表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/38

第37話(ジェス視点)

 今日の訓練が終わり、少し痛む手首をさすってみる。

 少しだけ筋を痛めたようだ。

 痛む場所に手を当て、治癒魔法を唱える。

 それで痛みは消えた。


 今までは大きな魔力を使って力業で魔法を使っていたが、今は契約した精霊達が力を貸してくれるので、ほんの少しの魔力で魔法が使える。

 この方法は普通、親から教わるものだ。

 だが、生まれてすぐに捨てられた俺はそんな方法を知らなかった。

 俺を殺そうとした2人のハイエルフは俺と従兄弟関係だと言う。

 その2人がエルフの力の使い方を教えてくれたのだ。


 顔を上げればリキシス王宮が見える。

 今の俺はリキシス国王宮専属の精霊騎士団に所属し、精霊騎士として生活をしていた。


 戦争をしているバルト国の兵士に捕まり、強制的に戦争に参加させられ、リキシス兵士2人のハイエルフによって瀕死になるほどの傷を負ったものの、医師の治療と治癒魔法よってなんとか回復することができた。。

 その後、フレッドのおかげでバルト国の陣営から逃げ出せたが、ダメージの残った体で魔法を使い続けたせいで熱を出し、休んでいる所をリキシス兵士のハイエルフ2人に襲われ捕まってしまった。


 目が覚めると幽閉状態で辺りを見回しても若菜の姿も見つからず、俺の従兄弟の1人でリキシス国王宮専属の精霊騎士団団長と名乗るウルベルムが、俺の命を助けるために若菜が王都にいると教えてくれた。


 若菜のことが心配でたまらない日を2日過ごし、俺の身柄は王都に移され、一生、リキシス国王宮専属の精霊騎士団の精霊騎士として誓約させられることになった。

 若菜も王宮に仕える制約をしていると聞かされ、俺は抵抗する気も起きず大人しく誓約したのだ。


 若菜が王と交わした命を救う条件の1つに、俺と若菜は王の許可が降りるまで会うことを禁じられ、あれから半年以上も経ったというのに1度も会っていない。

 手紙のやり取りは許されていたので若菜とは頻繁に手紙のやり取りをしているし、遠目ではあるものの数度だけ若菜の姿を見かけたこともある。

 年齢の近い女の子達に囲まれ、楽しくすごしているようだ。


 俺も当初、精霊騎士団に所属したばかりの頃は他の団員達とうまく行かず、何度か衝突もしたが、いつの間にか仲間として受け入れられ、今ではそれなりに楽しく過ごしている。

 今まで持ったことのない剣を持たされ、毎日鍛錬ばかりしてきたおかげか、今ではずいぶんと騎士らしく見えるらしい。

 気づけば当たり前のようにこの国に受け入れられている。


 もう1人の従兄弟、アンリは明るく気軽に話しかけてくる性格のせいか、ウルベルムを交えて親しく色々と話す間柄になっていた。

 彼らが親から教えられるべき様々なことを俺に教えてくれる。

 いつの間にかここに馴染んでいる自分がいた。


「ジェス!」


 訓練が終わって顔を洗っている途中、俺を呼ぶ声が聞こえた。

 この声はアンリだろう。


 タオルで顔を拭いて声のした方向を見れば、手紙をひらりらとさせてアンリが近づいて来る。


「いつもの配達しにきたよ」

「ああ」


 いつもの手紙を受け取るが、何故か手紙が4通あった。


「4通も?」

「そう。若菜からは1通だけだけどね」

「他は?」

「ジェスに渡して欲しいと頼まれたの」


 その言葉を聞いて手紙の差出人を確認する。

 見てみればどの手紙も女性の名前ばかりだ。


「知らない名前ばかりだが?」

「そりゃそうでしょ。どう見たって告白の手紙に決まってるしね」


 アンリの言葉を聞いて困惑してしまう。

 手紙の中身を確認していないのでアンリの言葉通り、告白の手紙だとは限らない。

 だが、見知らぬ女性から手紙をもらう心当たりもなかった。


 俺がバルト国の兵士として戦場に出ていたことを知っている者は意外と多い。

 もしかしたら俺のせいで亡くなった関係者の女性からという可能性もある。


「俺が殺した兵士の恋人からかもしれない」

「あのね……。花柄の手紙に恨み言書く女性なんて普通いないから!」

「……」


 指摘されて改めて手元を確認すると、どれも花の柄の封筒だった。


「ジェス?」


 手元を見つめたまま動かない俺をアンリが呼ぶ。


「……若菜に会える許可はいつ出るんだ?」

「ジェスの望みが変わるまでだよ……」

「俺の?」

「そうだ。お前はワカナに依存し過ぎてる。ワカナの為なら自分の命すら何の躊躇いもなく差し出す。もしそんなことになれば、それはワカナの心に大きな歪を作る。自分のせいでお前が死ねばワカナは絶対にお前を忘れない。……それをお前が望んでいることを王は見抜いているんだよ」


 いつもの軽い態度ではないアンリが俺を真っ直ぐに見つめている。


「……」

「だからお前とワカナを引き離した。お互いしかいない世界ではいつかお前は自分の望みを果たすだろう?」

「そんなことは……」


 隠していた自分の望みを知られていることに動揺が隠せない。


「お前は自分の死をワカナに刻む為に、ワカナを異世界から呼び寄せたのか?」

「違う!」


 責めるような声に、俺は首を振る。

 俺が異世界から若菜を呼び寄せたことまでアンリは知っている。


 若菜から話を聞いたのだろうか?

 そして若菜はそのことを知っているのだろうか?


「あの世界で若菜はあのままでいれば心を壊した。だから俺は若菜をここへ呼んだんだ……。まったく知らない世界で新しい生活をしていれば時が若菜の心を癒すからと……」

「なら、なぜそう簡単に命を差し出そうとする! お前が死ねば誰がワカナを元も世界に還すんだ?」

「……若菜を還したくない」

「ジェス……」


 アンリが呆れたような表情で俺を見る。


 若菜を呼んだ時は還せると思っていた。

 触れられる距離に若菜がいるのが当然になった時、若菜を離したくないと思った。


「だからって、死をもって心に刻ませるのは反則だ。自分の浅はかな配慮でここへ呼んだんだ。若菜に選んでもらえるようになれ」

「……」


 正論すぎて反論すら思い浮かばない。


「会えないのにどうやって選んでもらえと言うんだ」

「そんなこと、自分で考えなよ。還す時を決められるんだ。それまでになんとかしたらどう? ワカナに選ばせるんだ。自分を」

「……」


 愛しそうに相手を見上げていた若菜。

 世界の幸せを独り占めしているような笑みを浮かべていた。

 そんな顔を自分に向けてもらえるのだろうか?


 小さな頃から見守っていた小さな笑み。


 若菜の笑顔が見たくて、何度も水鏡を見た。

 触れてみたくて伸ばした手が水面に触れ、波紋が広がっていくのを何度も繰り返した。


 また笑って欲しかった笑顔は、自分に向けられたいと思う望みになったのだ……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ