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ダンジョンズガーディアン  作者: イチアナゴニトロ
22/49

11話

 クロに連絡したところ、女の子たちは無事にダンジョンに転送されたようだ。自分だと怖がるから、メルに応対させるようにしたそうだ。まぁ見るからに悪魔だしな。


 部屋でしばらく待つと、マクレガー奴隷商店の使いと名乗る男が、奴隷を連れてきたそうなので部屋に連れてこさせる。逃走防止なのだろう、ごつい用心棒らしき連中と一緒に、五人ずつ連れて来たそうなので好都合だ。


「残り十人もこの後連れてまいります」


「御苦労。チップだ、お前たちで勝手に分けろ」


 指で弾いた一枚の金貨は弧を描いてリーダーらしい男の手に落ちる。子供が泣きそうな凶悪な笑顔で礼をし、出て行ったのを見送り。最初の五人を部屋に入れて、鍵をかけさせると……。


「はっ! 呪紋無しなんて馬鹿な野郎だ」


 一番大柄な男がナイフで切りかかってきたので、男の腕を掴み『隷属の宝珠』を埋め込む。縛る内容はさっきの女奴隷と一緒で、街に潜った後の基本的な指示も設定してある。また監視用の使い魔も一緒に憑りつかせたので、後は知識の宝珠で下級魔法を埋め込み各国に放り込むだけだ。


 一緒に来た男たちも示し合わせていたのだろう、それぞれ別方向から飛び掛かってくるが、今の俺が人間数人に集られたところで何ら行動を阻害できない。


 せめてクロが人間だった頃くらいの実力があれば別だが、そんな実力者が奴隷でいることはほぼない。体力と腕力に自信がある若い男ってだけだ。


「ば、ばかな……四人がかりで……」


「元気があって大変結構。我々の役に立ちそうでなによりだ」


 押さえつけようと必死にしがみついてくる男たちを気絶させてから、隷属の宝珠を始め諸々埋め込み、さっきと同じように鍵を使い転送する。


「クロ、そっちに男五人を送った。最初の予定通りにしてくれ」


 送り込む男たちは、下級とは言え攻撃力の高い悪魔の魔法が使える、そうして戦力として重宝されるようになれば、並行して男たちの生命力を動力とした使い魔から常に情報を得られるようになるのだ。


 正直穴だらけで、いつ使い物にならなくなるか分からないが、失敗すればその時対策を考えればいい。俺たちからすれば大したコストでもないしな。


「はい、では予定通りに西のシーガルに向かわせます。軍隊や傭兵などに近づくよう改めて指示いたしますか?」


「いや、人間の魔法には嘘を暴く術もある。「市場の情報を送るように」と基本的な指示は設定に盛り込んでる、立場によっては人間同士でも重要な情報だから、悪魔(我々)と関連付けるほどのものではあるまい。気絶させたまま西の国のどこかに放り込んでおけ、こいつらは上手く情報を集めれば儲けものの実験台だ」


 しばらく待つと次の五人がやってきたので、彼らを連れて港へ向かう。今度は奴隷商の見張りもいるので大人しいものだ。次の五人も港に連れてくるように伝えておく。


「船の出航時間は分かるか?」


「へい、船は毎日出てまして、積み荷がいっぱいになったら出ますんで時間は決まってません。詰め込んでる間に希望があれば人を乗せます」


 旅客船ってのは殆どなくて、基本荷物のついでらしい。船旅を楽しむようなのは金持ちで、そういう連中は個人で船を持ってる。


 大勢の商人や船乗りたちで賑わう港だと人目に付きかねないから、到着する前に用心棒どもから見えないよう隷属の宝珠と使い魔を埋め込む。


 余計な憶測が立たないように表向きの指示として、武器や兵糧を扱う商店等を毎日回り、噂話を集めたり、値段を連絡するよう口頭で指示する。もちろんこれは用心棒たちに聞かせる為のもの。下手な小細工かも知れないが、得体が知れない鎧男よりは、分かり易い目的を持ってるようアピールした方が良いと思ったからだ。


 都合よく北のヴェルスタへと向かう船がもうすぐ出るので、乗る奴は早く来いと船乗りたちが叫んでいる。一通り基礎的な魔法を使えるようになる宝珠を持たせ、航海中に自分で埋め込むように命令し船に乗せる。


 そのあと連れてきた五人にも同じ手順でアルファストに向かう船に乗せる。さて奴隷の見張りに来た連中にチップを与えて帰らせ、港の一角にあるレストランに入り、注文して待ってる間にクロに連絡をする。


「用事が済んだから帰るが何か土産の希望はあるか? 俺は女が欲しがりそうなものなんてよく分からんから、具体的に言ってもらえると助かる。宝石とかどうだ?」


「私も贈り物は多くいただいてましたが……そうですねまず宝石などの装飾品は、恋仲でもない男性からいただいても扱いに困りますね」


「高いものなら喜ぶもんじゃないのか?」


「贈り物を売却なんて相手の面目丸つぶれですし、例えば首飾りをいただいて身に着けて夜会にでも出たら関係を邪推されます……あ、でも私はセツ様から頂けるのでしたら嬉しいですわ」


「はいはい、機会があったらな。話を戻すが欲しいものがあれば買っていくぞ、希望がないなら菓子でも買うが」


「それでしたら魔界では購入できないお花が欲しいです。買おうにも食獣植物な魔界生物ばっかりで……私の担当区画だとワンちゃん達が危険なので城外に捨てました」


 余談だが城から出る時に甘い香りを放つリンゴの木が、いつの間にかちょっとした果樹園くらい生い茂っていた。周囲に人間の冒険者と思しき服だけが散乱していたのは……うん、あれってお前のせいか。


「分かった。お前にはそれとして、お館様とメルは何が良いと思う?」


「そうですね……祖国なら目上の女性に贈り物をする際の作法などありますが、我々は悪魔ですし、そもそもお土産ですから……あ、お館様に直接伺って参ります。メルはお花が好きなので私と同じでよろしいかと」


 いったん通話を切って運ばれてきた料理を食べる……なんというか鎧姿の人間は珍しくないけど、角を隠すためとはいえ兜と仮面を被ったままは目立って仕方ない。飯は宿に戻ってからにするべきだったか。


 周囲の視線を無視して、食事をしてると不意に声をかけられた。


「相席良いか?」


 混んでるのに誰も近寄らない俺に声をかけてくる物好きに目線を向けると、なかなかグラマラスな……人間離れした美貌というか、眷属の俺には目の前の女性がお館様の分身だと一目でわかった。


「どうぞ」


 だからと言ってあからさまに臣下の礼をとると間違いなく悪目立ちする。お館様もその辺分かってるらしく、ごく自然に席に座り注文しようと店員を呼ぶ。ただその辺の機微は分かっても、注文し仕方が分からないようで、俺の奢りだと言って同じものを頼む。


「人間を買い紛れ込ませる策、誠に見事。小間使いの娘どもも思ったよりも使えるな、褒めてつかわす。紅雪鬼はこれから戻るのか?」


「恐れ入ります、ダンジョンにおられるお館様の本体に、土産でもと思案していた次第です」


「うむ、ではなんぞ甘味でも買ってまいれ。それより紅雪鬼の策を見て一つ思いついたことがあってな。この街に潜む我の分身、この身を含め三十体分の精気収集を補助するため新たに奴隷を購入せよ、男女問わぬ、分身体の姿形は自由なのだが人に化けるよりも、人間の肉体に憑りついた方が露見する可能性が低く収集が楽になるのだ」


「かしこまりました。男女問わぬと申されましたが、希望があれば然るべく努めますが?」


 俺の飲みかけのカップスープを、勝手にちびちび飲んでるお館様はちょっと考えるそぶりをして……。


「精気に満ちた若い身体が望ましい、それ以外は特にないな……まぁ見目が良いに越したことはない、その方が精気を集めやすい故な」


「はっ、では購入した奴隷をお渡しいたしますので宿までお越し頂けますか? 私ではお館様を探すことができませんので」


「よかろう、我は己の眷属の位置であれば常時把握できる、夜に向かうゆえ宿で待っておれ」


 お館様の分の支払いをし、もう一度奴隷商の店に向かう。


 目立つ鎧のおかげか、店に入ると店主が下にも置かない扱いで個室に案内し、なんか高級そうなワインを出してくる。酒の味なんて分からないが、まぁ高そうなものだしそれっぽく飲むか。


「我が主人に事の次第を話したところ、追加で奴隷を買うよう命じられた。若く健康なら性別は問わない。三十人を宿まで連れてこい。見目が良ければ主がまた追加するかもしれん」


「へへっ、お任せください。それではまた呪紋をかけずに宿の方に小分けに連れて行きましょうか?」


「いや、逃げないようにだけしておけ。追加で部屋を取っておくので三十人まとめてで構わん」


 出されたワインを飲み干し、金塊をテーブルに乗せて宿に戻る。その前にクロとメルの土産でも買っておくか。 

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