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第3話

 ジェスは強引だけど私が待ってって言えば、ちゃんと待ってくれる。

 けして無理強いすることはない。

 そういうのは好感が持てた。


 とりあえず、目が覚めてすぐにありえない事態のおかげで異世界にいることには混乱しなくて済んだ。

 思考はちゃんとしているので、もう一度情報を整理した。


 必死にふわふわとしている記憶を堀り起こす。

 私は昨日何してた?


 昨日は就活で大学に行って、夜はエントリーシート書いて……、それで寝たんだよね?

 で、目が覚めたらバルト国にあるハーネスクイーンズ平原にいた。

 それは誰かにここへ召還されたせいで、還るには召還した者に還してもらえばいいんだけど、その召還した人が誰かわからない。

 しかも探す方法もない……と。


 召還された私を見つけてくれたのはエルフ族のジェスで、なんでだか私を妻にしたがってる。

 でも私は元の世界に還りたいので妻にはなれない。


 大きな問題はそれだけじゃない。

 召還した者を探すにしても私はこの身1つ。

 お金も住む場所もない。

 衣食住がないのだ。

 自分勝手な都合で言うなら、妻にはなれないけどジェスに助けてもらいたい。


 さて、どうしたものかな……。


 私が悩んでいる間、ジェスは目の前で座ったまま大人しく私を見ていた。

 青空をバックに、輝く銀髪が草と同じように揺れている。

 めちゃくちゃ幻想的で美しい。


 ちゃんと見れば、肌蹴た服の間から見える筋肉だけではなく、シャープさを感じる骨格や広めな肩幅など、女性として見るには少しだけ無理のある体系をしていた。

 冷静に見れば超美人な男性かな?って疑問に思うくらいだった。


「ね、ジェスさん」

「はい。何でしょう?」

「身寄りのない者が身をよせるような所ってここにあります?」


 とにかくこの世界での生活基盤を作らなければならないだろう。


 私を召還した者を探すにしても、どれだけ時間がかかるのかわからない。

 また、探す方法が本当にないのか調べてみたいし。

 それには行動の中心となる場所が欲しい。


「少し大きな街に行けば、孤児収容施設のようなものがありますが……」

「大人は入れない?」

「……いいえ、大人でも入れます」


 大人でも入れると言うジェスの言葉に希望が湧いてくる。

 良かった。

 いきなり見知らぬ場所に放り出されて何とかしろって言われてもさすがに厳しい。

 とりあえず衣食住の保障だけでも確保できるのは大きかった。


「すみませんが、私をそこへ連れて行ってもらえませんか?」

「嫌です」


 見えてきた希望に嬉しさがこみ上げる私に、ジェスは首を振って速攻断った。


 な、なんで嫌?

 そこへ連れて行くのが嫌だとか?


「ど、どうしてです?」

「そんな所へ行かなくても、私の妻になればいいじゃありませんか」

「それは……」


 そう言えば妻になって欲しいと言われていたことを思い出す。


 気持ちは嬉しいけど、いきなり妻になって欲しいと言われても……。

 それに自分の世界に還りたいし……。


「私がダークエルフだから嫌なのですか?」

「種族が違うからとかじゃないんです。やっぱり元の世界に還りたいから……」

「……そうですか」


 私の言葉にジェスは一瞬だけ悲しそうな表情を浮かべた。


「わかりました。では、一番近い街にある孤児収容施設まで送りますよ」


 意外とあっさり申し出てくれて驚く反面、やっぱり嬉しくなってしまう。

 お礼を言うと、ジェスは立ち上がって左手を差し出してきた。


「いきなり今日これから出発することは出来ないので、とりあえず私の家に来てください」


 ジェスの家に誘われ、むくむくと警戒心が湧き上がってくる。

 男の家に連れ込まれ、美味しくいただかれてしまうということはままあることだ。

 警戒してしまうのは仕方のないことだろう。


 そんな私に気づいたのか、ジェスは手を差し出したまま少しだけ困ったように苦笑する。

 超美人さんはどんな表情も美しいと創作なんかで読んだけど、本当に美しくて様になるなぁ。


「貴女の嫌がるようなことはけしてしないと、女神インフリーリアに誓いますよ」


 女神インフリーリアというのが誰なのかはわからないけど、神様に誓ってってヤツだってことはわかったので、私はジェスの差し出されている手を取った。


 引っ張られて立ち上がると、ジェスの顔が少しだけ見上げるほど高いことに気づく。

 180センチはゆうに超えているだろう。


 髪もすごく長い。

 膝裏までさらさらとした髪が揺れている。

 思わずため息が出てしまうほど完璧な美だった。


 見とれていた私にジェスの手が伸びてきて、私は過剰反応してしまい飛び上がって驚いてしまった。

 そんな私にジェスは少し困ったように微笑む。


「服を直そうと思っただけです」

「あ、ご、ごめんなさい」


 そう謝るとジェスは首を振って私のブラウスのボタンを丁寧にとめ、服のシワを伸ばすついでに付いていた草なんかを払ってくれた。

 最後に手櫛で髪を整えてくれるとにっこりと微笑む。


「綺麗になりました」

「ありがとう……」

「いいえ、こっちですよ」


 手をジェスに握られ、引っ張られる。

 家に案内してくれるらしい。

 歩きながらすぐ横にいるジェスをもう1度見る。


 ジェスは今まで純粋な好意しか示していない。

 それが私を酷く戸惑わせる。


 私は元の世界で裏切られてばかりいた。

 恋人も家族ですら……。


 当然、出会ったばかりのジェスの好意も信じることが出来ない。

 もちろんジェス以外の人も同じだ。

 誰も信じられないなら、誰でも一緒だ。

 ジェスが裏切りを見せるまで利用すればいい。


 そんなことを考えながら私はジェスと一緒に歩いた……。



(2011/10/13修正)

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