3話・裏
姉から貰った魔法のオルゴールに魔力を流し、流れる音楽を聴きながら黄泉姫は悩んでいた。
「こ、このような矮小な姿では姉としての威厳が示せぬ……ど、どうするべきか答えよレックス!」
最下層の広場の隅で寝ている巨竜は紅雪鬼の命名によりレックスと決まった。感覚の鋭い竜だから、彼女の声が聞こえないわけではなかろうが、興味なさげに欠伸されると腹が立つ。
「ううう、こんな姿でも主人として接してくれる紅雪鬼は優しいなぁ、流石我の弟よ……って優しくされるのではない! 我が優しくしてやるのだ!」
煩いとでも言いたげに長大な尻尾で床を叩くレックス。階層そのものが震え椅子から転げ落ちそうになるのを必死で踏ん張る姿は、魔将の貫禄など微塵もなかった。
「うん? 気のせいかこの巨竜、我のこと舐めてないか? い、いやそれはあるまい召喚した魔物は絶対服従故な」
巨竜は相談相手として役に立たないので、オルゴールに魔力を込めて音量を上げる。精神を落ち着かせる効果のある魔法のオルゴールが奏でる旋律に多少冷静になってくる。ついでにレックスはリラックスしたのか寝息を立て始めた。
「ううう、お姉さまならこういう時どうなされるのだろう?」
地上に送り出されどこにダンジョンを築こうかと迷っていたころ、ふらりと約200年前に独立した姉が現れこの土地を勧められた。
ダンジョンが攻略されてしまい、魔界へ帰れない身となった姉。そんな境遇でも自分を案じてくれて、このオルゴールを贈ってくれた彼女の強さを想い決意を新たにする黄泉姫であった。