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小話子離し子は無し

作者: C・トベルト
掲載日:2015/10/25

小話子離し子は無し



昔、ある山の中腹にあるお寺に親子が訪ねてきた。

 父と子の二人組で、母親はいなかった。

住職が、どうしましたか?と尋ねると、男はこう答えた。


「俺は金も仕事もない男だ。

 しかし、これでも昔は武士。

 また一人の武士として働きたいのだが、子を連れたままでは出来る仕事も出来ず、また職を失ってしまう。

 だから、この坊を一年預かってはくれないだろうか?」


それを聞いた住職は、いいですよ。

 この寺で預からせて頂きましょう、と答えた。

男は子の前で膝をつき、こう言った。


「坊よ。

 俺はこれから、侍として国に仕え、立派になって帰ってくる。

 それまでの間、坊もこのお寺に奉公するのだぞ。」


はい、おおとう

子はそう言って、深々と頭を下げた。

そして父上と呼ばれた男は寺を去り、

坊と呼ばれた子は、寺に残った。




寺での坊の生活は、とても酷い生活だった。

そこでは、坊と呼ばれた子は、『小僧』と呼ばれ

毎日日が昇る前から寺の掃除をして、それ以外の事はほとんどが禁じられていた。

食事は一日二回、朝の掃除を終えた後、あまり多くない量の食事で、二回おかわりを許されたが、それでもお腹の虫は鳴っていた。


しかしそれはさほど辛い事ではなかった。

今も必死に働いている父を思えば、幾らでもがんばる事が出来たからだ。

 しかし、寺の奥にある小さな祠は、別であった。


寺の裏側から出て、急斜面の石段を登り、木々に覆われた道を通って祠にいく。

 そして祠を掃除した後、祠に蝋燭をたて火を灯す、というのが祠の仕事だが、そこはとても薄暗く、しかも祠を掃除する者は火を付けてそこを通ってはいけない、という決まりがあった。


 だが、その祠には幽霊が住処にしているという噂があり、そのため祠の仕事を皆嫌がっていた。

 小僧もまた、その一人だったが住職に怒られ、寺を追い出されるのが怖くて仕方なく祠を掃除をしていた。


 小僧は薄暗く、獣や虫が徘徊する道を歩き、急斜面の石段を、わらじも履かずに登っていく。

 何度も尖った石を踏み、足の裏を怪我しながらも小僧はようやく祠にたどり着く。

 暗闇の中、小僧は持ってきた蝋燭に火を付け、箒で部屋中を掃除し、来た道を戻っていった。


 皆が怖がる事を最後までやり遂げた事でとても喜んだ小僧であったが、坊主は小僧を褒める事は無かった。

原因は足の裏の怪我であった。

 この怪我から流れ出た血が、せっかく掃除した祠と石段を汚してしまった、というのだ。

 坊主は怒りのあまり小僧の顔を何度も何度も殴り、殺してしまった。

 そして、小僧の亡骸を祠の近くにある山道に埋めてしまった。

 その時、寺には他に誰もおらず、誰かが帰って来た時に新しい小僧が何処にもいないと坊主に話すと、

 坊主は、


「アイツは祠の近くの山道で死んでいた。

 恐らく畜生の仕業だろう。

 余りに酷い姿であったので、その場に埋めた」


そう他の者に伝えた。

 その翌日の晩、他の小僧が怖がりながらも祠へ出た時の事だ。

いつもの通り急斜面の石段を登り、祠へ入ろうとした時、

 他の小僧は、祠の中が光っている事に気付く。

 そして中から、坊主が死んだと言った小僧の声が聞こえてくるのだ。

 不思議に思ってそっと扉から中を覗いてみると、部屋の中は明るく声が聞こえるのだが、人がいるなら有るはずの影が何処にもない。

 しかし声は聞こえる。その声は部屋の上の方から聞こえた。

 恐る恐る見上げると、屋根の方には人の頭程の大きさで、赤く光る火の玉が浮いていた。

 激しく燃え上がる炎の中には、死んだ筈の小僧の顔があり、首から下はなく、断面された首から炎が噴き出し己の顔を焼いているのだ。

 そして、炎の中でこう喋るのだ。


「おとう~~、おとう~~、」


それを見た小僧は恐怖のあまり顔を真っ青にして祠から離れ、木々に覆われた道を走り抜け、急斜面の石段を駆け降りていって寺に向かって一目散に逃げていった。

 そして、今見た事を坊主に伝える。


それを聞いて坊主は心の底から震え上がった。

間違いなく、あの小僧の魂が悪霊と化したことに気付いたからだ。

 そして、小僧を悪霊に変えた人間を坊主は知っている。…それは自分自身だ。


坊主は話してくれた小僧に、皆に寺から急いで逃げるぞと伝えて来いと言おうとした。


しかし、

 それを言う事は出来なかった。


何故なら、急に寺の屋根が燃え上がったからだ。

そのため、坊主の口から出てきた言葉は悲鳴であった。

 しかしその言葉も、燃え上がる屋根が崩れ落ちた音でかき消されてしまった。






 そして、その日から丁度一年が経とうとしたある日の事。

 

 ある山の麓に一人の侍が訪れていた。

身なりはしっかりしていて、草鞋も服も新品の物を使っていた。

 表情はとても明るく、山の中腹を見ていたが、やがて侍は畑仕事をしている農民に話しかける。


「これ、そこの農民。

 この辺りに昔、寺があった筈だが、ここから見る限り何処にもない。

 何か寺について知っている事はないか?」


農民はへい、実は…と前置きしてからこう話した。


「つい一年程前、

 この寺が火事により焼け落ちてしまったのです。坊主や小僧が何人も焼け死んでしまい、また寺を建てる事も出来ないのです。」

「何故寺をまた建てようとしないのだ?」

「それは…。

 そこに妖怪がいるからですよ。」

「妖怪?」

「へえ、

 生き残った小僧の話から、火事は火の玉が原因だと言うのです。

 しかもその火の玉、「おとう、おとう」とまるで赤子のように泣いていた、と言うのですよ。

 どの坊主もそれを怖がって寺を建てようとしないんです。

 嘘だと思いましたが、毎晩暗い夜になると寺のあった場所に誰もいないのに火が燃えているのが見えるんです。

 ありゃあどうみても……どうしました?」


 農民は思わず尋ねる。何故なら侍は口を開けて顔を真っ青にしていたからだ。

 侍はしばらくそのままであったが、やがて口を閉じて、優しく笑った。


「いや、何でもない。

 …だが、そんな危険な物の怪がいるのでは物騒だな。

 儂が行って、物の怪を退治しよう。」

「え、しかし、どんな坊さんのお経も効かない妖怪を、お侍様がどうやって…。

 あ、ちょ、ちょっとまって下せえ!」


農民が呼び止めたが、侍は振り返ろうとは全くせずに山へ向かって歩いて言った。


その晩の事である。

昼間の侍が心配になった農民が山の様子を眺めていると、いつもの通り山の中腹に火の玉が現れた。しかし奇妙な事に、いつもは一つしか見えない火の玉の近くに、もう一つの火の玉が見えたのだ。

農民はあれは侍のたいまつか、魂か分からなかった。2つの火の玉はゆらゆらと揺らめきながら近づき、やがて重なり合った。

 その瞬間、


「おとーーーーーーーーーぅ!!」

「ぼーーーーーーーーーーーーぅ!!!」


そんな叫び声が聞こえたので農民は驚いて腰を抜かした。


(ひ、ひぇーー!

 あの侍、きっと火の玉の親だったんだ!

 どうしよう…只でさえ恐ろしい火の玉が二つになってしまった!)


心の中で己のした事を反省し、後悔する農民。

 しかし、火の玉はお互いにくるくると周りながら上へ上へと飛んでいき、遂に無数ある星の中に隠れてしまった。






その日から、山に火の玉は現れなくなったが、農民は今でもたまに暗い夜に外を出て、火の玉になった星を探している。

 

二つ並んだ星。

 それがあの親子の星なのだ、と信じて。 


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