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第31話


 幼い時から王と友達だと言うだけあって、アンリは迷うことなく城内を歩いている。

 さらに行き交う人達はフードを脱いだ姿で歩くアンリに気にした様子はなく、時々、顔見知りらしい人とすれ違うと片手を軽く挙げてアンリに挨拶を交わすのを見かけた。


「ここの人達ってハイエルフのアンリの姿を見ても本当に驚かないんだね」

「言ったでしょ。小さい時から出入りしてるって。信じてなかった?」

「……信じてないってわけじゃなくて、実感がなかった?って感じ」


 私の言葉に横を歩くアンリが困ったように笑う。


「エルフとの交流が普通なのはリキシスぐらいだから仕方ないのかもね。ハイエルフ族ですら人間の王族と交流があるからかな? 自然と人間に好意的なエルフがリキシスに集まったんだよ。うちの一族は人間を自分達より劣った生き物だとは思ってないんだ。同じハイエルフ族でも意識の違いって言うのかな? 確かに容姿、魔力、知識など、そういったことで言えば人間はエルフに劣る。けれど、時に僕達が驚くようなことを人間はする。僕の一族はそういうところに興味をそそられるんだよ。たとえ劣っていようと、人間には学ぶべき何かがある。……って代々長が言ってる」


 エルフと繋がりの深い国。

 人間に育てられてあの森で1人で住んでいたジェスも、ここでなら1人になることはないんじゃないかな?

 まあ、問題は、ジェスが戦争に参加してリキシスの兵をたくさん殺してしまったことなんだけど。

 それがなければジェスはここで幸せになれたかもしれないのに……。

 バルト兵に捕まってしまったことが悔やまれてしまう。


 城内を奥へと進み、下に敷かれたジュータンの色が変わって、周りの装飾品も豪華っぽい廊下に入って少しすると、進行方向から上半身裸で、明らかに大きすぎる剣を背中に背負った筋肉むきむきの大柄の男性がこちらに歩いてくることに気づいた。


 金の髪はぼさぼさ。

 髭は伸び放題。

 惜しげもなく晒されている筋肉はすごく堅そうで、日に焼けた褐色の肌はジェスよりも濃い。

 大柄の体からはみ出ている剣の鞘を繋ぐベルトを斜め掛けにし、下は黒いズボンに編み上げのブーツを履いている。


 近づくにつれ、その人から目が離せなくなる。

 目をそらしてもまるで視線を吸い付けられるようにまた見てしまう。

 男の赤い瞳がひどく気になってつい見てしまうのは、まるでその瞳に魅入られたかのようだ。


「よう」


 大柄な体にふさわしい低い声が響く。

 男はアンリに向かって手を上げていた。

 アンリとは顔見知りのようだ。

 アンリは彼がこちらに近づいて来るのを待つように足を止めたので、私も立ち止まった。


「どこにいくんです?」


 呆れたような声音がアンリから聞こえる。


「ああ、ちょっと体を動かしにな」

「おや、それは残念だったね。貴方にお客さんですよ」

「客?」


 男はアンリの言葉を聞いてめんどくさそうな表情へと変わる。

 そんな男の様子を面白そうに見ていたアンリが横にいた私に振り向く。


「ワカナ、彼が僕の友人で、この国の王。バルドフェルド・リデ・プライズ・リキシス」

「え?」


 いかにも流れの傭兵みないなこの大きな男が王だと言われてもすぐには信じられなくて一瞬思考が止まってしまう。


「バド、彼女が例のハーフエルフの大切な姫君だよ」

「姫君? お前の従兄弟の恋人ってことか?」

「ええ」

「え?」


 ジェスの恋人かと聞かれ、アンリがあっさりと肯定したことに驚いてしまう。

 確かに出会ってすぐにプロポーズされたけど、ジェスの恋人なわけではない。


「ち、違います! 恋人じゃありません」

「あれ?」

「なんだ、ちゃんと確認してなかったのか?」

「お互い命をかけるほどだから、てっきりそうだと思って。違ってたなら良かった」


 アンリの大きな誤解に焦ってしまう。

 ジェスを助けたいのはジェスが私にそうしてくれたからで、それに暗殺計画の阻止には自分の命をかけてるわけでもないし。

 それに、まだ彼を思い出すだけで胸が痛くなる……。

 こんな状況じゃ、人を好きになるなんてことできるはずがない。


 ツキンと痛む胸が恋を拒絶する。


 私はその痛みを無視し、王と紹介された男を見た。


「で、その姫君が俺に何の用だ?」


 違うと否定したのに姫君のままであることに困惑してしまう。


「僕が仕入れたバドの暗殺計画情報について、彼女に警備のこととか色々と話したらダメ出しされちゃったよ」

「ダメ出し?」

「全然なってないってさ」


 はしょるとかそういう問題ではないアンリの言葉に慌ててしまう。


「どうダメなんだ?」

「城への出入りする人間の身分が口頭証明とか、バドを守る魔法がバドにしかかけられないこととか色々」

「ほう」


 王の視線が私に注がれ、視線が合う。

 話を聞いて関心したというより、ダメ出ししてきた事に関心したような声音だった。


「で、防御壁魔法をかけるのは僕が替わった方がいいみたいだから、替わろうかなぁ~って」

「そんな必要はないだろう。もともと防御壁がなくても俺には関係ない」

「いくらバドの剣技が優れていると言ってもバドも普通の人間だからね。それに自分の手で友達を守ることは当然じゃない?」


 アンリが軽く楽しげに言ったとたん、王の眉が寄せられた。


「アンリ、気持ち悪いこと言うな」

「気持ち悪いって……」


 ショック受けましたという表情をアンリは浮かべるが、その表情すら演技かかっていてうそ臭い。

 私がそう感じるくらいなのだから、当然王もそう感じているだろう。


 ちらりと王の顔を見れば、ひどく嫌そうな表情を浮けべていた。



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