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第25話

 いきなり兵に捕まった私は、腕を後ろにねじ上げられ身動きが出来ない。


 ジェスの足音が近づいて来る。


 察しのいいジェスはすぐに私の異変に気づいたようだった。

 敵が何人いるのかわからない状況で私の所へと来ても、事態は悪くなるとしか思えない。

 それでも、ジェスが私の所にくることは判っていた。


 ジェスはそういう人なのだと、今まで一緒にいて十分わかったから。


 首に当てられている鋭利な刃を意識しながら、それでも一瞬迷う。

 これ以上ジェスを苦しめたくないと思っていても、ジェスは必ず私を助けようとする。


 私が余計なことをして、その煽りをジェスが被ることになるのかもしれないと思うと体が動かなくなった。


 まだ回復していないのに!

 私のせいで人殺までさせた。

 もうこれ以上ジェスを傷つけたくはない……。


 胸の奥の苦しさに、視界が滲む。


 私が泣いても意味なんかない。

 傷つけられるのはいつもジェスだ。


 私の目の前でジェスはいきなり横から飛んできた鎖に体を巻かれ、横に引き倒される。


「やめて! まだ怪我してるの!」


 苦しそうな声を漏らし倒れているジェスを見て、とっさに声が出た。


 また1人横から男が出てきて、手に持っていたらしいランプに火をつければ、その姿が浮かび上がる。


 年齢はジェスより少し上くらいだろうか?

 白磁の肌。

 金の瞳と髪。

 尖った耳。

 そして美しい容姿……。

 その姿は私の良く知っている姿に重なる。


 ジェスから話に聞く、ハイエルフ。


 男はジェスに近づくと、前髪を掴んで無理に顔を上げさせた。


「……やっぱり生きてたか。ウルベルム、こっちだ!」


 男が大きな声を上げてしばらくすると、草の触れ合う音が聞こえ、誰かが近づいて来る。

 きっとそれはさっき呼ばれたウルベルムと言う人に違いない。


 すぐに近くの木の陰から人が出てくる。

 その人はジェスに触れている人にそっくりだった。

 兄弟なのかもしれない。


「いたのか」

「うん」

「見つけたのはいいが、これからどうするんだ。アンリ?」


 この二人の会話からジェスのことを探していたことがわかり、恐怖がわきあがる。

 ジェスは無理に顔を上げさせられているのに動かなかった。

 すでに意識を失っているのかもしれない。


「どうって……うわっ! こいつすごい熱だよ」


 アンリと呼ばれた男の手は、ジェスの首に触れている。

 それでジェスの熱が高いことがわかったらしい。


「ジェスに触れないで!」


 意識のないジェスを守るのは私しかいない。

 これ以上ジェスを傷つけたくないという気持ちが私を強くしてくれた。


 アンリという男が私の声に顔を向ける。


「ジェスは私を守る為に脅されて無理やり戦争に参加させられてたんです! 憎むならあの王であってジェスは被害者なんです!」


 私の言葉にウルベルムが近づいて来る。


「脅されていても選んだのは彼だ。被害者は彼ではなく、彼に殺された者達ではないのか?」

「いいえ、違う! 例え選んだとしてもそれ以外に道がなかったのなら、間違いなくジェスも被害者です」


 暗闇の中、ランプに灯る光が私を照らす。

 逆光で彼の表情は伺えない。

 それでも真っ直ぐ向けられる彼の瞳を感じる。

 それを受け止めた。


「ウルベルム。時間がない。さっさと戻ろう」


 アンリがウルベルムを呼ぶ。

 何か言いかけたものの、ウルベルムは結局口を閉ざした。

 しかし、その手がゆっくりと私に伸ばされる。

 何をされるかわらない恐怖はあったが、今の私にはジェスを守ろうとする気持ちが強く、それが恐怖に打ち勝つ。


 視線をそらさず彼を見ていると、ぱちぱちと小さな音とともに光に包まれ伸ばされた手が途中で止まる。


「ちっ! あいつ!」


 腹立たしげに舌打ちをし、ウルベルムは私に背を向けると素早くジェスに近づき、肩に手をかけ服を掴んでジェスを持ち上げた。


「そんな状態のくせに死にたいのか! 今すぐ魔法を解け!」

「何? どうしたのさ?」


 突然起こしたウルベルムの行動に、横にいるアンリも不思議そうな顔でウルベルムを見ている。


「コイツ、女にシールドの魔法をかけてやがる!」

「な……」


 その言葉にアンリが驚く。


「ちょ……、精霊と契約していないくせにこの状況で魔法を使ってるの? こいつ」

「ああ」

「よほどこの女が大切なんだろうさ! おい! 女には手をださんと約束してやるから、今すぐ魔法を解除しろ! もしお前が死んだら、この女が一生苦しむように奴隷場に連れていくからな!」


 奴隷場というのがどんな場所かはわからないけど、言葉の端から酷い場所なのは伺える。

 そのせいか、ジェスはすぐに魔法を解いたようだ。


 何時の間に私に魔法を張っていてくれたんだろうか?


 必死に私を守ろうとするジェスに胸が痛む。

 いつだってジェスは私を守ろうとする。


 そうしてジェスはそこまでしてくれるのだろうか?


「コイツと女を連れて行け」


 ウルベルムの命令に、近くにいたらしい大柄の男が鎖に巻かれたままのジェスを担いだ。

 そして私に刃を向けている男は刃物を下げると私の体を押して前に進むように促した。


 押されるまま、私もジェスを担ぐ男の後ろをついていく。


 彼らのつけている鎧は、リキシス軍のものだ。

 敵に捕まった私達はどこへ連れて行かれるのだろうか……。


 不安に思いつつも、私は歩みを進めていくのだった。


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