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第8話(ジェス視点)

 星が空を埋め尽くし、虫達が歌を唄う夜。

 柔らかな草の上、若菜が私のすぐそばで小さく丸まって寝ている。


 眠っていることをいいことに自分から若菜の側に近づいたのだ。

 仕方ないとは言え、安全である主要街道を進むことにしたおかげで街道を外れ若菜に野宿させるはめになるとは……。


 森から出て街道を通っていけば普通宿には困らない。

 しかし、この国は戦争をしており、治安はどんどん悪くなっていた。


 脱走兵が集まり、盗賊となって村や町を襲う。

 まさか街道沿いにある町1つを破壊するほど組織が大きくなっているとは思わなかった。

 それほど脱走するものが多くなっているのだろう。


 たぶん、この国は戦に負ける。

 俺としてはそれでもかまわなかった。

 神の森にいる限り、身の安全は保障されているようなものだ。

 だが、今は安全な森を出ている。

 自分の身は自分で守らなければならない。

 しかも今は若菜までいる。

 若菜だけは守らなければ……。


 俺は腕の中にいる若菜をそっと抱きしめた。

 柔らかな感触、甘い香りを鼻から吸うとクラクラしてしまう。

 人の温かな温もり。

 15歳の時にアンネが世界からいなくなってから久しぶりの温もりだ。


 草の上に広がる若菜の黒髪に触れる。

 今は閉じている瞳も黒だ。


 自分が欲しかった色。

 この色があれば自分はダークエルフとして生きていくことが容易だった。

 だがそうすれば俺はアンネと暮らすことはなかっただろう。


 この世界で名を轟かせていた魔術師、アンネローゼ・プレシュオン。

 魔力をほぼ使い果たし、人の巡らす策略に疲れていた。


 俺は彼女に拾われ、彼女からさまざまな知識を得、深い愛情を注がれ育ててもらった。

 アンネがいなければ俺はどんなふうに育っていたのだろうか?

 いや、生きてはいまい。


 ありがたいのはアンネのおかげで自分は幸せだったと言う事だ。

 適当な草むらに自分を捨てた所をアンネが見ていて、母親を引き止めて話を聞き出しアンネは俺を引き取ることにしたのだ。

 アンネは最後までそのことを黙っていたが、どうしても事実が知りたくて水鏡で過去を覗いて事実を知った。

 正直、真実に傷つきはしたが、アンネの深い愛情のおかげですぐに癒された。


 ただ、アンネがいなくなってからの孤独は辛かった。


 自分はエルフ族なのにどのエルフ族にも受け入れてはもらえない。

 父と母の種族が違うというだけで……。


 エルフ族の2大頂点の種族、ハイエルフとダークエルフの特徴を見事に受け継いだ両方の容姿。

 光と闇、そしてアンネに教わった魔術。

 望まぬ運命。


 孤独な日々の中、色々なことを見せてくれる水鏡のおかげで少しだけ気が紛れ辛くはなかった。


 そして今は若菜がいてくれる。

 若菜がいてくれるおかげで寂しさはない。


「すー、すー」

「え?」


 突然聞こえて来た声に視線を落とすと、若菜の口から漏れ出てる寝息だった。


「ぷっ……可愛い寝息」


 あまりにも可愛らしい寝息に、起こさないようにそっと若菜の額にキスする。


 平原で寝ていた時と同じ子供みたいなあどけない寝顔。

 あの時はあまりにも可愛くてついキスしてしまった。


 本人が嫌がられて、許可なく勝手にキスすることが出来なくなったのが残念だ。

 それに若菜の唇にキスするとあまりにも気持ち良過ぎてもっと欲しくなってしまう。


 こうしてずっと一緒にいてくれたらいい。

 若菜にはたくさん笑って幸せになって欲しい。

 

 若菜が元の世界に還りたいと望むなら必ず還そう。

 けれど、もう少しだけ一緒にいたい。


 いつだって望みは些細なものだが勝手な望みだ。


「好きです。貴女が誰を愛していても、俺には貴女だけ……」


 もう一度額にキスを落とせば若菜が身じろぎする。


 さらさらと風が吹いて若菜の前髪を揺らす。

 若菜の黒髪に混じって自分の銀の髪が月の光を受けて反射する。


 自分の褐色の肌とは違う若菜の白い肌。

 何もかもが自分とは正反対だ。


 可愛くて美しい存在。

 一度でもいいから若菜が自分のモノになるなら、命すら引き換えてもかまわない。


 叶わぬ望みを持つということがどれほど切なく焦燥感を生み出すか初めて知った。


 欲しいものは手に入らない。

 それゆえに切望することをやめられないのかもしれない……。



(2011/10/14修正)

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