8話・裏
300人の精鋭騎士を全滅させ、あまつさえ聖女を浚った山羊の角を持つ悪魔の情報を、全身に凍傷を負いながらも帰還した勇者ヒカルから聞かされた騎士団長バルドスは、急いで情報を集める為に手を打った。
周囲を極低温にする魔法を使うとのことで、とにかく丈夫な防寒具を用意し、常時連絡ができるよう監視用の使い魔を憑りつかせた冒険者を、十数組送り込んだのだ。
治癒魔法で重度の凍傷から回復した勇者ヒカルが、クローディア姫の奪還に尋常でない意気込みを見せて、一緒に召喚された勇者たちもまた同調するが、バルドスにからすれば論外だ。
悪魔に囚われたものは血を吸われ殺される。万が一生きていたとしても、何も仕込まれてない可能性など、それこそ飢えた狼の群れに小鹿を放り込んで生きてる確率の方が大きい。
死んでる可能性が高い者の為に、生きてる人間を危険に晒すことはできない。たとえそれが聖女として国中から尊敬されている第一王女だとしてもだ。
王女は死んでる可能性が高い、そう諭しても一人生き延びてしまった少年は納得すまい。ならば……王女が浚われ、騎士団が全滅した咎により勇者ヒカルを幽閉する。
もちろん勇者を罰するなど公にはできない、そういう建前で調査が終わるまで大人しくしてもらうだけだ。
冒険者を送ることと並行して、バルドス自身が交戦した現場に赴き検証する。
「この血で染まったような雪? でしょうか、騎士たちや魔物の死体から見て血を奪う特性を持ってるようですね」
「しかし寒い。悪魔の魔力とはこれほどのものか」
「この紅い雪が積もってる場所は通信ができない。まさかと思ったら魔法そのものが使えないぞ」
「見ろこのゴーレム、これが悪魔が使役するものなのか、信じがたいほど高度な技術だぞ。持ち帰って調べなければ」
調べれば調べるほど厄介な悪魔だ。これは何も考えずにダンジョンへ突入したら、何万人手練れの騎士がいても全滅は免れまい。しかしこれだけ証拠を残せば対策されることが分からないはずもない。
人間を舐め切ってるのならまだましで、これが見せ札でまだ手札を隠し持ってるとしたら……。
そしてこれほど強力な悪魔に部下がいないとは考えにくい。バルドスは報告書をまとめつつダンジョン攻略の策を思いめぐらせるのだった。




