第23話(ジェス視点)
陽が暮れる頃、今日の戦闘が終わった。
何人かの兵は残ったが、殆どの兵が拠点地に戻る。
まだふらふらになる体をなんとか動かし、若菜のいるテントを通り過ぎて貯水所に行った。
すでに何人かの兵士が体を洗っている。
とりあえず兵士がいなくなるまで待ってから服を脱ぐ。
軽傷ではあるものの、体には無数の火傷と裂傷があった。
このままにしておけないので、癒しの魔法を自分にかける。
魔法のおかげで傷はふさがったが、疲労で重い体がもっと重くなった。
重い体を手で支え、水で体を洗う。
水は少し冷たいが、それが火照った体には気持ちがいい。
「ふう……」
濡れたまま木の柵に腰を下ろせば、一気に疲労感が襲ってくる。
ここから逃げたい。
それには若菜につけられた『束縛の王冠』を外さなければならない。
一番手っ取り早いのは法術をかけた者を見つけ出して殺すことだ。
術者を殺せばかけた魔法も消える。
だが、王のそばにいる魔術師が何人いて、誰が魔法をかけたのかわからなければどうすることも出来ない。
今は調べられるようになるまで待つしかないのだろう。
それが歯がゆい……。
夜が明ける頃、目が醒めた。
いつの間にか眠ってしまったらしい。
横を見ると、隣のベッドで若菜が静かに寝ている。
昨夜は、戻って来るのが遅くなったせいで心配した若菜に抱きつかれ、あれこれと世話を焼かれた。
久しぶりに人から心配をされ、それが少し恥ずかしい。
若菜に心配されたことが嬉しいと感じた。
若菜を起こさないように注意しながら身支度をはじめる。
戦争はどちらかが降参するか、逃げ場がなくなるほど破壊尽さなければ終わらない。
国内に侵入されるほど戦況はこちらが悪かった。
昨日のように勝ち続けたとしても、状況が反転するまでかなりの時間がかかるはずだ。
戦場に立ち、あることに気づく。
今日は戦場に出ている魔術師が昨日に比べて少ない。
なので、昨日は力を攻撃と防御に別けていたが、今日は防御壁を張るのをやめることにした。
剣による直接攻撃なら護衛してる兵が対応する。
俺は、攻撃と飛んでくる弓と魔法の対処に集中することにした……。
戦況はかなりすさまじい。
戦場にいる魔術師は少なくても少数新鋭部隊なのか、やたらと攻撃が届き炎の魔法攻撃が俺に集中する。
今日は防御壁を張っていない為、魔法に魔法をぶつけ力技で散らす。
その合間に攻撃を打ち込む。
防御に魔法を割かなくてすむおかげで、威力が大きく、攻撃範囲の広い攻撃魔法を打ち続け、ずいぶんリキシス軍
を下がらせた。
だが、魔力も無限に湧くものではない。
力を使い果たし、昨日のように後方へ下がった。
そういえば、昨日から何も口にしていない。
水分だけはしっかり飲むが、今は咀嚼する気力もなく食欲も湧かなかった。
4日目。
護衛が倒され、防御の一角が崩れた。
そこから数人の兵士が俺のそばに近寄り、すぐに魔法で撃退したが俺は肩のところを切られてしまった。
癒しの魔法をかける力はもうない。
魔法で治すには深すぎて後方に下がると、戦場にいた医者が治療してくれた。
傷は明日、戦場に行く前に魔法をかけるしかないだろう。
そう思ってふらふらとテントに戻ったのがいけなかった。
怪我を若菜に気づかれたのだ。
若菜は罪悪感に苛まれ、束縛の王冠を外し、俺を自由にしようとまで思いつめさせてしまった。
だが、若菜がずっと心に溜め込んでいた想いを吐き出させることが出来た。
愛する者に裏切られた若菜の心の傷は、若菜らしさを損なわせている。
その傷が深いゆえに触れることも出来ず、ずっと気になっていた。
愛する気持ちが深いほど傷が深いもの。
若菜は裏切られただけではなく、利用されたことにずっと苦しんできた。
人を信じたいと思う半面、人を信じることが出来ず。
また信じた人に裏切られ、利用されることに怯えている。
しかし、自分から話せたのなら、いい傾向だ。
心に傷跡が残ったとしても、傷が治らずいつまでも痛むよりかはずっといい。
全てを吐き出し泣き疲れてしまった若菜は、疲れて俺のベッドで眠ってしまった。
起こしたくはなかったし、ベッドに戻してあげられる体力もなかったこともあり、それを理由に若菜を腕の中に抱き込み
抱きしめる。
深く傷ついた若菜・・・、相手が自分じゃなくても若菜にまた誰かを愛せるようにしてやりたい。
起こしてしまわないように注意しながら涙の跡が残る頬にそっと触れる。
俺が若菜に愛されなくてもいい。
でも俺が若菜の心の傷を必ず癒してみせる。