7話・裏
新しい眷属である黒天姫と話しながら飲むお茶は、基本食べられればそれでいいと言う風潮の魔界のそれとは、比較する事すら烏滸がましい。可愛らしい茶器を始めとした彼女の私物は、卓上に彩りを添え同じお茶でも数段美味しいような気もする。
一応悪魔にも味覚はあり、食事は嗜好品として嗜まれるものだが、作物を育てる精気があるなら魔界生物を造るのが魔界だ。
そもそも魔界産の作物など味にも栄養にも乏しく、今食べてるクッキーも魔力で生成された疑似的なもので、栄養など一切ない。一応魔力で作ったものだから精神的な疲労を和らげる効果はあるのだが。
魔王の血を飲み気絶した紅雪鬼が起きるまでは、お喋りでもしてようと用意した。何故なら新しい眷属とは即ち彼女の妹なのだから。しか当然ながら末っ子ゆえにどうしたら良いのか分からずに、マニュアル通りの態度で、話の内容も実務的なものになるのが黄泉姫だった。
「ふむ、其方の固有能力の名称は『痴れ糸繰』自身を司令塔として、配下の自我を無視し思いのままに操る事ができる。成長すれば敵を操る事ができるだろうし、今の時点でもある程度思考を鈍らせることは出来るか?」
「はい、流石に勇者には効果がありませんでしたが、メルリーシャは容易く無力化できました。風を操る才能に関しては私以上、子供であり本格的な訓練を受けていないため、地力で強引に押し潰すことは出来ましたが、勇者と連携されては危険だったかもしれません」
「うむ、斯様な才ある者であれば、眷属とするのも吝かではないぞ?」
「私は賛成ですが、紅雪鬼様に差し上げた者なので、それとなく伺ってみましょう」
「まぁ我が血を分け与えて眷属としないまでも、悪魔に生まれ変わらせることはいつでもできる。あの者に関しては後で決めるとして……黒天姫、其方は長女と聞いた、一つ聞きたいのだが弟や妹にはどう接すればよいのだ?」
「百組の姉妹がいれば百通りの関係があると思いますので、一概に決まってはおりません。私の場合の話ですが……」
「うむ、なんであれ参考になるであろう」
「姉であることよりも聖女であることを優先させられていたので……個人的な話をした覚えが、思い出せる会話は殆ど家臣に対するモノと変わりませんでした……」
「それって我が其方や紅雪鬼に対する態度と一緒ではないか」
「お役に立てず申し訳ございません! かくなる上は真ん中の妹と、後ついでに弟も連れてまいります!」
「待て待て、流石に勇者が警戒してるであろう。焦ってはならん」
黒天姫にも姉ぶりたい黄泉姫だったが、どうにも上手くいかないのであった。