14話・裏
亜人は人間の社会では迫害される、それ故に助け合い身を寄せ合って生活……なんて甘い現実は存在しない。
確かに亜人たちの集落で生まれた子供は、ある程度の年齢になるまで守ってもらえる。
しかしある程度働けるようになったら、こそこそ人間の捨てた生ごみを集めたり、見目が良ければ奴隷商に売られたりする。
まして他所から流れてきた者の扱いなど推して知るべし、貧しさゆえにどこまでも厳しく、生き残るために手段など選ぶゆとりはない。
影狐とその姉は後者。一杯のスープを分けてもらう為に、人目を避けてゴミ場を漁り、魔物の徘徊する森で狩りの囮にもされた。幸運だったのはあえて身体を汚したことで「そういう対象」と見なされなかったことか。
だが結局、小遣い稼ぎ感覚の冒険者に捕まり、奴隷商に売られてしまった。
ことあるごとに助けてくれた姉だけは逃がしたかったが、姉も妹だけは逃がそうと同じことを考えたせいで、二人同時に捕まったのはせめても幸運と思っていた、少なくとも姉と引き離されることはないのだから。
奴隷商の男は別に恨んでない。食事を与えてくれたし病気にならない程度には気遣ってくれたからだ、正直集落にいるよりもマシな生活だった。
集落の亜人たちも憎んではいない、優しくないのはお互い様だし、少なくとも働けば安全な場所で眠ることができたのから。
だが、あの男だけは許し難かった。まるで装飾品でも選ぶような態度で姉を買っていったあの男。亜人とはいえ女の奴隷を買うのだ、見た目の好みは確かに重要だろう。それは分かる、分かるが影狐にとって最も大切な姉を奪っていったあの男は許せなかった。
ダンジョンに送られ、暖かい食事をとり、清潔なベッドで休んでいても、姉が今どんな目に遭ってるのか想像するだけで、あの男への憎悪が静かに、心の奥底に蓄積していく。
悪魔に生まれ変わり、自分たちのような半魔族を見つけ次第保護すると、聞かされた時チャンスだと確信した。ここで働かけば姉をいつか助ける事ができるのだと。
同時に、姉を助けるために情報が足りない、実力が足りない、調べるための地位が足りないのを理解してしまう。
だから媚びた、このダンジョンの主に次ぐ地位にある悪魔に取り入り、目を掛けて貰うために全身全霊で自分自身すら騙し媚びを売る。
これが悪魔らしい下種な男であったならいつか破綻したかもしれないが、紅雪鬼は影狐からすると好みのタイプだったので、自分は好意を持ってるのだと自己暗示しやすかった。
全ては情報がすぐ手に入る地位を得るために、前線で戦い強くなりあの男を絶望の淵に叩き落す為に。心の奥底に灯る憎悪の炎に突き動かされながら……。