ピケのガラスのかけら
ピケはふしぎな町にすんでいます。
町のぐるりはかべで囲まれていて、家はひとつもありません。
そして、そこら中がものだらけ。あらゆるものが落ちています。
この町にすむ人は、持ち歩けるなら何だって、自分のものにできました。
ものを集める道すがら、通りかかった人たちに、自分の集めたすてきなものを、じまんしながら歩くのが、町のみんなの楽しみなのです。
ある日ピケのところに、たべもの男がやって来ました。
両うでに食べ物のかご、首からはソーセージのたばを下げています。
「食べる物がこれだけあれば、おなかが空いてもこまるまい。君は、どんな役立つものを集めているの?」
ピケは、片手を広げると、ただひとつだけ持っている、小さなガラスのかけらを見せました。
「どうせ食べられないのなら、ナイフやフォークがまだましだ!」
そう言うと、たべもの男は去って行きました。
またべつの日には、からだ中に石やくさりを巻きつけた、ほうせき女がやって来ました。
「みんなとってもきれいでしょう。それに、すごくねうちがあるの。あなたの宝物も見せてちょうだい。」
ピケはガラスのかけらを見せました。
「ちっともきれいじゃないし、ねだんだってつかないわ、すてたほうが身のためよ。」
そう言うと、ほうせき女は去って行きました。
次にやって来たのは、としょかん男です。背中のしょいこやカバンの中に、本がぎっしりつまっています。
「いちばんだいじなのは、ちしきだよ。何でも知っていることほど、すばらしいものはないからね。どれ、君の集めているものを見せてごらん。」
ピケがガラスのかけらをさしだすと、
「コップだったのかもしれん。ランプのかさの可能性もある。しかし、ただのかけらとあっては、ごみに一番近いと言える。調べる価値のないものだ。」
そう言って、としょかん男も去って行きました。
つづいて、じかん女がやって来ました。
何十もの時計をにらみながら、紙のたばに、何やらたえ間なく書きこんでいたのですが、ピケのガラスのかけらを見ると、何も言わずに去って行きました。
きっと、時間をかける必要をみとめなかったのでしょうね。
じっさいピケにとっても、この小さなガラスのかけらは、やっかいきわまるものだったのです。
何かに使えるわけでもないのに、ぬすまれるのが心配で、すこしの間も手ばなせず、また、いかにもこわれそうなので、そうっとあつかわなければなりません。
このなぞめいたガラスのかけらに、ぴたりとはまる何かのために、町を探してまわるのが、ピケの生活だったのです。
ある日のことです。
あまがさ男をおいかけて、はげしい雨がふり出しました。
ピケが、かさを片手に歩いていると、町のうす暗いかべぎわに、女の子がひとりすわっていました。
ぬれたらかわいそうなので、ピケが、かさをさしてあげても、女の子は何も言いません。
片方のほほを両手でおおって、まるで人形のようにうつむいています。
ピケはむっとしましたが、あいさつとして、
「君は、何を集めているの。」
とききました。
女の子は小さな声で、
「わたしは、何も集めていません。
この町に来たときに、顔がかけて、穴があいてしまったの。それからずっと、そのかけらを探しています。」
ピケがおどろいて、手の中のかけらを見せると、女の子は、はっと息をのみました。
かけらがほほにぴたりとはまると、女の子はうれしくて、おどるようにぴょんと、とび上がりました。
すると、どうでしょう。女の子の後ろのかべに、見たこともない穴があいていて、そこから外の、明るい光がさしています。
ピケは自由になった手で、女の子の手をとりました。
あまがさを投げすてると、ふたりは笑いながら、外の世界へとかけだしました。