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第32話

 王はアンリの演技を無視することにしたらしく、眉間に少しだけシワを寄せた状態で口を開く。


「とにかく、過剰な警備は必要ない」


 はっきりと言い切る王に、なんだかふつふつと奥から何か湧き上がってくるものがあった。

 そんな王にアンリが困ったように笑う。


「ささ、ワカナ。ビシッと言ってやって」


 アンリに嗾けられたわけじゃないけど、自分が王である自覚が薄いのか、自分を過大評価してるのか、とにかくあんな穴だらけの警備でいいと思っている王に何か言ってやりたくなった。

 王に言いたいことを言うなんて恐れ多いとか、色々あるのかもしれないけど、王が道を外れた時に正しき事を言う人がいることを彼は知るべきだと思う。


「過剰の何がいけないんでしょうか?」

「何?」

「自分の友人を心配するのは当たり前だし、自分の国の王様を心配するのも当たり前。そういう人にとって王の警備がどんなに過剰でも当たり前じゃないですか!」


 燃える様な赤い瞳に力がこもるのがわかる。

 でも、私の王はこの人じゃない。

 それなりの敬意は持つけれど、大切なのは誰かがこの人を心配しているということ。

 暗殺計画が失敗に終わることだ。


「貴方は自分の大切な人に危険が迫っているのに、その人に警備は簡単でいいって言われて、はい、そうですか。って答えるんですか? 国民の心配を減らすのも王の義務です! 少なくとも私の国ではそうです」

「……」


 私の剣幕にも王は驚いた様子は見せない。


「王である俺に意見するつもりか?」


 元々低い声がさらに低くなり、剣呑に光る瞳が細められる。

 普段の私ならここで何も言えなくなっていた。

 でも私は変わってしまったのだ。

 怖いことを感じる心が鈍くなっているのだと思う。

 王を怖いとは思わなかった。


「王がいつも正しいのですか? そうじゃないですよね? なら正しいことを知っているものが王に言うべきじゃないですか?」

「……」


 王がアンリに視線を向ける。

 アンリはその視線を受けて両手を降参のポーズのように挙げた。


「友達が怪我をするのは嫌だと思うし、君がどんなに強くても無敵じゃない限り僕は心配はする」

「……わかった。アンリにそこまで言わせるほどなら聞き入れよう。気が済むまで警備を強化することを許可する」


 王の言葉に、アンリが少しだけ安心したように笑う。

 そんなアンリの様子に、王の雰囲気が柔らかくなった。


「後で各隊長を集め、警備の見直しと強化を伝える。で、当日はお前が俺を守ってくれるんだな?」

「バルコニー全体をばっちり防御壁魔法で囲ってあげるよ」

「よかろう」


 満足そうに王が頷く。

 王もアンリが側にいると聞いて嬉しいのかもしれない。


「で、姫君を連れて来たのはダメ出しする為だけじゃないのだろう?」

「もちろん」


 アンリが私を王の前に押し出す。


「僕、彼女と約束したんだ。王の暗殺計画を阻止できたら、彼女の王子様の命を助けるって」

「何勝手に約束してる?」


 呆れたような王にアンリは肩を竦める。


「バドには専属王宮魔術師がいる。本当なら僕は表に出る気はなかったんだよ。それを彼女が諌めた。友達を助けるのは当前だろうってね。そして警備のことも僕達が過信し過ぎていることも指摘してきた。君の剣技に敵う者はほとんどいない。そのことに僕らは惑わされてしまった。守るべき対象がいかに強くとも、守るべき相手を僕達は守るべきなんだ。そんな簡単なことを彼女は教えてくれた」

「だから命乞いしてやるという約束を叶えてやれと? くだらん。お前が勝手に約束したことだ。俺は知らん」


 そう、アンリが勝手に言い出したことで私はこの王都まで来た。

 アンリが王の友達だから、王を助ければジェスを救ってくれるんじゃないかって思ったのだ。

 そんな約束は知らないと言われてしまえばそれまでなのに、そんな事すら考え付かなかった。


 ジェスを助けたいのに、私には特別な力もない。

 自分の無力さに息が詰まる。


「……女。あのエルフとは恋人同士ではないと言ってたな? では、なぜそここまでする?」


 俯いていた頭の方から王の声が聞こえ、私は顔を上げた。


「ジェスが私を命がけで助けてくれたからです。私の為に森を出て、私のせいで戦争に参加させられ、私のせいで死にそうになった。恩に報いるのは私にとって当たり前だからです」

「では、その者の為に命をかけると言うのだな?」

「本当に命を賭けられるのかはその時にならないとわかりません。でも想像する範囲で私は命を賭けられると思ったんです」

「……よかろう。では想像を現実にしてやる。お前の命を俺に差し出すのなら、等価として男の命は助けよう。ただし、男には俺に誓約させろ」

「バド……」

「アンリは黙れ」


 咎めるようなアンリに王の鋭い視線が向けられる。


 自分の命を等価として差し出す。

 ジェスは私の為に命を差し出してくれた。

 今度は私がジェスの為に命を差し出すのだ。


 王は背中に背負っていた大きな剣を簡単に引き抜く。


「首を切れば簡単に死ねる。やれば男の命は王の名において助けると約束しよう。アンリが証人だ」


 雄々しい腕に握られた剣が目の前で光っている。

 私は静かに目を閉じて自分に問う。


 ジェスの為に本当に命を差し出すことが出来るかと。


 私は目を開けると鋭利に光る刃を掴んだ……。


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