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ダンジョンズガーディアン  作者: イチアナゴニトロ
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17話

 一万年を超えて生きる大魔王様がまだ生まれてもいない頃ですら伝説とされる遥かな昔。天使と悪魔の間で大きな戦争があった。


 結果として悪魔たちは生命のない魔界に押し込められる結果となり、天使は天使で肉体を失い精神だけの存在となる。


 戦場となった地上では絶対的な支配者が失われたことで、人間たちが台頭する事となる。大雑把にこんな話だった。


「戦争が終わる頃、天使どもは殆ど肉体を失い抵抗す術は無くなったと思い、油断したのがいけなかったのだろうな。連中は異世界から自身の依り代として適した人間を呼び寄せる道具を作り出し、天使の力を得た人間の逆撃により我らは地上から追い出され、魔界に閉じ込められたのだ」


「召喚される者は天使の依り代となりうる者。つまり極端なまでに聖性が強い人間が無作為に異世界から呼び出され、今の世では勇者と呼ばれてるということですか」


「うむ、その召喚の際にどういう訳か必ず天使の力を宿し、固有魔法を得るのも勇者とされる原因であろうな。この世界の者では数千万人に一人程の確率で生まれる適合者を天使が偶然見つけなければ、人間が固有魔法を得るなど不可能なのだがな」


 その極少数の適合者を無数にある異世界から狙って呼び寄せるから、必ず召喚された勇者は固有魔法を持ってるのか。余談だがクロの実家アルファスト王家が聖性が強い血筋なのは、召喚した勇者との婚姻を数世代に一回くらいの割合で繰り返してるせいだそうだ。


「その後は協定が結ばれ今の時代まで続いているのだ、細かい内容は今は省く。今のところはその鏡が模造品などでなく地上に現存していた遺物であれば、協定違反となるとだけ知っておけ、よいな?」


「畏まりました。確認ですがこの件を例えば父君に報告した場合我らの不利益となるのでしょうか?」


「そうではない。黄金の鏡が本物であればこれは天使側の違反。情報を魔界に伝えるだけでも功績だ、異世界からの勇者召喚を行える時点でほぼ本物であろう」


 そこまで語って喉が渇いたのか砂糖をたっぷり溶かしたオレンジジュースを飲み、ついでにお茶請けに用意したクッキーを口に放り込む。もきゅもきゅ口を動かすお館様の姿に、俺たちだけでなく、世話役として用意した奴隷少女たちも和む。


 クッキーを咀嚼してからオレンジジュースを口に含み、ゴクンと音を立てて飲み込む。お行儀が悪いが幸せそうな笑顔の前にはどうでもいい事だ。一息ついたら俺たちに向き合い説明を続けてくれる。


「しかしもう一歩我らの手で奪取に成功すれば天界から大幅な譲歩を魔界は引き出せるのだ、これは前の聖杖を献上するよりも大きな貢献である。奪取とまではいかず破壊するだけでも、このダンジョンに対し天界からの干渉を禁じる約定なら確実なのだ、何としても不可侵の約定だけは取り付けるぞ。人間が相手ならばともかく天使が相手ではお前たちが危険だからな」


 大手柄よりも俺たちの身を案じてくれるお館様は本当に良い子だ。オレンジジュースのお代わりに、アップルジュースをあげよう。


「お任せくださいお館様。アルファストの王城であれば文字通り自分の家でしたので、侵入も脱出も容易いですわ」


「これより分身を呼び戻し万全となって我も向かう、数日かかるがその間無理に攻めるでないぞ。その間にお父様に報告をし援軍を頼むことにする」


「はい、お任せください」


「必ずや勝利と栄光を我らが主にっ!」


 お館様が水晶の間に戻ると、頼られて張りきったクロがダンジョンから飛び出そうとするが待て、転移門があるんだからそっち使え。


「援軍を待つまでもありません。空から魔界の魔物を大量に落として混乱してる隙に、地下の儀式場から鏡を奪いましょう」


「敵戦力を分散させるのは賛成だが、あからさまに王城だけを狙うと鏡を持って逃げられる可能性もある。瞬間移動の魔法が使える人間は城に数人はいるだろ?」


「た、確かに宮廷魔術師の序列上位は全員使えますし、勇者の中にも魔法が得意な彼女なら……それにあの鏡があれば今の勇者が死んでも、コストが高く時間がかかるにせよ補充されますから、考えられなくもないですね」


「それとお館様が援軍を呼ぶだろ、万が一援軍が来る前に鏡を俺たちが何とかしたらどうなると思う?」


「はぁ? 作戦が早く終わるならそれに越したことはないかと」


「違うな、お館様は意識してないだろうけど、古今東西手柄の独り占めは妬みの的だ、ある程度援軍の連中に花を持たせてやるのが望ましい」


 言っちゃなんだがあまり手柄を立てすぎて、敵を増やしたら本末転倒だ。天使が攻撃してこなくても、悪魔に攻撃されたら意味が無いって言うか、より悪い。


 最初から敵だと認識してる天使ならお館様も油断しないだろうけど、味方面して寝首掻こうと寄ってくる連中相手だと多分すこぶる弱い。


「この件に成功すれば外交的に大きなカードを得られると言うのなら、恐らく送られてくる援軍は魔王様の直属の配下。つまり陪臣である俺たちよりも立場が上だろ? 援軍に来る連中の性格が分からないから断言はできないが、反感を持たれるよりは手柄立てさせて気分良く帰ってもらう、借りだと思ってくれれば御の字だ」


「申し訳ございません、思慮が足りませんでした」


 流石に王族だったクロはこの辺に理解があるようだ、これが手柄を余所に渡すなんてとんでもないとか言い出す馬鹿だったら、言いくるめるのに苦労しただろうな。


「いいさ、とりあえず俺たちが留守中でも侵入者が最下層まで入らないよう気を付けよう。各階層の迷路に貰った追加資金で強い魔物や罠を設置する、とにかく攻略に時間がかかるようにするぞ。最下層まで敵が入らなければこの際どうでもいい」


 この作戦が成功すればダンジョンの階層も増えるだろうから、この際ダンジョンに侵入者が入るモノとして、留守中に攻略できないようにする。勿論侵入者がいないに越したことはないから、地表の城にも強力な魔物を配置するが。


「新入り連中はどうだ? 俺たちに同行させるか、防衛に使うか」


「少し高価な知識の宝珠や、武具などを用意すればどちらでも役に立てるでしょう。個々の固有魔法は記録し得意分野ごとにまとめてあります。例えばエーコさんのような、内部に侵入するのに長けた者は連れて行くべきかと」


「固有魔法を調べててくれたのか助かる。急な事で何ができるのかも分からなかった……そうだな機動力の高い者を連れて行く。空が飛べるのが一番だが、足が速いのがいればそれもだ」


「理由を伺っても?」


「単純に連中を前線に出す気はない。陽動をするのに逃げ足が早い方が良いだろ、混乱させる手段は道具で補えばいい」


「成程、それではすぐに選別いたします」


「防衛に関しては迷宮と魔物、罠、後は居残りの者が臨機応変に動けばなんとかなる。さてお館様の勅命である鏡に関してだが、これは王城にあるのは間違いないな?」


「はい、アルファスト王城の地下。最も守りの固い玉座のすぐ後ろ、隠し部屋にある階段からしか降りる事の出来ない祭壇があり、その中央に安置されてます」


「それでさっき言った戦力の分散だが作戦としては、アルファスト各地にある砦には飢饉や反乱、戦争などの不測の事態に備えて食料を備蓄していると聞いた。兵士を出し渋ったりしないように王都に近い砦から焼き払って、徐々に範囲を広げる。これなら国力の低下と混乱が目的であり、鏡が狙いとは思わないだろう? 勿論ダンジョンに対する軍事行動を掣肘する意味もあるが」


「なるほど、それなら王都は兵を派遣しなくてはなりませんね。もしくは瞬間移動の術が使える魔法使いが勇者を砦に送るか」


「後者が一番良いな、あくまで送るのであって、勇者が戻るまでは時間がかかる。魔法に長けた勇者は瞬間移動が使えるかもしれないが砦で暴れる魔物を倒し、放火された倉を消火し、怪我人の治療をするとなると、一日では終わらないし疲労も相当だろう。まして瞬間移動は消耗が大きく一流の者でも一日に一度が限界と聞いてる」


「はい、勇者を単独か少数の共だけで送り出すようになれば、王城の守りは最低限しかいない証拠。王都が地方を見捨てない限り確実に兵力を減らせる素晴らしい策です」


 なんか悪魔の真っ黒な眼球をキラキラさせながら俺を見るな、照れる。


「続けるぞ? さっき言った作戦をお館様の準備が整うか、援軍が到着するまで続ける。そして一斉に王城に攻め入り俺たちは兵や騎士、残ってるだろう勇者を相手に足止めし援軍の連中に鏡を確保させる……ここまでの方針で気になった点はあるか?」


「提案があります。勇者を捕らえませんか?」 

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