18話
クロが言うには召喚された五人の勇者達は、この世界の常識が無かったり価値観が乖離してたりするが、人格そのものは真っ当で好感が持てるらしい。
「つまり捕らえて眷属にするようお館様の奏上すると? あの時の聖剣を振り回してた少年とか俺恨まれてないか?」
「ヒカル……あぁ聖剣を持つ私と同行していたあの少年なのですが、彼は恨みを長く抱く人間ではないですよ。個人的な事を言えば男性として好みではなくても、手間のかかる弟のように見てましたから嫌いではないですし」
「捕らえるのは良いが本来の目的を忘れるなよ。とは言え見つけたら殺さずに捕獲する努力はしよう」
「ありがとうございます。ですが個人的な事情だけではなくて、戦力の拡充という意味でも意義があると思います」
眷属になればお館様の命は大きな強制力を持つ、人格的に信用できるならアリか。
俺たちは担当する階層の守りを強化した後、クロがリストアップした配下たちを連れて転移門からアルファスト王都地下の拠点にやって来た。
「作戦を伝える。お前たちは魔界に対価を払い物資や魔物を召喚する術を会得したと思う。だが先日まで過酷な境遇であったお前たちが、その対価を持ってないのは承知だ。先ずはこれを受け取れ」
全員に金塊を渡すと目を見開いて驚いてる、多分今までの人生で見た事なんてなかったんだろうな。
「全員に金塊が渡ったな? それでは作戦を伝える。お前たちはこれから伝えるアルファスト王国各地にある砦へ向かい、指定した日時に指定した魔物を召喚し制御せず暴れさせろ。その後ダンジョンへ徒歩で帰還し防衛に当たれ。以上だ」
クロが並んだ悪魔20名に砦までの地図を渡す。ついでに召喚する時間も書いてあるので、事が始まる前に露見しなければ大丈夫だろう。
地図を渡した後、隣の者とどこへ行くのか教え合いそうになるが黙らせる。万が一暴れてる時に敵に捕らわれた時余計な情報はないに限るからな。今回も場所と時間、召喚する魔物を指定しただけで作戦の全貌は伝えてない。
「地図を手にした者は誰にも場所を語らずに行け。お館様は忠実に貢献を果たす者に対し報いるお方だ」
転移門の拠点から飛び出していく悪魔たち。今は夜だから目立ちはしないだろう。残されたのは俺とクロ、そしてこの拠点の管理を任せた影狐だけだ。
「影狐、お前は王都中に監視用の使い魔を放ち監視せよ、特に勇者達にあてがわれた屋敷は厳重にだ」
「お任せください! もう寝る間も惜しんで任務に当たらせていただきます!」
尻尾を振りながら意気込んでる。良い事だが……人間に見つかって利用されそうになった失態を雪ぎたいのか? 別に失敗とも思ってないが。
「あらあらエーコさんたら積極的ね」
仕事に積極的という意味だろうか? なんか含みがありそうだが。まぁいいなぜ生温かい優しい目で俺を見るのかは分からんが、今は作戦成功に注力するのみだ。
「セツ様、それでは作戦通りに動きます」
クロは防衛に当たる連中に留守中の指示を出しに、一度転移門でダンジョンに戻ろうとした時だった。唐突にお館様から念話が送られてくる。
「お前たち、この件をお父様に連絡したところ、援軍はないが潤沢な資金と強力な武具を頂戴した」
参ったなそれなら配下たちに、もうちょっと強力な魔物を召喚できるようにしたんだけど、もう散らばったんだよな。そうなると少し予定を変更するか。
「かしこまりました。少々作戦を変更いたします。黒天姫はこれから戻り、私も作戦の布石を一手打ってから帰還いたします」
「うむ、金では買えぬ強力な魔性の武具だ。大きな助けとなろう、無理はするでないぞ」
お館様からの念話が切れる。帰ってから作戦の練り直しをするとだけ言って、ダンジョンに戻るクロを見送る。
「ど、どうするんですか? 強い人たちが来ないんですよね?」
「まぁ他所から来た連中に気を使わなくて済むと思えばいい。作戦変更、援軍にさせるつもりだった派手に暴れる役を俺がやる。俺に注目を集め、機動力の高いクロが自由に動けるようにするためにな」
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意外と言ってはなんだが、如何にも怪しい全身鎧にやたら目立つ角飾りのついた兜、しかも目元を隠す仮面を被った男が歩いていても、そこまであからさまに警戒されないな。
港町でもそうだけど大勢の人間が集まる場所だと、荒事を専門にする人間は必ずいるそうだ。そういう人は戦場で目立つために派手な鎧を好むと言うが、その類だと思われてるのだろうか?
目指すは王城、影狐が放ったらしい使い魔が心配そうにこちらの様子を見てるが、気にせず進む。進むにつれ徐々に道を歩く人間の身なりはよくなり、周囲の建物もなんとなく上品そうに見える。そしてセレブな雰囲気に比例するかのように俺への視線は吸胡散臭げなものとなっていく。
堂々と歩いてるお陰か、変な目で見られたが止められはしなかったが、流石に城門のすぐ近くまで来ると全身鎧の騎士に誰何される。
「そこな御仁待たれよ。この先は許可なき者の立ち入りは許されぬ」
「許可がおありなら兜と仮面をとり姓名を申されよ、確認をさせていただく」
魔界製の結構高価な鎧は流石に業物だから、名のある戦士か、身分が高いと騎士が勘違いしたのか? 武器を持ってないからか? それとも単にこの騎士たちが善人なのか? 二人の騎士は剣も抜かず対応は思ったよりも丁寧なものだった。
なので鎧の関節部分と口だけを氷で封じてそのまま進む。傍目には騎士が素通りさせたように見えるかもしれない。
そのせいか城門前に待機してる騎士たちも、城門前に歩いてくる俺をどうしたら良いのか分からないようだった。棒立ちしてるのを好機として不意討ちで全員無力化させようと魔力を高める直前……。
「そ、そいつは敵だ! 気をつけろ無詠唱で魔法を使うぞ!」
口を封じたはずの騎士が張り上げた大声に、一瞬で周囲の騎士たち臨戦態勢に入る。振り返ると片方が唇から血を流して、いや唇の肉がはがれてる! 無理やり氷の拘束を解いて声を出したのか。
更に声と同時に、背後から剣が首目掛けて投げられる。躱し切れずに兜で受けるが、同時にその勢いで兜と仮面が地面に落ちる。
「く、黒い眼球だと! コイツ悪魔か!」
ちっ、剣を投げつけた騎士は凍らせた鎧に火の術をぶつけたのか、ここからでもわかるくらい焦げ臭い。
敵と見做せば三方向から同時に斬りかかって来るのを跳躍して躱すが、その瞬間を見計らったように攻撃魔法が飛んでくる。避け切れずにすべて当たってしまうが、鎧の防御力と元々の魔法防御力で大したダメージはない。
「魔法は効果が薄いが効かない訳ではない! 魔法班、風で動きを封じろ! 盾班、捕縛縄用意! 剣班、突撃準備!」
おいおい、騎士なんざいいトコの坊ちゃんが見栄でやってるもんじゃなかったのか? 騎士たちのリーダーっぽいのは歴戦の風格漂ってるぞ、クロの情報もたまにあてにならないな。
あ、でもクロと勇者に同行してた騎士連中は、こいつらほどではないけど結構慣れてる感じだったな。
後で聞いたら普段クロの周囲にいた騎士は、お坊ちゃん達のなんちゃって騎士団だが、現場の騎士は兵卒から実力を示して重要な場所を任せれる騎士になれる。その為実戦経験豊富で忠誠心篤い叩き上げ多い。そして勇者と聖女の遠征に付き合うような騎士は、幼い頃から戦争の英才教育を叩き込まれた武門出身なんだそうだ。
……ヤバいな、砦に向かった連中が欲を出して人間の精気を奪おうとしたり、人間への憎悪を抱えてたり、急に力を得たせいで慢心してるようなのは殺されそうだ……が、命令は指定した魔物を召喚し暴れさせ、ダンジョンに帰還するだけ、逃げ足が速いのを選んでるから離れてれば離脱は難しくないのだ、命令以外の行動をして殺されたら仕方ない。
とは言え俺があんまり騎士に苦戦しては上司の沽券というかそう言うのに関わるので……周囲に紅い雪を降らせる、その瞬間俺以外魔法は使えなくなり、同時に極低温により騎士たちの動きが止まる。同時に氷の礫を全方位に放ち騎士たちは倒れた。
「ぐっ! な、なんだ……これはなんだ!」
ふむ、偵察兵は俺の固有魔法の効果を知ってたけど、末端には届いてなかったか。まぁいいや、紅い雪が倒れた騎士のお身体に積もり血を奪う。それでも俺を睨み何とか身体を動かそうとする騎士を尻目に思いっきり跳躍し城門を飛び越えた。
さて、残ってる勇者次第じゃあっさり死ぬかもしれないが、身代わり人形がある。致命傷でも保険があるから気楽だが、討ち取ったなんて思われたら……あ、その場合クロを囮にして、俺が自由に動けるか。




