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ダンジョンズガーディアン  作者: イチアナゴニトロ
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12話・裏

 奴隷商人は賤職である。儲けが大きいのは確かだが、少なくとも真っ当な商売を志す者は奴隷商になどならない。


 ただ一言で奴隷商と言っても、表通りに堂々と店を持つマクレガーのように、自分で生計を立てられない者を犯罪に走らせない為に、領主から支援を受けた半分官営の者たちもいる。


 裏通りにしか店を持つことを許されない、まして『汚れ者』を扱うモルブは、常に堅気の商売をしてる者たちの下に見られる奴隷商の中でも最も低い扱いを受けている。当然商人同士で飛び交う情報など受け取るのは一番最後だ。


「あーやだやだ、嫌だねぇ。金持ちになって田舎の連中見返そうと家出した俺を親父が見たらどう思うかねぇ? 顔の形が変わるくらい殴られる程度なら御の字か?」


 汚れ者とは人とは違う亜人達。買おうとする物好きは滅多におらず、店は常に閑散としてる、そのくせ奴隷達の維持費もかかるのだからやってられない。自分一人の店の中で愚痴を言う頻度が増えたのは何時からだろうか?


 どうせ客など来ないのだから、市場や料理屋で余ったクズ野菜でも分けて貰いに行こうとした時だった。唐突に奇妙な少年が店に入ってきた。


「どうした坊主? 迷子か? 表通りまで連れてってやろうか?」


 物騒な裏通りでナイフすら持ってないのは、度胸試しにきて迷っただけだと判断し、親切心で言ったモルブだが、様子がおかしいのに気付く。


「フヒヒ、すげえケモミミだ! 俺はファンタジー来たんだ!」


「なんだ酔っぱらってんのか。よく無事だったなこのガキ」


 関わり合いたくないが、店に入ってきた以上無視もできない。酔っぱらってる子供なら怪我をしないよう脳みそを揺らして、優しく寝かしつけてから警備兵の詰め所に放り込むかのが穏便だと判断し、ついでに手間賃として財布の中身も貰ってやろうと少年に近づくモルブ。


「ったく、勇者召喚されて期待してたってのに……いいもんね、のんびりスローライフ送ってやるケモミミ美少女と一緒に!」


 可哀想に、自分は勇者とか勘違いした痛いガキか、モルブは裏通りに度胸試しに来ただけで勇者を自称する少年に少しだけ優しくしてやろうと決めた。具体的には財布の中身を半分残してやる気になった。


 なお、気絶させようにも意外にも強かった少年と少し揉めて、落ち着いてから話を聞くと彼は客として来たらしい。思った以上の大金を持っていて、最近仕入れた狐型の亜人姉妹の姉の方を購入して帰っていった。


 亜人を商う商人の義務として、普通の奴隷と違い亜人は普通の宿には泊まれないと言った基本的な事を説明したモルブだが、舞い上がってる様子で聞いてるのかどうか怪しい。


 翌日予想通りに宿に泊まれなかった事に腹を立てて、文句を言い気に来たが説明を聞いてない方が悪いのだ、亜人を住まわせるのなら相応の決まりがあるのだから。


 自称勇者の少年が帰った後、商談を聞かれないため周囲の音を消す魔法道具を解除し、よく見たら昨日の夜市場で偶然噂に聞いた、『角兜の旦那』の特徴と一致する。拙い、モルブからすれば非常に拙い。上客をもてなさずに待たせたなど、更に立場が悪くなること間違いない。


 その為可能な限り下手に出るものの、流石に金持ちは余裕があるのか気にした素振りもない。


 お大尽の命令で奴隷を買いに来た人らしく。瞬間移動の魔法が使える魔法使いとも言われている、宿に連れて行った奴隷がいつの間に消えていたのと、買ってすぐに奴隷の評価を主人から受けて、追加で買いに来た事からそう推測されている。


 そしてその噂が正しかったのは、店にいた亜人奴隷全員が忽然と姿を消したことで確信した。まるで夢を見てる様だったが、魔法の財布から取り出した黄金の重さは間違いなく現実。


 その日、私物を整理したモルブは手にした黄金を元手に今度こそ真っ当な商売を始めるため、オルザインから行先も知らない船に飛び乗った。何をするのかはまだ未定だが、とりあえず商談用の机は特注で頑丈にする事と、店のシンボルを山羊にするのだけは決めていた。

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