10話・裏
悪魔の魔法は基本的に攻撃に偏り、たまに搦め手のような術や防御用の術がある程度。要するに戦う手段として魔法があり、生活その他は魔法道具でどうにかするのが魔界の住民だ。
黒天姫はダンジョン地下一階の一区画を独立させた奴隷用のフロア。そこに用意した転送用の魔法道具の前で、地上と魔界の文化に違いについて考えていた。
普段であれば見回りついでに自由に空を飛ぶのを好む彼女だが、今日は紅雪鬼がオルザインの港町に着いて奴隷を購入する予定の日なので、こうして転送門の受け取り口で待機してないといけないのだ。
紅雪鬼から連絡が来たら転送門に魔力を流す、その状態で送り主の紅雪鬼が門と対となる鍵を使うとこちらに送られてくる魔法道具だ。
出来れば自分が行きたいところだったが三対にまで増えた翼はより大きくなり、どうにも隠しようがない。自身の身体を包むように翼をたたんで、そのうえでローブでも羽織ればなんとかなるかもしれないが、窮屈なのは彼女は好まない。
そんな我慢をするくらいであれば、こうして門の前で魔獣と戯れつつ待機していた方がマシと思っている。
「翼を隠すような道具があれば良いのですが、隠すよりはより目立つような装飾品しかありません。どうしましょうね?」
「くぅ~~~ん?」
ブラッシングをしながら狼の魔獣相手に愚痴をこぼすが、堕天使にとって翼は誇りだ。隠すような道具が売れるわけもなく、当然作られもしない。
そういえば紅雪鬼が角を隠す道具があればいいのにと言いながら、兜と仮面を購入し、不自然だからと全身鎧まで購入したのを思い出し、なんとなくおかしくなった。
「これは同じ悩みを共有してるってことですね……仲良く出来そうでなによりですわ。男性の友人というのは今までいませんでしたし、気を付けないといけませんね」
「わんわん」
「そうですか、お前もそう思いますよね。うふふ……とりあえず今後増える仲間なり部下から、異性の友人との付き合い方を教わりませんとね」
「わんっ」
「え? 仲良くなりたいなら毛繕いしてあげるですか? さ、参考にさせてもらいます」
固有魔法で配下の魔物の感覚から思考まで読み取れるのだが、流石に魔獣の友好表現を真似る気にはなれなかった。しかし、直接伝わる思考のせいか、つい想像してしまう……。
ブラッシングしてる犬型魔獣がメスの魔獣にグルーミングをしてるのを、自分と紅雪鬼に当てはめてしまい……あまりにも恥ずかしい想像にしばし行動不能になった。聖女であった彼女はどこまでも初心であった。