表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンズガーディアン  作者: イチアナゴニトロ
18/49

9話

「クロ、侵入者は見える範囲で四人だ。俺の紅い雪が積もってる区域は魔法による偵察が出来ないが、お前の区域はそうじゃない。可能な限り情報を持ち帰らせないよう始末しろ」


「了解いたしましたわセツ様。上空からの一撃で仕留めれば宜しいので?」


「そうだな人間の魔法には他人の視覚を媒体に、遠距離から看破の魔術を使用する術がある。連中が偵察目的なら姿を見せないに越したことはない」


 クロは例の黒い宝珠を使った結果、炎、風、闇の魔法を使えそれ以外は一切使えない。固有魔法『痴れ糸繰』は配下を手足のように操り、敵でも抵抗する意思が弱ければ傀儡にできる、強力で便利な能力を持ってる。


 そして魔王の血を飲んだ今のクロは、元々の聖女として聖性の強い特性が全て反転したうえで更に魔性を強め、三対の翼を持つ上位の堕天使となっている。


 余談だが翼の数で堕天使の格はほぼ決まっていて、三対の翼を持つクロは上級に位置する。四対だと魔将クラス、五対で貴族クラス。現在魔界を統べる大魔王様も堕天使族で六対の翼を持ってるそうだ。


「現在位置は補足してるな? 犬どもを遠ざけた後、上級魔法を不意討ちで叩き込んで終わりだ、一応幻惑系の装備はしておけ」


「はい、ではそのように。フフッあの人たちセツ様の紅い雪を考慮してるのか随分と厚手の服を着てますわね、寒さを凌ぐ魔法道具も持ってるかもしれませんわ」


「紅い雪は降らせたら、冷えるせいか中々消えないからな、まぁバレた物は仕方ないと割り切るさ」


 通信を切り、監視用ゴーレムに意識を切り替えると侵入者は、クロの区域に大量に放し飼いにされている魔獣を避けるように進んでいる。


 嫌な感じのする武器は全員持ってない。時折石板のようなものに向かって話してる素振りがあるからやはり偵察か。


 まぁ嗅覚の鋭い魔獣の庭だから位置はバレてる、クロが犬どもを遠ざけてるだけなんだがな。それに気が付かないでどんどん進んでいく。自分たちの頭上にいる堕天使に気が付かないでな。


 最も奥深くまで潜り込んだ侵入者の一団に、クロが風の上級魔法を放ち余波の衝撃で一瞬監視ゴーレムの映像が乱れる。音速を遥かに超える速度で撃ち込まれた空気の塊が、侵入者の居た場所にクレーターを作る。


 魔獣たちがクレーターの中心、もはや判別できない四人の死体に群がる。生き残ってはいないようだな。再びクロからの通信が入り監視ゴーレムから意識を戻す。


「終わりましたわ、一応上空から他にもいないか確認致します」


「ああ、余程の馬鹿じゃない限り、偵察するのに一組だけって事は無いだろう。門とは別の場所から城壁を超えて侵入してるかもしれない」


「しかし疑問なのですが、装備からしてアルファストの者なのでしょうが……私がメルを連れ去ったのはバレてない筈なのですが? 顔は隠してましたし」


「お前がお館様の眷属になったのはつい先日だ、連中からすれば第一王女が連れ去られたのだから、せめて生死の確認と言ったところだろう」


 要するに騎士団を始末したのは良いが勇者が生き残ったせいで、クロがこの城に連れ去られたのを知られてるのだ。南のアルファストからすれば、調べないと言う選択肢はないだろう。王政は舐められたら終わりだ、必ず報復に来るだろう。


 そして、物資の流れを止められた東のオルザイン、西のシーグマは遠からず原因を突き止め排除を選ぶだろうし。悪魔そのものを敵視する北のヴェルスタは既に進軍の準備を整えてもおかしくない。目立たない立地って誰が言ったんだここ。お館様の姉だよ畜生。


「騎士を大勢殺した時点でアルファストとの敵対は避けられない、他の三国も同様だ。しかし情報が少ないうちは慎重になるだろうから、可能な限り隠蔽しその間に実力を蓄えるんだ」


「成程、承知いたしました。そうなりますと自由に動け魔物を指揮できるのが、私とセツ様だけだと手が足りませんわね。メルも眷属にしてしまいますか? あの子は風の魔法に関してはずば抜けておりますよ」


「もう少し成長すれば具申するつもりだったが、眷属化には相当の消耗を伴うそうでな。連続して固有魔法を行使するとお館様が弱体化してしまう……精気のありそうな奴を生け捕りにしてお館様に差し出すか?」


 消耗するなら補充して貰えばいい。弱体化したのに先日クロを眷属化できたのは実は聖女の血を飲んだからだ。


「メルはセツ様のモノですし……上の妹も攫ってまいりますか? アルファスト王家は聖性が強い血筋ですからお館様のお口に合うかと」


「メルが攫われた次の日に警戒してないわけが無いだろう。リスクが高すぎる、勇者が護衛になってる可能性もある」


 魔王の血を飲んだ俺たちなら軍隊相手にも戦えるが、流石に勇者相手に地の利がある場所で戦うリスクは冒せない。


 どうするべきかと考えてると、通信中のクロの声が聞こえなくなって、すぐに破裂音が聞こえた。


「セツ様、やはり他にも侵入者です。先の者達と同様に始末いたしました」


「ああ、そのまま警戒を続けてくれ」


 斥候を始末するのはクロだけで十分だろう。通信を切り城の外を監視ゴーレムで周回してもやはり軍隊の影は無い。兵の数が多ければ多い程準備に時間がかかるのだ、流石に今日明日と言う話ではないか。


 まず和解とかは期待するだけ無駄だ、クロとメルから聞いた話だけ鵜呑みにする気はないが、悪魔が敵視されてるのは間違いはない。


 欲しい物は荒くても広く素早い情報網、今斥候に来てる人間は恐らく監視が付いてるだろうから、普通に人間の町に住んでる人間を雇う、この場合は物資を関わる商人が適任か? ……いや活動資金を用意して上層部の情報が手に入るのなら役人の方が……。


 金を出せば情報を流す人間は大勢いるだろう、南のアルファストはメルに色々聞くとして……。


 通信越しに何度も破裂音と人の悲鳴が聞こえてくる。随分と大勢送り込んだものだ、それだけこの城を危険視してる証拠だろうけど。


 数名はクロの索敵を潜り抜け俺の区域に入り込んだようだ。しかし空を飛んで来たものは墜落し、門までたどり着いた者たちもゴーレムに撃退された。まぁ魔法が使えなくなる空間で金属の塊を相手にするのは分が悪いだろうな。


 その後暫く監視を続けたが、見つからないので全員倒したものと判断し城に戻らせた。



   ~~~~~



「外部に情報源が無いと遠からず詰むな」


「はい、明らかにセツ様の固有魔法を検証したうえでやって来てますね」


 侵入者は全員始末したが、敵の装備を見れば、全員厚手の防寒具を着てる。これはつまり俺の固有魔法がどういうものか把握してる証拠だ。


「私の事はまだバレてはいないと思いますが、少なくとも『空を飛んで風の魔法で攻撃してくる悪魔』の存在は露見はしたでしょう」


 今はまだ、クロの故郷の連中が偵察に来る程度だけど、少しづつ情報を積み重ねていずれこの城は攻略されてしまうだろう。そこは仮にも軍を率いていたクロも良く分かってる。


 現状外の情報源なんて、お館様の分身だけど、精気集めが優先なので、当てにはできない。


「対策として各階層で魔物の指揮を執れる者を増やし、防衛力そのものの底上げでしょうか?」


「お館様は正直危機意識が足りない。あまり余所の悪魔を頼るのは賛成できない」


 ぶっちゃけ信用できん。お館様が無防備なところを寝首を掻かれて、乗っ取られては堪らん。


「商人、特に武器などを商ってる者に、金を握らせ軍の動きを監視させるのはどうだ?」


「一商人では軍の行動を知るすべは有りません。複数の商人を抱き込むのはリスクが大きすぎるかと」


 四方の四国それぞれ複数の商人に渡りを付けても、何度も軍の行動を知った上で行動すれば警戒されてしまう。偽情報でも流されては致命的だ。


「お館様に眷属を増やして頂くのは……消耗が大きいと伺いましたし。軍の幹部の買収は商人以上に危険です」


 買収のリスクか……そこを無視できれば多少コストがかかっても許容できる。聖杖を魔王様に献上した際、頂いた資金は正直言って、黄金が何トンあるんだかすら分からない金貨の山だからな。経済戦争を仕掛け金の価値を暴落させ混乱させることができるレベルけど、物々交換にすれば済む話だしメリットが小さい。


「危険が無く、こちらとの繋がりが分からない人間というと……奴隷か? 仮に下級魔法の知識を植え付けたとして、重用されると思うか?」


「身元不明の傭兵などは珍しくはないので身なりを整えれば誤魔化せるでしょう。魔法、まして高い殺傷力を持つ悪魔が使う魔法が使えれば手元に置きたがる者はいくらでも……ふむ。お金が掛かる以外のデメリットは無さそうですね」


「もう一つ、人の集団で内部争いが無いわけが無い。内ゲバを煽る作戦も実行したいが、この辺は内部事情を調べてからだな。先ずは荒くても広く早い情報網だ」


「それでは実験的に少数の奴隷を四ヵ国に潜り込ませ、問題があればその都度訂正するといたしましょう。上手く潜り込めた者には金銭を渡し出世させれば情報も多く手に入るかと」


 その後俺たちは大雑把な方針だけ決めて、明日の朝にお館様の許しを貰う事にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ