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ダンジョンズガーディアン  作者: イチアナゴニトロ
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1話

 16年の短い月日の半分以上を病院のベッドで過ごした俺は、ある雪の降る夜に死んだ。痛く苦しいだけで希望の無い闘病生活の果て孤独に死を自覚し……気が付くと真っ暗な空間にいた。


「どこだ? ここがあの世なのか?」


 一切の光が差さないのに不思議と周囲の状況は分かる、正面には豪華な椅子に座った女性らしきシルエット。良く分からないが、彼女の方に自然と足が向かう。


 近づいていくうちに違和感を感じる、夢のようなものかと思い進んでもまだ女性に辿り着けない。


 おかしい? やたらと遠いぞ? 女性のシルエットが段々と鮮明になっていく。どうやらかなりプロポーションが良い女性だ。


 さらに歩く、どうも女性の着てる服はかなり際どいデザインをしている。さらに歩く、ん? なんかあの人デカいような?


 近づく、あれ? あの人身長3メート以上ないか? 近づく、変な帽子と思ってたものはどうも角みたいだ。おまけに爪はやたらと長く尖ってる。


「動作に不自由は無いようだな、失敗の多い眷属化であるが初手から成功とは幸先が良い」


 嬉しそうな女性の声、そして声の出どころはまだ遠く。さらに歩いてやっと女性の足元に辿り着いた。


 どうやら自分の感覚が狂ってた訳でもなく、170センチメートルの俺の頭の位置が、彼女の膝の少し上くらいだから多分5メートル以上ある。


 だが不思議と怖いとも変だとも思わず、この女性が『主人』なのだと何の疑問を抱かずに納得し、頭を下げる。


「俺……いや、自分は病で死んだのだと思っていましたが……」


「ほぅ? 驚いた……程度は分らぬが記憶が残ってる上に、我に頭を垂れ謙るとは即ち主と認識しておる証。成功どころか大成功であるな、これ自己紹介をして見せよ」


 逆らう気にもならず、先ず『浜谷 紅雪(はまや べにゆき)』と名乗り、高校生であったこと、出身地、家族構成など、思いつくことを目の前の女性に語って聞かせる。


「ハマヤベニユキであるか……ふむ、破魔と同じ韻を含む者が我に仕えるとは実に皮肉で面白い。そして紅雪とは血に染まった雪を連想させる、恐らくそれがお前の本質となろう」


 色々と話してるのだが、この女性はどうも名前だけを重要視していて、俺のプロフィールはどうも聞き流してるみたいだ。


「質問しても?」


「許す」


「先ず、貴女をなんとお呼びすれば宜しいですか?」


「ふぅむ……ダンジョン持ちの魔将となった今、お嬢様では貫禄が足らぬ、領主と呼ばせるには領地も無く若輩に過ぎる……あ~そうだな今のところは『お館様』と呼べ。同格の者たちには『黄泉姫(よみひめ)』と呼ばれているが、主従のけじめはつけぬといかん」


「はっ、お館様の仰せのままに」


 その後質問を繰り返して分かった事はこの女性……いやお館様は悪魔らしい。まぁ身長5メートル以上で山羊を思わせる角が生えて、本来白いはずの眼球が真っ黒なら人間じゃないのは一目瞭然だが。


 後は俺がこの場にいる理由は、死んだ俺の魂を捕獲して眷属として生まれ変わらせ、自分の城を護る番人とするためらしい。まぁRPGで言う中ボス枠か。


 ついでにお館様は俺の前世で言う資産家のお嬢様らしく、独立して自分の城を持てるようになったばかりの割には資金的に恵まれてるっぽい。


 彼女たち悪魔は人間界に己の分身を無数に放ち、生き物の精気を集めるのを基本的な目的としている。それ以外にも趣味に走る悪魔が多いそうだがそれはともかく。


 精気を集める拠点として人間界にダンジョン。即ち己の城を顕現させ、規模を大きくして更に精気を集められるようにする、それが彼女たち悪魔の生業であり魔界への貢献なのだそうだ。


「若輩ではあるが同格の者どもよりは、それなりに優秀である自負はあるし、後ろ盾もある。我の第一の眷属として目を掛けてつかわす」


 一度死んだ身だから反発する気も無いけど、自分病人だっただけに喧嘩とかさっぱりですよ? 番人と言っても役に立てるかどうか? その辺の懸念に気付いたのかお館様は悪戯っぽく笑う。


「気付いてないのか? 自分の額を触ってみろ」


 言われて触れてみると……あれ? 寝起きで頭が重いのかと思ったら俺にも角が生えてる、しかもお館様とお揃いで山羊みたいな二本の角っぽい。


「我の眷属なのだからお前も悪魔に決まっておろう、このあたりは人間だった意識が残ってるせいかもしれんがな」


「私も悪魔になってしまったのは理解しました。とは言え戦いの経験が無いのは変わらないのですが……」


「最初から知能があるお前は、本来本能しかない筈の生まれたての悪魔にしてはかなり強力な部類に入る、基礎的な身体能力だけで侵入者には負ける事は無いであろうし、学べば魔法も使える」


 おっ! それはちょっと嬉しいかも。お館様は俺が納得したのが分かったのか懐から黒い水晶玉のようなものを取り出した。


「これは悪魔の子供が使う極々基本的な魔法の知識が詰まった宝珠だ、頭に押し付ければ勝手に知識が頭に入るし、得意不得意な系統も判別でき、固有魔法も分かるものだ」


 固有魔法とは系統だった魔法の技術ではなく、個々の悪魔が使える特殊な能力の事らしい、これはどんな弱い悪魔でも持っている。まぁ弱い悪魔は固有魔法も弱いらしいが。


 地味にこの固有魔法の希少度が出世に響いたりするので、生まれてすぐにこの宝珠にまつわる喜悲劇があったりするそうだが俺にはまぁどうでも良い、基本お館様の部下な立場だし。


 黒い水晶を頭に押し付けた瞬間、猛烈な頭痛と同時に様々なモノが入り込んでくる異様な感覚に襲われる。あっという間だった気もするし、かなり長い事頭痛に苦しんだような気もする。


 そして気が付くと俺はお館様の膝の上……と言うか太股の隙間に挟まっていた。本来嬉しいシチュエーションだが身長差のせいか、あまり柔らかさを堪能しにくい。って言うかお館様の太股は筋肉質で硬い。


「目が覚めたか、気分はどうだ?」


 俺を鷲掴みにして床に降ろしたお館様の質問に、ちょっと体を触ってみるが特に痛い所は無い。


「特には問題なさそうです、実感はないですが魔法も使えそうな気がします」


 後で試してみるが良いと、鷹揚に頷くお館様。妙に機嫌がよさそうなのは何故かと思ったら、どうやら俺の使った水晶を眺めてニヤニヤしてるのでなんとなく察せた。


「ふふふ……初めて作った我の眷属は大成功どころか大傑作ではないか、うむうむ我が魔界の貴族の座に至った暁には、お前にも魔界での栄華を分け与えようぞ」


 投げ渡された水晶を覗き込むと、そこには俺の簡易的な情報が見えた。得意な系統は氷属性、苦手なのは火属性。そして固有魔法の欄には……。


「お館様、自分の固有魔法の名称が『紅い雪』とあるのは分かるのですが、内容が分かりにくいのですが……」


 多分威力とか範囲とか付加効果が書かれてるんだろうけど、基準が分からないから強いんだか弱いんだか判断できない。


「かつてお前が生きた世界……二ホンだったかな? そこに使われている名前には、文字そのものにそれぞれ意味があり、本人は知らずとも名前は魂に刻まれ影響を受ける」


「ハマヤベニユキ、紅い雪と書くその名前は、生まれ変わり我が眷属となっても、魂に刻まれた名前はそのままであったと言う事。そしてハマヤ、魔を破る矢と同じ読みの名前が代々受け継がれたが故に、等しくお前の魂にも刻まれている」


 お館様が名前を教えてくれない事から分かるように、悪魔はどうにも名前を重要視してる。やっぱり魔法とかある世界だとそういう事もあるんだろう。


「固有魔法の内容だったな。特徴としては『紅い雪』そのものに殺傷力や破壊力は皆無であるが、お前を中心に恐ろしく範囲が広く、その範囲全てに『破魔』『極寒』『吸血』の効果を齎す事。三つもの付加効果があるのは希少度が高く、とても強力な固有魔法だぞ」


 『極寒』は紅い雪が降る範囲内を極限まで凍えさせ。『吸血』は雪が触れた生き物はその部分から血液を奪われる。これだけでも守護者として強力な能力だが『破魔』により、範囲内の魔法が一切使えなくなる効果にお館様は注目している。


「恐らく万を超える軍勢を我が城に差し向けられても、お前一人がいれば恐れるに足らぬ、人であろうとも悪魔であろうともな」


 城の内部を迷路にし、血液を持たないゴーレムなどを配置するだけでも難攻不落のダンジョンになるとお館様は言う。ゴーレムとか動くのかと思ったけど魔法が使えなくなるだけで、魔法道具は普通に動くらしい。


「弱点は範囲の外から高威力の魔法や兵器を叩き込まれる事や、超遠距離からの狙撃だが、ダンジョンは外からの影響は受けないので実質弱点は無い」


 機嫌の良いお館様は、俺に城の上層部分を与えるから好きに過ごすようにと言って大量の金貨を与えてくれた。魔法の基礎知識の中に、魔界の商会と連絡を取って好きなモノを買える術があり、生活に必要なものや嗜好品を自由に買って良いそうだ。


 後は悪魔の城(ダンジョン)って、基本的に地下深いほど格が高くて棲んでる悪魔も尊敬されるそうだ。そしてダンジョンが魔界まで到達した城の主は魔界において貴族と認められる。


 第一の眷属である俺は、お館様の住む最下層の一段上の階層を任されるのが普通なのだが、このダンジョンはまだ地表部分の城と、地下一階しかないから仕方がない。


「お前がいれば安心して精気を集められる。城の地表部分を『紅い雪』で閉ざしておくのだ……それと呼び名が無いと不便だが、生まれてすぐに悪魔としての真の名を与える訳にもいかん、故にお前は暫く紅雪鬼と名乗るのだぞ」


 そうして、俺の悪魔としての、新たな人生が始まった。

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