13話・裏
黄泉姫の指示により大勢の亜人を購入すると聞かされた黒天姫は、急いで奴隷の居住区画、改め配下となる悪魔たちの住む場所を確保しなくてはならななくなった。
しかも今後は奴隷として売られていたり、身を隠して生きている者たちも全員ダンジョンに送らせると聞いた以上、今の居住区画では足りなくなるのは目に見えている。
紅雪鬼に連絡し相談した結果、地下一階から三階のフロアを半分にしてその分を配下たち用のスペースにすることに決まった。
紅雪鬼が担当する第一城壁内の城にあるダンジョンに入る階段とは別に、第二城壁内の黒天姫の担当する砦の隠し階段から入る配下用の隔離された三階層。
地下一階は戦闘要員の待機所や訓練所。および食料や武器などの倉庫を置いて、如何にも重要そうな雰囲気にする。仮に倉庫を破壊して侵入者が帰るのなら金銭的な損失だけで済む。
地下二階は配下たちの住居。地下三階は転送門や、捕らえた人間を捕まえておく牢屋を設置する重要な場所で、強力な魔獣を放し飼いにし、ある程度信用できる戦闘要員を住まわせる。
これらすべて黄泉姫の許しを得てから、フロア管理者の権限でダンジョンを構築する。
そして次の日、紅雪鬼から連絡を受け地下三階の転移門の準備を完了させると、続々と半魔族たちが送り込まれてくる。
彼らは黒天姫の姿を見て怯えるものが多いが、中には憧憬の眼差しを向ける者もいる。元々は地上に残されたはぐれ悪魔との混血だけに、人間ほど過剰な恐れは持っていないのだ。
黒天姫は全員に『痴れ糸』を放ち、言葉よりもなお雄弁な意思を送る。歓迎しよう地上に取り残された同胞よ、ダンジョンの主の下でお前たちは安住の地を得たのだ……と。
急に頭の中に響いた意志の力に騒めく半魔族たち。黒天姫は窶れ衰弱しきった半魔族たちを見て、一先ずは二階の居住区で食事を与え休養させることにした。
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半魔族たちが訳も分からないままに与えられたベッドで熟睡してる間、黒天姫に肩車された黄泉姫が眠っている一人一人の魂に働きかけ、悪魔の魂を純化させ生まれ変わらせる。
本来であれば玉座に座り、褒美を下賜するように悪魔化をしたかった黄泉姫だが、幼女の姿では舐められると言う眷属二人の意見を素直に受け入れたのだ。
「お館様、これで全員ですわ」
「うむ、この者たちは辛い境遇であったのだな、我の下で守ってやろうではないか」
「しかし私たち眷族とは違い、お館様へ忠誠心を持ってはおりません。人間に利する行いをするとは思いませんが、無条件に信用することはできません」
黒天姫からすれば、呪紋で縛っていない元奴隷であり、急に力をつけた者がどういう行動をするのか想像もつく。ここにいる悪魔全員が牙をむいても黒天姫一人で全滅させることができるが、欲に駆られた者は厄介なのもよく知っている。
「分かっておる、我が血を分けた眷属以外の悪魔は遠ざけよと、幼い頃から厳しく言われておる」
魂に触れる事のできる黄泉姫からすれば、覚醒させた大半は精神的に弱く、自分に逆らう気概もなさそうで脅威とは思っていない。精々が眷属たちの手伝いをする手駒か小間使い、その程度の認識だ。
中には見どころのある魂もあったが、今後の成長次第と言ったところだろうか? 特に貪欲に力を求める魂の持ち主、まだ幼い狐の耳と尻尾のある少女を一瞥してから黄泉姫は黒天姫を伴い最下層に戻った。