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ダンジョンズガーディアン  作者: イチアナゴニトロ
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4話

 金属鎧の一団がこの城に向かっているのをお館様に伝えると、慌てた素振りは無いが困惑した様子だった。


「はて? 我がこの城を顕現させまだ間もないぞ? ダンジョンを顕現させたのはお前が目覚める少し前なのだから、300人もの人間の群れがやって来るとはおかしいの?」


 お館様は不思議がってるが、人間の中に未来予知や予言でも授かった者がいるのかと予測を立てたら、後は現実的な対応だった。


「まぁ実際に来ているのだから仕方がない。紅雪鬼よお前にこれを授けよう」


 と言ってお館様が取り出したのは、使用者の代わりに致命傷を受け持ってくれる『身代わり人形』だった。金貨千枚くらいする高い奴で、致命傷を受けたら入れ替わるように転移できる高級品だ。


 俺の髪の毛を一本抜いて身代わり人形に埋め込む。そしてこの城の最下層に置いておくだけだ。これで仮に斬り殺されてもその場から転移しダンジョン最下層に戻れるのだ。


 お館様は今から分身が集めた精気で戦闘力を取り戻すそうで、結構時間が掛かるから俺に足止めを命じた。命じられた上に保険までかけて貰ったんだからやるしかない。折角自由に動く身体を手に入れたんだから生まれた日に死ぬなんて御免だ。


 監視によると金属鎧の一団、長いから騎士団と仮に呼ぶとして。騎士団は真っすぐに城を目指しているが、野生の魔物との戦闘を繰り返していて移動速度は低い。


 あ、そっか地表部分の城どころか、かなり広範囲に紅い雪を降らせたから、気温下がって周囲の魔物が逃げたのか。そんでイライラしてる時に人間が来たら襲うわな。


 悩んだが城の外で騎士団に襲撃を掛ける事にした、ダンジョンに入ってから退却して、準備を整えて再度やってこられるよりも、上手くすれば全滅させ情報を渡さないようにする方に賭ける。


 できれば俺の固有魔法知られないようにしたいけど……無理だな、努力はするが諦めよう、初めて使ったから範囲の調節間違えたっぽい。


 城の外でも通販もどきは使用できるのを確認し、駆ける。馬とか買う事も出来るけど乗馬経験ないからな。それよりは思いっきり走れるのが嬉しい、しかも悪魔の肉体、山羊の角が生えてるだけあって、まるで風を切るかのような感覚だ。


 騎士団が目視できるところまで近寄り、木々に隠れながら監視を続けると。連中は10メートルくらいあるカメレオンっぽいトカゲを倒し、何やら解体してる。


 一部は火を焚く用意をしてるから休憩するのかな? 油断はして無いようだがそれは周囲を見張ってる一部だけ、残りは解体に集中、乃至は休憩の準備に気を取られてる。


 お館様は人間たちの中に予言なり予知の能力を持つ者がいて、悪魔の城の出現を知ったのだと思ってるが俺は違う。近くで見れば明らかに嫌な感じのする武器、恐らくは悪魔に対し特効のある武器を全員が持ってる。


 城の位置はお館様の姉君が勧めた場所。城が顕現した日に準備万端でやって来た騎士団がなんの関係も無いと思うのは、多分お館様のようなお人好しの箱入りだけだろう。


 通販もどきで買ったアイテムを数種類懐に収め、あるいは装備する。頭の中で思いつく事態を何度も考えながら呼吸を整える。落ち着けあいつ等は敵だ、こっちが殺さなければ殺されてしまう。


 全員殺す、情報を持ち帰らせたら不利だから殺す。生き残りがいれば情報を絞り切った後で始末する。悪魔になってしまったせいか、初めての実戦で緊張はしても、これから人を殺すという嫌悪感はない。


 深呼吸を繰り返すと、いつの間にか程よい緊張だけが残り手足の震えはもうない。よし……殺る。


 通販もどきで買った物の一つ。所謂煙球の一種で、この玉の中には大量の水蒸気が詰まっている。目晦ましだけでなく、火災の消火とか庭園の水やりとかに使えると注意書きに書いてあった。


 騎士団が火を焚き全員が集まった所に、水蒸気球をありったけ、囲むように投げ込むと、一瞬で真っ白な霧に包まれる。訓練された連中なのだろう即座に焚き火を中心に円陣を組んで警戒する。


 そして動きを止めたところで紅い雪を降らせる。中には魔法で霧を吹き飛ばそうとした奴もいたみたいだが、用意していた俺の方が早かった。紅い雪により魔術の発動は阻害され騎士団の周囲は極低温に晒される。


 金属鎧を着てる為か凍えていても吸血は発動していない。まぁ仕方がない、鎧の結合部分が凍り付いて碌に動けないなら凍死して貰うまでだ。


 その代わりに連中の倒したカメレオンもどきに雪が触れると、見る見るうちに干乾びて、俺の体内に何やら温かいモノが流れ込んでくる感覚があった。


 簡易型水晶で確認して見るとなんとレベル3になっていた。成程こんな感じで血を奪えば強くなれるんだな。それじゃ折角だ騎士団からも血を貰うとするか、戦闘型ゴーレムを買い、連中の鎧を破壊するように指示する。


 そして、一番情報を持ってそうな、指揮官らしい豪華な鎧を着た小柄な人物だけは、殺さないように攻撃不可を指示。ただし手足を掴んで離さないように。寒さで凍死する前に結構高い回復薬を飲ませれば死にはしないだろう。


 数機のゴーレムが近寄ると騎士団の中から悲鳴が聞こえ……そして金属が破砕する音と共に、紅い雪に触れた騎士達から精気が流れ込んでくる。


 凍って動けない連中はもう危険じゃないな、後は逃れた奴がいないか確認しないと。ダンジョンを守り続けて、何時か知れ渡るのは仕方ないにせよ、俺の固有魔法は出来るだけ長く隠匿したいものだ、それが俺の安全に繋がるからな。


 300人いた騎士全員から血を絞りきったところで、見るからに金の掛かってそうな鎧の人物に向き合う。フルフェイスの兜を取り外すとなんと意外にも年若い、多分10代半ばの綺麗な金髪が印象的な美少女だった。


「あ……あくま……私を……」


 寒さで碌に口が利けないのかぼそぼそとした声で聞こえにくいが、敵愾心に満ちた目で俺を睨みつけてるから多分罵ってるんだろう。


 先ずは武装解除だな、魔法は使えないから意味ないけど、他の騎士が装備していた武器に比べて遥かに嫌な気配のする杖を取り上げ……触れた瞬間手の平に焼けるように痛みが走る。


 杖を取り落し、自分の手を見ると焼け爛れてしまっている。なんなんだこの杖は、こんなもので殴られたら一発で死にかねないぞ。


 一先ず自分の手に回復薬を垂らすと、流石高級品なのかあっという間に痛みが引いて火傷も消えた。ゴーレムなら問題なく触れるみたいだから、杖を持たせた一機だけ先に城に帰す。こういう危険物の取扱はお館様に相談しよう、間違っても放置なんて出来ない。


「あ……せい……じょ……返し……」


 ふむ、尋問するにしても正直に話すとも思えないし、自白剤の類も通販もどきで売ってるけど何でもかんでも買ってたら金が足りないな。お館様に頂いた資金はまだまだあるけど、今後を考えると無駄遣いはいかんな。


 一応死なない程度に血を奪ってから……首筋に噛みつき血を吸うと、体内に駆け巡る圧倒的な熱量に危うく悲鳴を上げるところだった。


 なんだ?! この女の血を吸った途端に身体の底から力が沸いてくるようだ。 予め1リットル程度と決めていたから良かったが、そうでなければ干乾びるまで血を奪っていたかもしれない。


 血を奪われ朦朧としてる女から見えないように水晶で確認してみると……なんとレベルが30まで上がってる。なんだ? 騎士団300人分吸った時でレベル10前後だったと思うから、この女一人で300人分を遥かに超える精気を持ってるって事か?


「お前、何者だ?」


 ゴーレムの拘束を外させ首を掴んで持ち上げると、女は苦しそうにしながらも俺を睨み続ける。首から下が鎧ごと凍り付いてるのに気丈なものだ。


 この女連れ帰ってお館様が血を飲めば、かなり戦闘力が回復するんじゃないか? そもそも俺が焦って城の外で迎撃に出たのも、お館様が分身を使い過ぎて弱ってるのが原因だし。


 考えてると凍った草花を踏み潰す音が聞こえ、振り返ってみると……あの杖と同等の気配を感じる剣を持った少年が駆け寄って来た。


「おい貴様! 姫様を放せ!」


「ほぅ? この女は姫と呼ばれる身分か、貴重な情報提供ありがとう」


 拙い、何が拙いってあの少年が持ってる剣は、さっき俺の手を焼いた杖と全く同じ嫌な気配を漂わせてる。これは固有魔法の情報を拡散させないなんて悠長な事言ってたら死ぬ。


 幸い捕らえてる女が本当にお姫様と呼ばれる身分の人間なら、周辺の知識は豊富だろう。仮にもの知らずな箱入りでも血だけでも価値は高い。


「くそっ! 騎士団の人達を殺したのはお前か!」


「いやいや勘違いしないでくれたまえ、実はこの女性が乱心し騎士の皆さんを攻撃し始めたのでね。ボクは必死になって彼女を止めたんだよ? 嘘じゃない信じてくれ。この目が嘘をついてるように見えるのかい?」


「……ぎっ……がっ」


「嘘つくな! 悪魔の言う事なんて誰が信じるか!」


 信じたらこの少年の知能を疑うわ。だがまぁ会話する事で、問答無用で斬りかかって来るのを防げたから良かった良かった。とりあえずひたすら頑丈なゴーレム20機と敏捷性が最も高いゴーレムを少年が斬りかかるのを躊躇してる間に購入。


 購入した頑丈なゴーレムを目の前の少年に嗾け、敏捷の高いゴーレムにお姫様を乗せ一目散に城へと逃げる。ついでだ水蒸気玉を放り投げて目晦ましにする。


 あーあ、これで俺の固有能力はバレたな。けどあの剣を前に博打するリスクは冒せないから仕方ない。

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