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■07■
「俺はさ、分かったんだよ。何度も何度もステップを踏まされ、腕を駆使して微妙なバランスを取らされる意味が。あの舞が伝えられた意味と、その理由が分かったんだよ。苦しかったけど、苦しめられるその理由も、あんな振り付けをした奴の意図も、分かったんだよ……分かったんだ!」
口から思いが勝手に吹き出る。
アスミは、自分が怒っているのを感じていた。どこか、他人事のように。
あぁ、自分は怒っているのだな。と、冷静な自分が心の中で静観している。
『ソレの事か?』
狐の視線はアスミの持つ剣に向けられていた。
薄い薄い紫色を内包し、白銀に輝く剣。デザインは西洋風で、その理由も分かった。
アスミのイメージが具現化しているのだ。
アスミはカッターよりも強い武器を欲した。
踊りによって知る事の出来た〈向こうの世界〉へ、それを要求したのだ。
武器をよこせ、と。
訴え求めたから〈コレ〉が来た。
きっと以前、どこかでこの剣を目撃したのだと思う。それがテレビで見た映画だったのか、漫画だったのか、街で見かけたポスターだったのかまでは、分からない。
でも別に、そんな事は分からなくてもいい。
重要なのは〈自分が変わってしまった事〉――。
「ああ、そうだ」
『……だから。だからお前は目障りだったんだ。あの時、トドメを刺しておくべきだったんだ。なのに、生き延びやがって!』
狐の口から炎が吹き出した。
アスミは剣を斜めに構え、振り下ろす動作の風圧で炎を散らし、流れを変え、叩き返す。
一秒にも満たない炎の動きを読み、素早く避けたのはさすが動物と言う感じか。
『やめて、アスミっ』
姫巫女の声がする。
アスミを引きずり込んだ張本人が〈やめて〉はないだろう。
だから構わず、狐に向かう。
あの狐だってアオイに向けて針を飛ばしている。咆哮の空気振動により、針は単なる針ではなくなった。
あれが生身の肉体に刺さった時、どうなるか分からない。
でも多分、えげつなく痛むとか苦しむとか燃えるとか腐るとか、何なりとオプションが発動する事になるだろう。
見過ごせと? 出来るわけがない。
アオイが狙われるのは、この中では一番戦いに長けていないから、だろう。
ただのケンカやリンチではない。人の世界のイザコザとは違う。さっきまで普通の人間だったアオイの経験値は、低すぎた。
でもたとえその程度のアオイでも、狐にとっては目障りなのだろう。本当の雑魚ならチョロチョロされたって、痛くも痒くもないはず。
でも執拗に狙っている。
狐にとってアオイも邪魔なのだ。
昔のアスミのような目に遭わせるわけには、いかない。
アオイの事なんか嫌いだけど、やっぱりそれは別問題。
だからアスミも踏ん張った。狐の咆哮に、攻撃に、抵抗して抵抗して、隙を狙って反撃する。
身体が動く。狐へ対する集中力が、最初とは桁違いだ。
見えるし、分かるし、対処出来る。
だけどいつまでもこのまま、小競り合いを続けるわけにはいかなかった。地上では来栖だって待っている。
そろそろ終わりにしなければ。
そう考え息を吸い、気力を身体の中で整えた時だ。
アスミと狐の力はぶつかり合い、クルクルともつれ合い、螺旋を描いて急激に大きくなった。
同じくらいのエネルギーが押し合っている、と言う事だろうか。
「おい、アスミっ!」
アオイの声に反応し、チラリと彼を見る。
アスミの身体は螺旋のエネルギーに巻き込まれ、浮き上がり始めていた。
少し上から、彼らを見下ろす。
あぁ、身体が軽い。さっきまでのたうちまわるほど重くて苦痛だったのが、嘘のようだ。
アスミの身体だけではない。
周囲の全てが、土が木材が、篝火の炎が。
宵闇の伽番や舞の姫巫女や。
アオイ、が。
エネルギーの余波を受け、崩壊を始めた地下室の中で縦横無尽に飛ばされている。
けれどアオイが不思議な役目を持つふたりに左右から守られ、庇われているのを見た時。
アスミは再び、狐へと意識を戻した。




