行った時は楽しめましたけど、あの時と違って今は周りが気になって楽しめそうにないです・・・はぁ・・・」

 間に挟まれた森は、俯いたままになっている右側の黒川と、落ち着かない様子で座っている藤原を見て、立つ瀬がないといった状況に追い込まれている。

「黒川3曹、弥生ちゃん・・・。(うち)の“白川”さんが暴走しちゃって、本当に申し訳ないです。ごめんなさい。」

 深々と頭を下げる森へ白川の右側に座る大社(おおやしろ)(いずみ)も、森に頭を下げる。

「いえ、それを言い出したら、あの子が不用意に話をしてしまったのと、私も反対しなかったのが原因でもあるんです。私からも謝らせて下さい。」

 そんな様子の彼女等に対して、藤原の左隣に座る大江山(おおえやま)郁野(いくの)は徐に、膝に乗せたワインレッド色のショルダーバッグからチョコ菓子の箱を取り出すと、中から2つ取りだして1つを藤原に渡し、もう1つを自分で食べる。

「たまにはこういうお菓子も良いものですわね、藤原1士?」

 藤原は受け取ったチョコをじっと見てから、おずおずと口に含む。

「美味しい・・・けど、良いのでしょうか?大江山さん・・・」

 不安が残っているのか、藤原にチョコの味を楽しんでいる様子は無い。

「藤原1士、気にしては駄目ですわよ?白川さんのように楽しんだ方が健康的だと、黒川3曹、森士長も思いませんこと?」

「大江山さんの言うとおりかもしれませんね・・・」

「大江山さんの言うことも分かりますけどぉ!あぁ、弥生ちゃんの言った通りに横須賀駅に戻ってほしいよぉ!」

 頭を抱え、駄々っ子のように頭を左右に振る森をよそに、白川は大江山の持つチョコ菓子の箱を見て、それを指差す。

「大江山君。そのチョコ菓子、僕と大社君にも1つずつ分けてくれるかねぇ?」

「よろしいですわよ?どうぞ、お食べになってくださいな?」

 大江山からチョコを2つ受けとると、大社に1つ手渡す。

 白川は大社が食べたのを見て、自分も食べようとして手を止め、森に声をかける。

「そうだ、森君?忘れていたけれども、公共交通機関では周りの迷惑も考えようねぇ?」

 白川の物言いに対して森は、つい反射的に答えてしまう。

「誰のせいだと思ってるんですか!?白川さん!お願いですから少しは自重(じちょう)してくださいよぉー!」

 そんな彼女達の悲喜こもごもを乗せた帝急バスは、中学校のある交差点を右折して、峠道のような坂を登っていく。


 このような事になってしまった原因は、数週間前の護衛艦“とさ”多目的区画での出来事にまで遡る。

 そこには土佐、橋立、白瀬、YT99、それから輸送艦“いわしろ”の近くで沖留めしている出雲と補給艦“なかうみ”の中海が、特に示し会わせた訳でもないのだが、なんとなく集まって雑談をしていた。

 なお、服装は白瀬、中海、YT99は曹士用の青い作業衣、それ以外は幹部用の紺の作業衣を着て、作業帽や部隊識別帽は区画内壁際のテーブルへ、綺麗に並べて置かれている。

「もうすぐ南極に行くから乗員君達は忙しそうにしてるのに、僕はどうしていいのか分からないでいるから居場所が無いんだよねぇ・・・。去年はどうやって暇を潰していたのか、忘れてしまってねぇ・・・」

 そう言いながらテーブルに突っ伏している白瀬に、土佐はホットコーヒーを渡す。

「白瀬さん、どうぞ。熱いですので、気をつけて下さい。出雲姉さんもどうぞ。」

 白瀬の後、出雲と中海にもコーヒーを渡すと、残る2人と自分の分のコーヒーを取りに戻る。

「私も白瀬さんと同じで、乗員の皆さんに見られるようになってから、見られる前はどうやって過ごしていたのか思い出せない時があります。」

 出雲が目を細めてそう言うと、YT99もそれに同意する。

「出雲1佐の言うとおりですね。私、去年の今頃、何してたっけな?」

 コーヒーを一口飲んだ中海は、コーヒーカップをテーブルに置くとYT99の方を見る。

「私もそれ、良く分かるよ!99(くく)ちゃんと(おんな)じ意見だなぁ。私も何してたっけなぁ?」

 そこへ土佐が戻ってきて、橋立とYT99にコーヒーを渡して席に座ると自分もコーヒーを飲む。

「その通りですわ。出雲1佐達の言うとおりに、(わたくし)も・・・思い出せない時がありますの。何となく恐ろしいですわね、・・・変化に慣れてしまうという事は。」

 橋立はそう言って、自身の所で作ったカステラを手元の皿に一切れ移すと、フォークで一口大に切って口に運ぶ。

 中海もカステラを自身の皿に移すと、橋立と同じように一口大に切って食べる。

 口に含んだ瞬間、中海は驚きで目を見開き、フォークをくわえたまま悔しそうな表情になる。

 中海はフォークを口から離すと、残りのカステラをまた一口大に切ってフォークに刺し、今度は直ぐには食べず、回したりしながらカステラを丹念に観察し始める。

「これ、ザラメ入ってる・・・それに・・・焼き方も・・・後、多分あれも入れてるかも・・・再現出来るかな?・・・材料はあったかな?・・・あっ、待って?みんなの分を作るとなると、予算は・・・」

 中海は白瀬と似たような性格を垣間見せながら、カステラへ没頭しているのを余所に、YT99と土佐が隣同士で、出雲と橋立とテーブル越しに白瀬が会話をしている。

「そういえば、高崎艦長がもうすぐ11月だと言って、何かを楽しみにしていましたね。」

 白瀬は土佐の言葉に興味を持ったのか、体を起こすと少し前のめり気味になって、どういう事かと質問をした。

 ただ、土佐も護衛艦とさ艦長の高崎から聞きかじっただけだったので、詳しいことまでは知らなかった。

 そのため白瀬はいてもたってもいられず、土佐が止めるのも聞かずに多目的区画を飛び出し、高崎を探しに行ってしまった。

『土佐君!僕はどうやら迷子になってしまったみたいだねぇ!申し訳ないけど、迎えに来てもらえないかねぇ?』

 見当違いの所を探し回った挙げ句の果てに、元の多目的区画へ自力で戻れなくなってしまった白瀬は、土佐に先程のような救援を請う無線を送信する事態となってしまった。


 白瀬を連れ戻した土佐は彼女に動かないよう言い含め、橋立達に見張りをお願いしてから艦長室へと向かった。

「あの話を詳しく聞きたい?」

「はい。教えていただかないと、白瀬さんが艦内でまた遭難する可能性があります。」

「白瀬って、あの砕氷艦“しらせ”艦魂の白瀬が?“とさ”で遭難?・・・それは困るな。」

 土佐の言葉に腕組みをして椅子の背もたれに寄りかかると、土佐へ呆れたような表情を見せる。

「お手数かけて申し訳ありません。」

 何も言えないといった表情で、土佐は高崎に向けて騒動に対しての謝罪をする。

「といっても、今日も色々忙しいから俺が行く訳にも、使ってるからパソコンを貸す訳にも・・・。土佐、俺のスマホの使い方とかは覚えているか?」

「はい、覚えています。」

 高崎は自分のスマホを取り出すとアイコンの並ぶ画面を開き、1番下に表示されているブラウザアプリを、土佐に見せながら指差す。

「だったら、このブラウザアプリで検索してみて、もし分からなかったら、神奈川地本のホームページを見てみろ。多分もう両方に載ってると思うけどな。スマホのパスワードはお前にも使えるように今、変更しておく。『とさ(お前)の艦首に、はしだて接舷』がヒントだ」

 そう言いながら高崎は、自分のスマホを操作してパスワード変更を始める。

「復唱します、艦長。『とさ()の艦首に、はしだて接舷』ですね?」

「分かるよな?」

 高崎は変更を終えると、確認の意味を込めてロック画面にして土佐へ手渡す。

「ええ大丈夫だと・・・。艦長、画面開きました。それでは少しお借りします。貸与されている際にこのスマホへ連絡が入った場合、早急に艦長へ返却します。」

 高崎にロック解除した証を見せて確認してもらうと、また画面ロックをして自身のズボン右ポケットへと仕舞う。

「ああ、そうしてくれると助かる。」

「それでは、多目的区画へ戻ります。」

 土佐は10度の敬礼をしてから、多目的区画へと戻っていった。

 その背中を見送った高崎は、書類を広げ直すと直前までの作業に戻るが、ふと手を止める。

(土佐と喋ってると全部話さなくても伝わるから、言葉足らずに気ぃつけねえといけねぇなぁ・・・。楽なのも、困ったもんだいのぉ・・・)

 心の中でひとりごちると、また、書類作業の続きを始めた。


 再び多目的区画へ戻った土佐はというと、ロックの解除用画面を呼び出し数字を入力し始めた。

 情報を早く見たいと土佐の手元を見ていた白瀬は、その指の動きから数字を読み取って理解し、出雲と喋っている橋立を見てから、土佐を見る。

(へぇ。土佐君の艦長、根っからの自衛艦艇好きなのかねぇ?パスコードが91186だなんて、安直すぎやしないかねぇ?セキュリティがなってないねぇ。後でお礼を言わせてもらうのを口実に、艦長の高崎1佐には、土佐君共々お説教しないといけないかねぇ?)

 高崎と自分に、背後でメガネを光らせている白瀬からの長大で理不尽なお説教が忍び寄っているのにも気付かず、土佐は白瀬からリクエストされた情報の検索を行っている。

「白瀬さん、これだそうです。開催の日付、今年は11月第2週の土日ですね」

 ブラウザアプリで検索した結果を見せると、白瀬は土佐の左手に自身の右手を添えて画面を自分の方に少し向けて内容を確認する。

「どれどれ?・・・これは残念だけど1日目の土曜日だけだねぇ。2日目は晴海から出港予定なんだよねぇ。行きたいんだけどねぇ・・・」

 机の向こう側から出雲が身を乗り出して、土佐の左手側からは橋立が横からスマホの画面を見ようとしている。

 YT99はというと、3人の鉄壁のディフェンスに阻まれ、それでもなんとか見ようと背伸びしたりジャンプしたりしているのだが、土佐が気付くまで画面を見ることは出来なかった。

 中海はというと、まだフォークに刺したカステラを凝視したまま長孝している。

「では、行くのは諦めるのでしょうか?」

 白瀬は指を真っ直ぐに伸ばしたまま、中指でずり下がったメガネを元の位置に戻すと、手はその位置のまま土佐の方を向く。

「何を言っているのかねぇ?」

 そう言った白瀬は手を下ろすと、土佐に向かって早口でまくし立て始める。

「土曜日は行くに決まってるじゃあないかねぇ、土佐君!イベントの予定を見ただけで、凄く面白そうな予感がするんだよねぇ!僕の知的好奇心も、凄く刺激されてしまうねぇ!!これ!この字を見てみてほしいんだよねぇ、土佐君!ワクワクするよねぇ!心がとっても踊ってしまうねぇ!!南極に行くのと同じくらいにワクワクするねぇ!来年にこのチャンスが巡ってくるとは限らないんだよ!?出雲君!土佐君!99(くく)君!中海君も今すぐこれから行けるように、急いで上陸許可を皆で取ろうじゃあないかねぇ!!」

 そう言った白瀬が多目的区画から出ようと立ち上がると、出雲も慌てて立ち上がり、白瀬の行動を阻止しようとする。

「今日はダメです、白瀬さん!向こうに迷惑がかかります!土佐!99(くく)さん!白瀬さんを取り押さえて!」

 出雲の大声に反応して、土佐とYT99も出雲と一緒に慌てて白瀬を取り押さえ、椅子に座らせる。

 橋立はその間に全員のコーヒーカップを避難させていたため、誰かしらが激しく机に何度かぶつかっているのだが、全員がコーヒーの被害から免れたのである。

「何をするのかねぇ!?僕の好奇心を満たしてくれるかもしれない場所へ今すぐ行く邪魔をするなんて、いくら君達でも僕は許さないからねぇ!?」

「白瀬さん、催し物は少し先ですよ!?お願いですから、落ち着いて私達の話を・・・」

 土佐の言葉を遮り、白瀬は興奮状態のまま彼女達を睨み付ける。

「だったら君達!僕から離れたまえ!これでは話にならないじゃないかねぇ!」

「でも、私達が離れたら、今すぐ行く気ですよね?この会場へ。」

「私も姉さんの言うとおりだと思います。お答え下さい、白瀬さん。」

 出雲の質問に土佐も賛同すると、白瀬はきょとんとしてしまう。

「当然じゃあないかねぇ?」

 さも当たり前だと言わんばかりに白瀬がそうに答えると、出雲と土佐はそれぞれ白瀬の左右に別れ、出雲は左の、土佐は右の腕をしっかり掴んで、椅子から立てないようにしている。

「ダメですよ、白瀬さん!」

「そうです!出雲姉さんの言うとおりです!」

 白瀬は出雲と土佐を交互に見ながら、子供のように両足をばたつかせて抗議の意思を示す。

「出雲君!土佐君!その手を離したまえ!こんな楽しそうな事、何日徹夜してでも参加しなければいけないんだよねぇ!これは僕に課せられた義務なんだよねぇ!!」

「そんな義務、聞いたことないです、白瀬1尉!!」

 中海と自分以外が混乱している状況にそろそろ終止符を打とうと思い、橋立は動くことにした。

「まあまあ、白瀬さん?コーヒーでもお飲みになって、少しは落ち着いてくださいな?」

 避難させていた白瀬のコーヒーをテーブルに置くと、自分のコーヒーも自分の目の前に置いて座る。

「だけどねぇ、橋立君?この状況でどう落ち着けば良いのか、教えてくれないかねぇ?」

 そこで橋立は、自分と話をきちんとする事を条件に白瀬を解放する事にした。

 白瀬が受け入れた事で、出雲と土佐は白瀬から離れ、YT99もその様子を見守る事にした。

「今慌てた所で、この催し物は数週間後。まだまだ時間はございますわよ?大体、白瀬さん?行ける距離ですの?確認はされましたの?それから行き方はお分かりですの?分かったところで日帰り出来ますの?根本的な問題として、どうやってそこまで行くのですの?白瀬さんはすぐにこれらの問いにお答え出来ますの?」

 橋立は、普段の穏やかさの中に剣呑な雰囲気を忍び込ませ、隙あらば白瀬の考えを突き崩そうと、疑問を白瀬の喉元に突きつける。

 その様子を見聞きしていた出雲達は、橋立が得意とする銃剣道を、何故か連想してしまう。

 白瀬はと言うと、橋立の威圧にも何処吹く風といった表情で立ち上がり、両手を腰に当てる。

 白瀬が立ち上がった事で3人は慌てそうになるが、橋立は手だけで落ち着くように指示をする。

「ふふん!橋立君、馬鹿にしないでくれたまえ。この前、浦賀水道を通った時に航海士君に場所を教えてもらっていたからねぇ。ここから浦賀水道を通っていけば、あっという間に着いてしまうねぇ!」

 それを聞いて橋立は俯いて、首を数回ゆっくり左右に振ると顔を上げ、白瀬の目を覗き込む。

「白瀬さん、根本的な事をお忘れですわよ?」

「根本的な事?それは何かねぇ?」

 白瀬は右の親指と人差し指で黒いメガネフレームを摘まむと、橋立に詰め寄るように、テーブルへ身を乗り出す。

 橋立はゆっくりとした動作で、コーヒーを勿体つけるように飲むと白瀬にこう聞いた。

「観音崎の近くに、白瀬さんが停泊出来る場所がありますの?」

 出雲、土佐、YT99は橋立の疑問を聞いて、3者3様に橋立の質問は何か間違っていると思いつつ、口を出さずに全てを一任する事にした。

 別の言い方をすれば、『丸投げ』である。

「橋立君?それは当然考えていないんだよねぇ。沖留めしか“しらせ()”には選択肢はないねぇ!」

 白瀬は自慢気にこうに言っているが、南極往還任務に向けての出港が迫っている中、彼女の知的好奇心を満たす事だけのために横須賀から出港出来るはずもなく、艦長はどうか分からないが、他の“しらせ”乗員、特にディーゼル員の森に聞かれた場合には、猛抗議を受ける事は想定内であろうと思われる。

 事実、森が艦長から白瀬の付き添い人に選ばれた直後に土佐からこの話を聞き、白瀬に機関室で長々と説教をしている所を、大林や中岡達に目撃されている。

「あんなに交通量の多い浦賀水道に白瀬さんが沖留めしていたら、海上保安庁の方々が鬼のような形相で、サイレンを鳴らしながら最大戦速で取り締まりに来てくれますわよ?それでもよろしくて?」

 海保と聞いた白瀬は、海保第三管区海上保安本部(三管)横須賀海上保安部の面子を思い出す。

 白瀬は普段、第2術科学校すぐそばの田浦港にいる、海保の巡視船PS07“あしたか”や巡視艇PC33“うらゆき”の艦魂達{海保側は船魂(せんこん、又は、ふなだま)と呼称している}とも仲良くしているため、彼女達の立場等も考えて、自身の考えを改めたのか大人しく座る。

 土佐は場が落ち着いた所で地図のアプリを立ち上げると、自分達のいる逸見(へみ)桟橋付近に目印をつけ、目的地にも同じように目印をつける。

「皆さん、ちょっと聞いてください。ここから目的地まで大体4海里(約7km)ちょっとです。行ける範囲内ですし、許可をもらって当日に皆で行ってみませんか?」

 この提案に、白瀬は即座に賛成し、出雲とYT99も賛成する。

 土佐は、未だにカステラを見つめていた中海にも声をかけて行くかどうか聞いてみたが、渋る様子を見せた。

 しかし橋立が中海に何事かを囁くと、突然勢い良く立ち上がるや否や、今度は中海が暴走しかかってしまい、出雲達に混じって白瀬も参加して取り押さえるという、ある意味で貴重な光景も見られる事になった。

 そして白瀬はこの事が原因で、パスワードの事を注意する件をすっかり忘れてしまい、高崎と土佐は気付かない内に白瀬の説教を回避する事に成功したのである。


お楽しみいただきありがとうございました。

次話も是非よろしくお願いいたします。

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