1話・裏
魔界には生命が無い。だから地上から奪う。遥かな太古に天使との大きな戦により、地上から不毛な魔界へと追放された悪魔は、地上から零れ落ちる微かな精気でひっそりと生きていく事を強いられた。
天使たちもまた戦により肉体を失った事で地上に住むことは出来なくなり、天上に住まう事となった。支配者がいなくても地上の多くの生き物たちは、無尽蔵に生命力を齎してくれる太陽の恩恵を受け繁栄していった。
その中で台頭してきたのは人間だ、彼らは善を尊ぶが、悪にも染まり易い。まして些細な事で同族と争うような者達ではあったが、だからこそ悪魔には利用できた。
悪魔はより多くの精気を求め魔界の繁栄を願った、どうすればいいか? 簡単だ地上に魔界へと繋がる穴を開ければいい。そうすれば太陽によって降り注ぐ無限の精気をより多く魔界に送る事ができるのだ。
いつしか魔界と地上を繋ぐ悪魔の拠点はダンジョンと呼ばれるようになった。ダンジョンの主は悪魔の将、魔将と呼ばれ魔界の繁栄のためにより深いダンジョンを築くべく地上に現れる、穴を開ける事ができなければ魔界に帰る事ができない覚悟を背負いながら。
勿論天使が黙ってみてる訳もなく、また、鍛えた人間の手によって討たれた悪魔も多い。しかし長い歳月の中で一握りの成功者は貴族、その中でも特に強大なものは魔王と呼ばれ魔界での権勢を欲しいままにした。
彼女、魂を弄ぶ能力を持つ悪魔『黄泉姫』―――知り合いに呼ばせるための呼び名であり、真の名は父親しか知らない―――もまた、ダンジョンの主となるべく地上に送り込まれた魔将の一人。
何もない草原に一人佇む彼女は、手荷物の中から厳重に保管された人間とほぼ同じ大きさの悪魔の肉体に、自分の心臓に保管していた深紅の魂を宿らせる。
用意した肉体は、無理を言って彼女の父親の細胞から培養したモノ。コレは自分の血を分けた魂を宿すのに可能な限り無理のない器だ。肉体に宿った魂が完全に馴染むまで、数日の時を要する程度で済むだろう。
彼女から見れば小さく儚い己の眷属を大切に抱きしめ、目覚めの時まで草原に寝転び太陽の光を、星のきらめきを飽きることなく眺め続けた。