07-4
「もぉ。こんな所で寝たりして、風邪ひいちゃったらどうするの。私の……責任になっちゃう、でしょ」
両膝を抱えて顔を伏せ、眠ってしまったアスミに抗議するのだが、小声過ぎて彼の意識には届かない。
来栖冴季もアスミの隣にしゃがみ込み、その伏せられた横顔を見つめた。
肌も服も髪も、土や血で汚れてしまっている。
目を閉じ眠っているアスミの表情は、まだ小学生でも通りそうだ。なのに中身はシッカリ男の子で。
自分なんかよりも全然、大人なのかも知れない。
――そうだよ、何もかも私の責任だよ。ごめんね、勝手に憎んでたの。あなたがこんな人だなんて、思ってなかった。
仮想敵に仕立て上げられ、刃を向けられ……なのに大した抵抗もせず、冴季に殺されようとするなんて。
アスミがダンスをやめた噂は聞いていた。
表舞台から姿を消したからこそ、同じクラスで驚いたのだし。
「〈あの〉皆丘アスミと同じクラスになるなんて、ね」
話がしたいと言えば付き合ってくれた。
藤沢ゆうなが危険だと吹き込めば、嫌な思い出の場所にも来てくれた。
お人よし過ぎて、危害を加えるには簡単過ぎる相手だ。
彼を守ろうとする者さえ現れなければ、今頃――。
――どうして。どうしてこんなにもアスミが憎かったの? 悔しかったの? 殺せるチャンスがこんな容易に巡って来たの? どうして。
鼻の奥が、痛い。
『藤沢さんを助けられるのか』
『藤沢さんは無事なんだろうな?』
『アオイには手を出すな』
『お前達が壊したいのは、俺だろう?』
『お前のために、お前の服を買ってやる』
――自分の事より、他人の事ばっかり。バカみたいだよ、アスミ。
涙が零れそうになった、その時。
「そいつ、俺の背中に乗せてくれるか」
突然話しかけられ振り向くと、地下で会ったアオイとか言う人が居た。
彼はアスミの左腕を持ち上げ、その横に自らしゃがみ込む。
その背中にアスミの体重を移動して欲しい、と言っているようだ。
「どうするんですか」
「連れて帰る。こいつの自宅、知ってるか?」
「知りません。同じクラスになったばかりだし」
その人は数秒、苦い表情を浮かべて。
「仕方ない。うちに連れて帰るか」と呟いた。
「え、あなたの家に?」
「きみの自宅でいいなら、そっちに運ぶけど」
「無理、それはダメ……アスミがお母さんに虐められちゃう」
アオイは深いため息を吐いた。
「とにかく、頼む」
言われるままアスミの身体を引っ張って、その人の背中に乗せようと頑張る。
――け、結構重いな。
脇に手を入れ結構乱暴に、放り投げるようにしてその人の背中に乗せたのだが、アスミは起きなかった。
目を閉じたままグッタリと、彼の背中にもたれかかっている。
アスミを背負い、スッと立ち上がるアオイ。
それに比べ冴季は、息が乱れていた。少し頑張っただけで苦しくなる、自分の身体が恨めしい。
そう。恨めしいのは自分自身だ。
見える事も、弱い事も、親に愛されていない事も、全てアスミには関係なかったのに。
どうして、いつの間に、すり替えてしまったのだろう。
「あ、あの」
「なんだ」
「アスミ、疲れてるだろうから、その」
大切に扱ってあげて欲しい、とは言い難かった。彼を傷物にしたのは自分、だし。
「えっと……よろしくお願いします」
「ああ。分かった」
そう言ってアオイはアスミを背負い、その道を行ってしまった。冴季の戻る道とは違う方向へ。
本当はアスミに付いて行きたかったけれど、アオイが迷惑だろう。
アオイに迷惑がかかるような行動を、アスミが喜ぶはずはない。
ほろり。と涙が滴る。胸が痛くて、とても悲しい。
――どうしよう……私、どうしたらいいの?
不安と呵責で涙が止まらない。
――心が、痛いよ……誰か、助けて。




