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ダンジョンズガーディアン  作者: イチアナゴニトロ
38/49

19話

仕事の都合でちょっと裏話は作れず19~22話まで投稿します

 王城の敷地に入るとすぐにポケットに入れていた偵察用の使い魔を開放する。すると使い魔と感覚を繋いでいた影狐の声が聞こえてきた。


「紅雪鬼様! ご無事でしたか」


「俺の事はいい、クロの描いた地図は持ってるな? 玉座の後ろにある隠し部屋とやらを探し、『目印』をつけろ。やり方は分かるな?」


 本当は援軍連中に説明の手間を省くための、目印になるビー玉くらいの珠を使い魔に持たせる、王城の城壁には魔術的な防護があって外部から覗き見は難しいが、このアイテムは例えれば悪魔や魔界生物にだけ聞こえるサイレンのようなものだ。


 『目印』目掛けて召喚した魔界生物の群れを嗾ければ、召喚してから指示する手間が省ける。これを持ち込んだ時点で第一目標は達成。


「はい、玉座の近くでこの珠を割ればいいんですね」


「ああ、俺はもう一つやる事がある。急げ」


「はい! ご武運を」


 玉座の間に向かって飛んで行く使い魔を見送り、もう一つの作戦目標の許へ。


 騎士たちが全滅したことで王城内部は騒然となり始めた。さて、影狐の使い魔が無事に目標まで到達できるように、派手に暴れながら王族が住まう宮殿へ向かって駆けるとするか。


 かなり低い確率ではあるが、勇者召喚を恐れた俺たちによる黄金の鏡乃至は儀式場の破壊だと首脳陣に考えられては困る。万が一黄金の鏡を持って瞬間移動などされては目も当てられない。


 よって第二目標は俺たちの狙いはあくまで国王を狙った斬首戦術だと思わせる。少なくとも周囲の人間がそうだと信じれば、王族も玉座の間なんて目立つ場所から遠ざかるだろう、瞬間移動で安全な場所に隠れるかもしれない。


 実に結構、護衛には最大戦力の勇者が同行するかもしれないなら、その分こちらが楽になる。流石に天使の依り代になれるほど聖性の強い勇者を侮ることは出来ない。


 それに門番をしていた騎士たちも、正直侮っていたが油断すれば万が一がありうる。職務の為に自らの肉を引き千切ったり、自分に火球を打ち込むような連中だ、甘く見れば喉元に食らいついてくるだろう。


 よって油断せず、人目に付かない物陰を走りながら、見掛け倒しで戦闘の役に立たない、大きさだけが取り柄で、攻撃力と防御力は最底辺、ただデカいだけあって倒すにはちょっと手間がかかる、倒したら倒したでデカい音を立てて破裂する。そんなこの状況に大変適したバルーンゴーレムを、そこら中に「暴れろ」の命令だけで放置しつつ王城を駆ける。


 辿り着いたのは一面の花畑、その中心にある東屋の周囲には景観にそぐわない無駄に華美な鎧を着た騎士の一団が、二人の少女と口論してる最中だった。


「貴様! 何者だ!」


 派手な鎧を着た連中は放っておいて、少女二人を注視する。片方はいかにもお姫様と言った風情のドレス姿で、クロよりはどっちかというとメルに似た顔立ちの少女。


 もう片方は動きやすさを重視したラフなもので、隣の少女とはちぐはぐな印象だが、腰の剣からはあの聖剣にも似た嫌な気配がプンプンする。この距離でも分かる聖性の強さというと、まさか……。


「お前たちは姫を連れて城の中へ! コイツは……コイツはメルリーシャ姫を攫った悪魔よりも強いぞ!」


 ふむ、メルを攫った悪魔は多分クロの事だな、あの時はどっちも魔王様の血を頂戴してなかったから、あの時点のクロより強いのは確かだな。試してないから今はどうか知らないが。


 ついでに姫って事はあの娘が第二王女か。予定変更、「王族の血は美味いから寄越せウハハハ!」とかいう狂った悪魔の振りして、狙いは王族だって印象付けたかったけど、クロの提案もあるしここは勇者を狙おう。


「ツムギ! いけません一人でなんて危険すぎますわ」


「駄目です、この山羊の角にゴーレムを召喚する術。この悪魔は300人の騎士を殺しクロ―ディア様を連れ去った奴だ」


「知ってるなら話は早い、その少女を渡してくれないか? あぁクローディア姫もメルリーシャ姫も甘露のごとき血の味でね。姉の方はついつい吸い尽くしてしまったんだ、妹の方は死なないように気を使ってるけど、脆い脆い人間の子供が死なないように気を使うと、どうにも沢山血を飲めない。あぁもう我慢できなくてね、是非君も我らが城に招待したくて参上したんだ……君の血も美味しいんだろうなぁ。勿論お友達と一緒でも大歓迎だよ、人間の脆さを考慮して死なないように気を遣うし」


 自分で言ってなんだが胡散臭いな俺のセリフ。だが効果はあったようで、勇者の後ろの連中はビビって、我先に城の中へ逃げていく、まぁ自分の身体でお姫様を隠しながら、強引に連れて行くあたり忠誠心はあるんだろうな。


 五人の勇者の一人、ツムギと呼ばれるこの少女。クロから聞いた説明によると異世界では退魔師を生業とする一族にして、学生の身でありながら聖域を守護する重責にあったらしい……つまり巫女さん? 長くて綺麗な黒髪をポニーテールで纏めた凛々しい勇者は、腰に差した剣の柄に手を添えこちらを見据えている。


「容貌からするに各務紡(かがみつぐみ)だな。異世界では高校生で、神社の巫女を務めながら悪鬼妖魔を鎮め祓う退魔師だとか。勇者としての固有能力は各務姓が鏡に通じ、名前は紡、つまり鏡を紡ぐが、お前の本質にして固有魔法として昇華された」


「なっ!」


「鏡を紡ぐ、鏡を紡ぎ合わせ繋げる固有魔法……例えばお姫様がうっかり(・・・・)落とした手鏡に剣を刺せば、もう一歩進んだ先にある水溜まりから突き出るとかな」


「なんで……い、いやそれより貴様、私を巫女と……情報が漏れたとしても、この世界の人達には神官だと説明したんだぞ」


 質問に答える前に周囲に紅い雪を降らせる、色とりどりの花壇は一瞬で凍り付き周囲は血のように紅く染まる。


 あと凍えたままだと会話にならないので、体温を一定に保つ魔法道具を投げ与える。暑くても寒くても影響を受けないので、地味に便利だ。投げつけるとそちらに意識が向くから、感情のふり幅が大きくなる香をこっそり周囲に撒いても気付かれてないのが特に良い。


「これで会話は盗聴されない、似たような境遇の誼でこっちの機密以外の質問には答えるぞ? 遠くからこっちを窺ってる連中に怪しまれないように戦ってるふりをしながらな」


 聴覚を強化してるようなのがいたら面倒なので、ガシャガシャ音を立てて煩いゴーレム数体を呼び出し差し向ける。


 紡はゴーレムを剣で……どっちかというと刀っぽいか? とにかく鈍重なゴーレムの攻撃を受け流しながらも俺を睨みつけてくる。


「さっきの話は本当か! お前姫様達を……」


「ビビらせるブラフだ。クロの血は吸ったが生きてるし、メルにはそもそも手を出してない。メルは12歳、日本だと小学生だぞ?」


「そ、そうか、っ! お前日本と……」


「小学生だったころは病院と学校を往復する毎日。中学もほとんど通えず病室で過ごし、それでも将来の為に勉強を頑張ったよ。そしてガリ勉生活の果てには痛くて苦しい治療の甲斐なく16で病死。悔しかったなぁ、悲しかったなぁ、情けなかったなぁ。医療費を何とか捻出してくれた両親に、孝行くらいしてやりたかったなぁ」


 俺も剣を取り出し鍔迫り合いしながら会話する。どうもでいいが聖の気を帯びた剣って、近くにあるだけでなんか肌が焼けるみたいに痛い。我慢我慢だ近づいたおかげで、良い感じに感情の起伏が大きくなってきている。


「化けて出たのか……哀れな」


「似たようなものだが、この奇跡に俺は感謝してるぞ。自由に出歩けて、気にせず食事して、思ったままに動ける。それだけで十分楽しい。分かるか俺は生きたかったんだ、痛くて苦しい治療を続けてでも。想像できるかどんなに生きたいと願っても動けなくなっていく絶望が」


「ううう……だ、だからと言ってなぜ人を襲う!」


「悪魔の城があったら攻め入ってくる、それがこの世界の常識だろ? 何といっても攻略すれば巨億の富が手に入り、しかも相手は悪魔で良心の呵責は無しだ。で、殺されないためには力が必要で、悪魔にとっては聖なる者の血を吸えばそれだけで強くなれる……こんな風にな!」


 鍔迫り合いをしながら、俺と彼女の間に吹雪を起こすと、体重の軽い彼女は吹き飛ばされ紅い雪に触れる。


「くっ!」


 すぐさま脱出したけど、触れた場所から血が抜かれるのがこの紅い雪の効果だ。勇者の血ってこんなに、こんなにも力が漲るのか。


「それにどうせ攻め入られるのなら王族を害し、豊富な食料を焼き払えば大規模な侵攻は出来ないだろ? だからやるんだ」


「……くっ! 同情はするが、だからって無関係の人を傷つけて良いわけない、今すぐおまえを倒す!」


「何のために? 異世界から来たお前たちに何の義理がある? 聞いてるぞ、ここから南方の小国家群制圧の為に勇者の能力で助けたんだろ? 貴族並みの待遇はされてるけど、報酬分以上は働いたんじゃないか?」


 憐憫に義憤、色々ごちゃ混ぜになって混乱して来たな。クロに聞いていたように真面目な奴で良かった。


「く、苦しむ人たちを見て放っておけるか!」


「戦争に加担したお前たちのセリフじゃないな。聞いてるぞ? 小国家群制圧が終われば、元の世界に戻してやるって言われたんだろ? 帰るために、この世界がどうなろうと、どうでもいいから早く終わらせたかったんだろ?」


「……黙れ!」


「まぁ別に良いんじゃないか? 上げ膳据え膳に事ある毎に美男子に口説かれる生活してるんだろ? この手の戦争は長引けばそれだけ人死だけでなく、ヘイトも増えて禍根を残す。デカい枠に収まった方が経済圏の拡大にインフラ整備による雇用等々、長い目で見れば平和に貢献する場合もあるだろうさ、思いつくメリットをあと10くらい並べようか? お前たちの手柄だ誇れよ、好待遇も当然の権利だよな」


「う、煩い! お前になにが分かる!」


「あぁ勿論一切合切なにも分からんよ、だって無関係だし、まぁ関係ないなりに、こっちにもおこぼれがあるかもしれんから精々遠くでお幸せにってな。どうせ元の世界に帰るのは無理なんだから、自分の中で折り合いをつけて、できるだけ楽しまないと損だぞ?」


「え?」


「帰れないんだよ、元々生贄を呼び寄せる儀式なんだよ。なぁ紡、お前この世界の歴史は勉強したか? 俺はしたぞ、異世界から召喚された勇者は全員死んだかこの世界に残った。元の世界に帰った勇者はいないって事実を知ってるのか?」


 ちなみに帰れない以外は大嘘だがな、クロから聞いた話じゃ帰還したと嘘ついて始末した例もあるし、嘘がばれて復讐に走った勇者は事故死扱いだ。そう言った事例があるから美男美女をあてがってるんだろうな。故郷より恋人を選ぶのが若者の心理ってもんだ。


「そ、そんな……」


 戦ってるふりをしながらの会話だが、急に刀を取り落とし足元から崩れ落ちた紡を、遠巻きに見てる連中をどう思ったのだろうか? それとかなり離れた場所から猛烈なスピードで、桁外れにヤバい気配が近寄ってくるのは多分聖剣を持った勇者だな。


 虚脱した紡の手足を氷で拘束し刀をゴーレムに、紡は俺が抱きかかえ大きく跳躍しその場から離脱する。置き土産にバルーンゴーレムを大量に呼び寄せ目くらましにする。


 何といってもあの勇者、御剣光(ミツルギヒカル)の光を剣に変え光速で飛ばす固有魔法、要するに視認した物を瞬時にぶった切る能力らしい。狙いが甘く威力が高すぎるからこうして人を抱えてると巻き込むし、霧とか粉塵とかで視界を塞ぐと威力が激減するらしい。最初に接触したとき水蒸気で目くらましして良かった。


 大混乱の城から脱出し、追手がなく、紡に監視用の術が掛けられてないのを確認し転移門のある拠点へ向かう。

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