1話
ゆっくり書いていきます。よろしくお願いします。
扉をくぐったときのことを、神代緋色は思い出していた。
中世のヨーロッパを思わせるレンガ造りの街並み、遠くへ見える立派は城。
自然豊かで空気のおいしい世界。
すべてが新鮮で美しく感じた。
感動冷めやらぬまま緋色は馬車へ乗り込み、石畳の上を走る。
行き交う人々もそのままヨーロッパ系の顔をしているなと思っていた。
その中にたまに目に留まる、黒髪の人たち。
彼らが自分より先にこの世界にやってきた日本人達だろうと推測ができた。
武器を携え、携帯のような通信端末を操作している。心なしか疲れているようだった。
町の外へ歩いていく姿から彼らも冒険者なのだろう。
これからの自分たちを重ねて、馬車の中が少し盛り上がる。
「俺たちもすぐにあんな感じだな。」
「バーカ!あいつら銅の指輪だったから3部所属だぞ。そんな弱小チームなんて絶対ごめんだね。俺は1部のチームにスカウトされてやるよ。」
この世界にある数多のチームはランキング分けされていることを緋色は聞いたことがあった。彼らの話もそのことだろう。
銅=3部(ランクD、Cクラスの魔物を相手にすることが多い冒険者チーム)
銀=2部(ランクBクラスの魔物の討伐、Cクラス大量発生などの事件を対象に動くチーム)
金=1部(ランクA以上の災害クラスの魔物を相手にする冒険者チーム最高峰)
だったと事前説明会で聞いたような気がする。
緋色は昔の記憶を掘り起こして考えて、通り過ぎて行った彼らを思い出す。
(3部は弱い魔物しか相手にしないと聞いていたけれど・・・)
自分の考えているよりずっと疲れている様子だった彼らの顔が、なぜだか頭に残ったままだった。
緋色たちを乗せた馬車がついた場所は非常に大きな建物で、作りはレンガなれど城とは明らかに違う様相だった。
「ここは、これから1年間皆様に過ごしていただくアカデミーです。」
聞けば、この世界の知識や冒険者になるための戦闘訓練を施してもらえるのだそうだ。卒業試験まであり、合格できない場合は地球へ強制送還ということらしい。
不満そうな声は聞かれたが、皆試験をパスしてきた者たちなので
卒業試験もパスできると踏んでいるのか表立った抗議はなかった。
そうして1年間のアカデミー生活が幕を開けた。
-----------------------------------
そして1年後の試験当日。
「合格者、168名中52名。死亡者116名。」
緋色の手元の携帯電話にはそんな数字が踊っていた。
合格者が集まる講堂は、さながらお通夜の雰囲気だった。
試験が特別厳しいものだったわけではない。
試験は個人で行われる単純な『狩り』だった。
ランクD以上の魔物を1匹仕留めさえすれば合格という基礎的なもので、
1年アカデミーで訓練を受けた人間ならばできるはずだった。
試験前にはそう聞かされていた。
しかし100名以上もそれができず、アカデミーの屋外訓練場には死体の山が出来上がっている。
講堂に集まった合格者も顔色が晴れないものが多い。
五体満足でいるものの怪我をしたものが大半だ。
ランクDにあそこまで苦戦するのならば、さらに上のランクの魔物が現れたら
どうすればいいのだろう。そういう声がそこかしこで聞こえた。
1年前、アカデミーの門をくぐった時の自信はもう砕けた。
彼らは地球が、日本がどれだけ安全で安心な国かを再認識した。
それでも異世界は待ってくれない。魔物を討伐してくれる冒険者をチーム運営をしている貴族たちは逃がしはしない。
「神代緋色さんへスカウトの申し込みがありました。会議室2へお入りください。」
冒険者たちは次々と呼ばれていく。
飼い主たちへ。
さながら断頭台へ上るように、自らの運命を悟った彼らは会議室へ消えていく。
緋色も会議室のドアを開けると、執行人さながらの貴族が座っていた。
緋色が思っていたよりずっと若い、きれいな女の子だった。
「初めまして神代緋色さん。私はアイリーン・グレイ。ユーハイト王国グレイ子爵家次期党首です。あなたには私たちグレイ家のチームに入っていただきたくてスカウトにお伺いしました。」
アイリーンはへりくだり、丁寧に言葉を紡ぐ。
「あなたがチームへ入っていただければ、グレイ家は3部から2部へと昇格できると確信しています。入っていただけますね。」
にっこりと、天使のような笑顔で笑う。
男では抗えられない笑顔だった。緋色もこの違和感がなければうなずいていただろう。
「・・・どうして俺なんですか。優秀な人間はたくさんいます。3部のチームを2部へ昇格させるなんで仕事が俺にできるとは思えません。」
緋色は8割以上断るつもりで放った言葉だったが、帰ってきたアイリーンの言葉は意外なものだった。
「そんな正論のようなことでごまかさないでください。|あんなに≪・・・・≫今年の卒業生が生き残っているのはあなたの力ではないですか。」
「そうでしょう?7代目勇者様。」