18話・裏
「セツ様、こちらが作戦に参加させるため選別した者たちです」
「ご苦労、作戦の説明があるまで拠点で待機していろ」
機動力に優れた者たちを選りすぐったため、基本的に黒天姫と同じく空が飛べる堕天使や、俊敏性を誇る獣魔族が多い。
紅雪鬼と黒天姫は同族を贔屓したと思われないように、後で留守番してる連中のフォローを考えていた。
魔界では種族は得意な事がある程度わかるくらいの感覚で、黄泉姫の育った獣魔族の魔王の領地では、多くの種族でごった返している。
ただ魔界に帰れずに地上に残された、はぐれ悪魔との混血である半魔族は同族意識が結構ある。住居でも同族同士で固まる事が多く、何故か配下たちの間では、獣魔族と堕天使が幅を利かせてるのが、眷属二人の悩みの種だった。
作戦の趣旨をちゃんと分ってるのだろうか? 同族だからと言って手柄立てる機会を与える訳ではない、逃げ足の速さだけを基準に選んだのに偉そうにされても困る。対人経験の薄い紅雪鬼が黒天姫に相談を持ちかけるが、どうしようもないから後でフォローするしかない。
「こういうのは口で言っても無理です。意識して公平に扱いませんと……今からでも別種族の者を連れてきますか?」
「純粋に身体能力の高い鬼人族ならともかく、足の遅い海魔族や魔精霊を使って逃げられなかった意味がない。日中動きが鈍る夜魔族も覚醒したてだと不安だからな」
六柱の魔王が魔界に居る事から分かるように大雑把に悪魔は六つの種族に分かれる。
黄泉姫や紅雪鬼のような獣魔族。基本的に身体能力が高く最も数が多い、というか山羊やら狐やら獣魔族で一括りにしてるだけで最も雑多な種族。
黒天姫のような堕天使。元々天使だったのが裏切って悪魔側に付いたのが始まりと言われてるが、魔界では空を飛ぶのが得意な連中と認識されている。
鬼人族は、男女で結構違いが大きい。男は巨体で頑強、反面魔法が苦手とされ、反対に女性は小柄なものが多いが魔法を得意とする。そしてカラッとした気質なのが男の鬼人族で、女の鬼人族は情に深いので有名だ。
海魔族は他の種族とあまり交わらずに、魔界にある広大な『腐海』に住んでいる。この種族だけは貴族を纏める魔王がいないそうで、理由を聞くと腐海とは腐ってるというか発酵してる海で、全員漏れなく酔っぱらっている。
魔精霊は基本的に人間の姿をしている。単一属性の魔法に特化していて、身体のどこかにその属性を示すなにかがある。ダンジョンの配下の中では、髪の毛が燃えていたり、皮膚が金属だったりするのがいる。
夜魔族はこの地上では最も活動しにくい、太陽の光に弱いハンデを背負ってる。太陽の光が届かない魔界だと優れた身体能力と高い魔力で一目置かれてるの。
最後に種族というか、その他扱いにされてるのだが、別種族の特徴が混じった者を総じて混沌と呼ぶ。普通は別種族で子供を作っても親のどちらかの、あるいは祖父母の種族になるのだが稀に綺麗に混ざる者がいる。別種族の良い面を兼ね備える事が多く、好んで別種族を娶る悪魔がいるほどだとか。ついでにこの混沌の魔王は全種族の特徴を備えてるらしい。
「どう考えても私とセツ様が幹部だから、その同族が増長する形になります。今後眷属を増やす場合、種族を分けて頂けるよう具申するべきでしょうか」
「具申しても相性があるからどうしてもな、もういっそ最初から分けて運用するか?」
話し合ってもどうしようもないので、黄金の鏡をどうにかしてからという結論に達した。




