3話
真っ赤な雪に覆いつくされた悪魔の城、この雪が積もってる範囲だと魔法も使えなくなり、極寒の大気がそれだけで護りとなる。
ゴーレムを操り一通り見回って侵入者がいない事を確認したら、今度は自分にできる事の確認だ。一応魔界と通販じみた買い物は出来たが、他の魔法を使いこなして戦う術を身に付けないとあっさり死にかねない。
希少度の高い固有魔法で弱点は無いとお館様は言うがとんでもない。俺以外が魔法を使えなくなるし、触れるだけで血液を奪われる空間とかゴーレム以外と共闘できない。ってかゴーレムはこっちで指示しないと動かないので、有事の際は俺が単独で戦わないといけないのだ。
例の黒い水晶から流し込まれた基礎的な魔法の知識により、低級の魔法であれば各種使える。雪に覆われた中庭で試してみたところ、得意な筈の氷属性は精々尖った氷柱を飛ばす程度、他の属性はもっとしょぼい、火属性は一切使えない。
前世病弱の俺に格闘技とかの経験もあるわけなく、見よう見まねで正拳突きなどやってみるが、木を殴っても凍って脆くなってるから参考にならない。正直自分がどの程度なのかが全く分からないのだ。
そりゃお館様は生まれたてにしては強いと言ってくれたが、言い換えれば赤ん坊の中でちょっと力が強いとかその程度ともいえる。なんでそんなのに警護を丸投げしたんだお館様よ。
まさか買ったばかりのゴーレムで試すのも勿体ないし、どうしようかと悩んで……通販もどきで何か試合とか力試し用のアイテムでもないか思いついたので確認してみる。すると『鑑定の水晶』なるアイテムがあったので買ってみた。
とりあえず大雑把なステータスが分かるだけの一番安い奴、高い奴は色々分かるみたいだけど今は必要ないからな。後地味に『名前が分かる』と注意書きのある水晶は必要な金貨の桁が違う。
俺の買った安い奴は金貨一枚で10個も買えるのに対し、名前が分かると注意書きの水晶は実に金貨十万枚。しかも同意なしじゃ絶対に分からないとか書いてある。これだけでも悪魔にとって名前の重要さが分かるな、あの全く疑うとかしないお館様が名前を教えてくれない訳だ。
とりあえず自分のステータスを試しに確認する。えぇっとEランクが最低でD、C、B、Aと5段階評価。これは『そのレベルの中』での評価で例えばレベル1のAランクよりもレベル10のCランクの方が強い。
まぁ安い奴なので上限もあるし目安にしかならない、もっと高い奴は具体的な数値が分かり細分化したステータスが把握出るみたいだ、
◆◆◆
レベル1
身体能力 B
魔法能力 A
知覚能力 B
固有魔法 A
◆◆◆
おお、俺って魔法が特に高くてステータス全般も高いぞ。こういう傾向が分かるだけ買った甲斐があると言うものだ、試しに少し高めの戦闘ゴーレムを確認すると……。
◆◆◆
レベル20
身体能力 A
魔法能力 ー
知覚能力 C
固有魔法 ー
◆◆◆
ふむ、少し高いゴーレムでレベル20となると俺ってめちゃ弱いじゃん! 他にも監視用ゴーレムでレベル5。警備用のゴーレムでレベル10と……うん早急にレベル上げをしないと俺死にそう。
レベルを上げるのに如何すればいいのかと言うと、とにかく精気を奪わないと悪魔は強くなれない。その手段は血を吸う事。
これを聞いた時は弱い魔物でも買って血を吸えばいいとか考え、水晶の間にいるお館様に伺ったところ反対された。お館様曰く……。
「お前の固有魔法は強力だ、付加効果の『吸血』によりお前の紅い雪に触れただけで精気を奪える。ただ弱い魔物など呼び出して紅い雪に放り込むような真似はならぬ、よいな?」
実はできないことも無いそうだけど、力こそ全てな魔界でも金で買った手下を殺して精気を奪うのはいくら悪魔でも如何なものか。という風潮で罰則を科せられるそうだ。
まぁ故意でなければ怒られる程度らしいが、意外と動物愛護の精神が魔界に広がってる方が驚いた。動物愛護と言うより、呼び出すコストより奪える精気が少ないため無意味で、かつ配下からの不信を買うと言う分かり易い理由があるわけだが。
お館様を見てると妙に人間臭い所はあるんだけど、どうにも話を聞く限り徹底して実利主義と言うか損得でしか物事を判断しないように思える。まぁ理不尽な悪意に晒されるよりは利己的な方が話しは通じるか。
「侵入者が来ない事が一番良いのだが、人間どもにとって悪魔の城は大きな武勲を立てる機会の場であり、我らの財貨を奪う目的でもやって来る。このダンジョンにもやがては大挙して人間どもが押し寄せるだろう」
ダンジョンの一番の目的は城の主の身を護る事。その為の通販もどきで買える魔界生物であり、俺のような眷属だ。特にお館様は分身に能力を費やし過ぎて、部屋から出る事すら困難な状況だから特に俺が気張らんとな。
「ダンジョンを顕現したこの土地は、お姉様が勧めてくださった土地なのだ。きっと見つかりにくい場所だとは思うのだが、油断はするでないぞ」
「お館様の姉君ですか? どのような方か伺っても?」
俺が聞くと50センチメートル程度の身体で、ふんぞり返りながら姉君の事を聞かされたのだが……。
曰く、姉君は腹違いらしく妾腹、というか愛人の子供で、一応お父上に認知されているが、多くの財貨を与えられ早くに独立しダンジョンを構えたらしい。お館様はお父上の慈悲深さを称えていたが、それって手切れ金渡して放り出しただけじゃね?
お館様視点の話だから、大分オブラートに包んでるとは言え、聞いてるうちにそのお姉さん、お館様憎んでても仕方ないと思えるエピソード満載である。
アカン、お館様悪魔の癖に悪意に疎すぎる。悪魔は基本的に利己主義なのは間違いない、客観的に聞いただけで姉君は、お館様の資産やら地位やらを狙ってるとしか思えん。
有力な悪魔である父親の娘として恥ずかしくないように厳しくされたとあるが、内容がアカン。お館様の英才教育は厳しいけど大分気遣ってると思えるけど、姉君の教育は聞けば聞くほど苛めとしか思えん。
百歩譲ってスパルタ教育が悪魔的に愛情なのだとしても、普通に死にかねない内容ばっかりだぞ。お館様が気付いてないだけでフォローがあったのかも知れないけど、聞いてる限り姉君は運だけ虐待と言って良いレベルの教育を乗り切ってる。
姉君がお館様を憎んでてたとしよう、そうすると勧めてきた土地も危なくないか……俺は一言断ってからすぐさま地表の城に戻り、広範囲をカバーできる高級なゴーレムを購入、すぐに城の周囲に解き放つと……いた。
このダンジョンまで徒歩であと一時間くらいの場所に全身を覆う金属鎧の一団、約300人くらいがこの城を目指し進んでいた。