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第34話

 式典当日、王の護衛はアンリに任せ、私は広場に来ていた。

 転送魔方陣から次々と現れる人が広場に入って来る。

 私はリキシスの文官が普通に着ている制服を着てそれを見ていた。


 あの後、王の執務室に連れて行かれ、アンリ立会いの元、誓約の儀式を行い、私は王の部下となったのだ。

 それから色々と話した結果、字が読めないことが判し、結果侍女として働いて王城に住むことに決まった。


 ジェスも王都に着いたら王の前に行き、誓約をしなければならない。

 それがジェスの命を助ける条件の1つだからだ。


 ジェスは騎士団に配属されることが決まっている。

 ウルベルムが騎士団の副長らしく、その下に配属される。

 それがジェスにとって一番安全で、なおかつ誓約したことを知らしめるのに一番早い方法なのだとアンリが教えてくれた。


「大所帯の中に放り込んだ方がヤツの為になる。神の森に隠居した人間の女に育てられて人間との接触もあまりなかったんだろ? 一生ここで生きていくんだ。いやでもでもたくさんの人間と接触しなくちゃならねえ。騎士団に入れば集団生活が身につくからな。それに精霊との契約もしていないらしいし、そういったこともウルベルムが教える」

「……」


 騎士団に入ることは、王の言う通り、ジェスの為になるだろう。

 精霊と契約すればもっと楽に魔法が使えるようになるし、友達だって出来るかもしれない。

 それに従兄弟のアンリとウルベルムがついていてくれる。

 ジェスの世界はもっと広がるだろう。


「で、しばらく王子とは会うな」

「え?」

「王子様は平気で自分を犠牲するみたいだからな。姫君と会えない環境の中でやっていってもらう。何かあっても側にはコイツらがいるから心配はいらない」

「しばらくって……」

「しばらくだ。半年後かもしれない。現時点ではわからないが、姫君もここでの生活を確立しなきゃならねぇだろ? 会えない間、ここで慣れる為に頑張っておけ」


 ジェスに会うことが出来ないと聞かされ、胸がずしんと重くなったような気がした。

 もう2度と会えないわけではないけど、今までずっとジェスと一緒だったからしばらく会うなと言われて不安に感じてしまう。


 そんな私の様子に王が笑った。


「手紙のやり取りくらいはいいぜ。ただし、その前に文字を覚えないとな?」

「むう」


 文字の読み書きが出来ない私に、ジェスとの連絡手段に手紙にするところに王のいじわるが読み取れる。


「手紙は僕が責任持って渡してあげるよ。それなら安心だよね?」

「うん……」


 アンリが郵便屋さんになってくれるなら頼みやすい。

 不安ではあったけれど、ここで生活していかなければならないのだと自分に言い聞かせ、納得させた。


 そして式典の今日。

 私は文官の振りして人ごみに紛れている。


 アンリが防御壁を張ってくれるなら安心だけど、それで自分に何か出来ないかと思って会場にいるというと、アンリが文官の制服を貸してくれたのだ。

 制服を着て戸惑う私を見て、いかにも新人官吏らしく見えていいとアンリが褒めてくれた。

 私はドキドキと自分の早い鼓動を感じながら、会場の壁沿いをちょろちょろする。


 少し経って、いきなり凄い歓声が沸く。

 式典が始まったのだ。


 人ごみの向こうにベランダに立つ王の姿が見えた。

 今日の王はきちんと服を着ている。

 王冠を頭に載せ、きらびやかな服を着て、真っ赤なマント。

 腰には昨日のような大きな剣ではなく、宝石がついてそうな細い剣を腰に下げていた。


 私は移動しながら視線だけ会場にいる人達を見る。

 他の人とは違う行動する時は、何かしらの違和感を感じるはずだ。

 もし、怪しい人を見つけたらこの手に持っているモノを……。


 王が会場のみんなに向かって話している。

 その中、気になる人を見つけた。


 私と同じリキシスの文官制服を着ているのだが、何かおかしいのだ。

 近づいて見ると、制服のシワがおかしいことに気づいた。

 次の瞬間、誰かの足にひっかかってその男の背中に衝突してしまった。


 男が凄い怖い顔で振り返る。


「ご、ごめんなさい」


 痛む鼻を押さえて謝ると、男は少し私を見た後、そのまま前を向いた。


 私は2、3度鼻をさすって、手に持っていたものを出した。

 それを男のベルト通しにそっと通す。


 ぶつかって鼻が痛いのも、制服のシワに違和感感じるのも、理由は同じ。

 男が鋼のような筋肉をしているからだ。

 いくら健康の為でも、普通はあんなに堅くなるほど鍛える人はいないだろう。

 まして文官なら余計おかしい。


 しっかりとベルト通しに結びつけ終わると、男が小さな声で何か言っていることに気づいた。

 それが魔法の呪文だと気づいた時、すごい音と眩しい光で会場が包まれる。

 バリバリとけたたましい音は雷の魔法の音だ。

 それが会場のあちらこちらからいっせいにバルコニーの王目掛けて放たれた。

 しかしそれは王を守る、アンリの防御壁により阻まれる。


 会場は悲鳴が上がり、大混乱の渦に飲み込まれていく。

 いつの間にか目の前にいた男の姿がなかった。

 しかし会場から出るには魔方陣を通らなければならない。

 私はもみくちゃにされながら、壁沿いで警護をしていた兵士の1人のところまで逃げる。

 

 パニックになっている男の多いこの会場では、私の方が踏み潰されちゃうからだ。


 何とか避難し、警備兵の誘導で会場が落ち着いた頃。

 式典は中止となり、会場にいた人が少しづつ魔方陣へと移動させられる。

 

 警備兵の人の側で兵に寄りかかってそれを見ていると、30分以上経ったころだろうか。

 魔方陣警備をしていた兵の人が私を迎えに来た。


「確認お願いします」

「はい」


 兵士に連れられ、北東の魔方陣のある場所の入り口へ向かう。

 入り口に着くと、拘束された1人の男がいた。

 さるぐつわをかまされ目隠しをしているが、すぐにわかった。

 さっき私がぶつかった人だ。


「間違いありません」

「わかりました」


 私の言葉を聞いた兵士がそこへ走っていく。


 なぜ男がわかったのかと言えば、背中のベルト通しにつけたものが目印になったのだ。

 あらかじめ、何人かが文官のふりして会場に紛れ、怪しい人物を探す。

 怪しい人に近づき、赤いヒモをベルト通しに通し、紐の先端に赤いものをくっつける。


 手紙に封をする時、蝋燭をたらし、そこにハンコウを押すっていうのに似たものがこちらにもあったのだ。

 昨日誓約した時、王の執務室で見つけて思いついた。


 蝋みたいなのを手で潰すとすぐに固まる。

 それを外すには壊すしかないし、また潰した人の指紋が残るから言い訳も出来ない。

 軽いから付けられても気づきにくいし、いくら気配に聡い人でも、暗殺計画を実行しようって時に、こんな人だかりで背後の人の行動にずっと注意するなんて無理だ。

 まして、印付け役になったのは本当の文官の女性達だ。

 犯罪者を探すことには慣れてなくても、女性特有のカンで、気になる人に印を付けるように言ってあった。

 もちろん、きちんとした警備兵も探していたけれど、やっぱりこういうのは素人が警戒されない。


 事前の情報通り、会場に何人かの暗殺者が紛れていたおかげで運良く私が見つけられた。

 他にも2人捕まったらしい。

 しかも印付け役の文官さんが印した人だと聞いた。


 会場の端で大人しく待っていると、また警備兵が呼びに来た。

 来たのは会場の警備兵ではなく、城内警備の人だ。

 区別つけられるように制服の色が違うからわかる。


 兵士に着いて城内に入り、案内された部屋に入ると王がいた。

 近くにはアンリの他に数人の人がいる。


「よう。ちゃんと手柄立てたんだってな?」

「はい」

「しかも捕まえたのはみんな手伝わせた文官だって? 兵達が落ち込んでいたぞ」


 大きな椅子にゆったりと座っている王は、豪華な服装のせいかちゃんと王様に見える。

 でも、気さくな話し方は変わらない。


「これで黒幕がわかりますかね?」

「3人も捕まえたからな。こいつらが何とかするさ」


 楽しそうに笑う王に、周りに立っていた人達の表情が硬くなった。


 つまりこれって、なんとしてでも黒幕に結び付けさせるって言ってるんだよね?

 意外と強引な王に苦笑がもれる。


「約束はきちんと果たしました。報酬のお約束受け取れるのを楽しみにしています」

「ああ、楽しみに待っておけ」


 ジェスの身の保障を確認する私に王が応えた。

 どのくらい会えないのかわからないけど、これでジェスの身の安全は保障される。

 一生ここから出られず、今まで住んでいた場所には戻れなくなってしまったのは私のせいだ。

 それでもジェスには生きてほしい。


 早く文字を覚えてジェスに手紙を書こう。

 勝手にジェスの人生を決めてしまったことをちゃんと謝りたい。


 こうして私はこの城に住むことになった……。


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