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第30話

 私はよほど不安げな表情をしていたのだろう。

 アンリが苦笑する。


「わかった。明日は私物の持込は一切なしとお触れを出しておくよ。他に何か思いつく?」


 そう聞かれて必死に思考を巡らせる。

 明日、王の暗殺を必ず止めなければならない。


「うーん……。当日、王様を守るバリアー……。武器とか跳ね返す防御壁魔法をかけるの?」

「もちろんかけるよ」

「なら、どうやって王様を暗殺する気だったのかな?」


 王様は固いバリアーに守られている。

 武器なんて役に立たない。

 ならどうやって殺す?


 毒殺?

 事前に毒を飲まないと殺せないよね。


 やっぱり、魔法には魔法をぶつける?

 魔法なら武器を体内に隠し持っているようなもの。

 どんなに私物持込を禁止しても意味がない。


 そう考えると魔術師を実行者として送り込む?

 私なら、失敗や計画のことを考えて魔術師を複数送り込むな。


 魔法かぁ……。

 人がたくさんいる広場で何人も魔法を使ったら大騒ぎになりそうだよね。

 ああ、でも、王を殺すことが目的なのだから、どんな騒ぎになろうと誰が巻き添えになろうと関係ないか……。

 実行者も計画を実行した後城から出られなくても自害してしまえばいい。

 それなら黒幕もわからないままだし……。


「式典に参加できるのは関係者のみって言ってたけど、どんな人が参加するの?」

「この国で官を得ている者、兵士、この国に関係する重要人。……一部、バルト国の官もいるよ」

「その身分証明はどうやるの?」

「口頭だ」

「……」


 その言葉に頭が痛くなる。

 口頭ならいくらでも身分が偽れるじゃない。

 これじゃ、暗殺者にどうぞ入ってくださいって言っているようなものだ。


「王を守る防御壁魔法をかける人ってアンリ?」

「いや、僕じゃない.。でも優秀な魔術師だよ」

「魔法は……魔法をかけている魔術師が死んだら消えちゃうんだよね?」

「そうだね」


 『束縛の王冠』が外れたのは術者が死んだから。

 なら王を守るバリアーを作っている人を殺せば、王の壁は消える。


「魔法をかけている人は誰が守るの?」

「護衛がいるよ」

「魔法をかけている人は防御壁の中に入らないの?」

「範囲を広げると精度や強度が下がるからね。基本的に防御壁魔法に守られてるのは王だけだ」


 私が暗殺者なら術者を狙う。

 そして防御壁が消えた時点で王を狙えばいい。


 どんなに優秀な魔術師でも数には勝てない。

 なら複数の暗殺者を送り込めばいいのだ。

 1人が失敗しても次から次へと計画が成功する確立をあげる為、たくさんの駒を用意しておく。


「……防御壁魔法をかけるの、アンリがやれない?」

「なぜ?」


 魔法の仕組みなどはジェスから聞いている。

 それに人間の魔術師がどんなに能力が高くても高位のハイエルフやダークエルフの魔力の高さには太刀打ちできない。


 バリアーには強度。

 それに精度も重要だって聞いた。

 バリアーの精度が高ければ高いほど、その透明度は増す。

 つまり、バリアーの存在がわかりずらくなるということ。

 襲われた時、ジェスが私にバリアーを張ってくれたことも気づかなかったのはジェスのかけた魔法の精度が高かった証拠だ。


 そして、範囲。

 アンリなら精度が高く強度のあるバリアーをこのバルコニー全体に張れるだろう。


「アンリなら自分も一緒に防御壁魔法の中に入れるよね?」

「まあ……」


 私の言いたいことがアンリにも伝わったらしい。

 少し困ったように微笑まれる。


「……王には優秀な魔術師がついてるってさっき言ったよね?」

「それでも、どんな優秀な魔術師もハイエルフには叶わないんでしょ?」

「僕は王宮所属の魔術師でもないし、僕達ハイエルフは人間の政に関わらないのが普通なんだよ」

「でも、ここの王様はアンリの友達だって言ってたじゃない? 友達を守るのに所属や種族が関係あるの?」

「……」


 私の言った言葉はアンリの言葉を詰まらせたようだった。


「何が一番大切なの? プライド? 仕来たり? ルール? そんなことで友達が殺されてもいいの? それに王が殺されたらこの国はどうなっちゃうの?」

「……わかった。王と話してみるよ。友達には怪我をしてほしくないしね」


 少しだけ優しい笑顔を浮かべる。

 いくら魔力が強くても人間ではないアンリが王を守るということは簡単なことじゃないのかもしれない。

 友達としての好意でも悪意のある目でしか見ない人もいる。

 相手は王だ。

 アンリの行動を権力に取り入ろうとしていると思う人もいるかもしれない。

 王族なんて身近にはいないから、あくまで私の想像だけどね。


「話を聞いている限りじゃ、穴だらけの警備方法だよね。式典は明日だからしょうがないけど、早いうちに身分を証明する何かしらのシステムを作った方がいいんじゃないかな? これじゃ暗殺者が入り放題でしょ」


 この状況で今までよく王が殺されなかったものだと思う。

 まあ、護衛がついていると言うし、何とかなっていたのかな?


「……ねえ、ワカナ、王に会ってみるかい?」

「え?」


 考え事していたせいもあるけど、一瞬言われた言葉を理解出来なかった。

 なんかアンリが王に会わないかって言ったような気がする。


「君が王に今の話を直接話してみたら? うちの王は危機感がないみたいだしね」


 にっこり嬉しそうなアンリが腹黒に見える。

 まあ、私の国の王様じゃないし、言っていいなら言わせてもらおうじゃないの。


「そうだね。警護についてちゃんと理解してもらわないとね」


 そういってアンリに向かってにっこり笑い返してやったんだけど、この時のことを、私は王にあって後悔してしまうのだった。


 バルト国王みたいな人なのかと思って覚悟したのに、リキシス国王があんな人だったなんて!

 アンリが気軽に友達って言うわけだ。


 リキシス国王。

 バルドフェルド・リデ・プライズ・リキシス。

 29歳、独身。


 熊と鷹のような人でした。


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