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第2話

 目の前にいる超美人さんをまじまじと観察してしまう。

 どこから見ても超美人。

 とても男性だとは信じられない。


 嘘だ!

 詐欺だ!

 こんなに美人なのに男?

 もったいなさ過ぎる!


 しかし、肌蹴た胸はなく、細い体には無駄のない筋肉でコーティングされている。

 しかも下半身のズボンは変な風に盛り上がっていて、私は襲われかけていた。


「お、男……」

「ええ、私が男でなければ貴女を妻に出来ないでしょう?」


 何か信じられないようなことをさらっと聞かされたような気がする。


「え? つ、妻?」

「そうです。今貴女を妻にしようとしているじゃなですか」

「は?」


 超美人さんは微笑んで私のショーツに手をかけてきた。


「いやいや、ちょ、ちょっと待った!」

「どうしました?」


 私の言葉に手がぴたりと止まる。

 意外と紳士なのか、素直な人だ。


 上半身を起こして急いで広げられたブラウスをかき合わせた。


「えっと……ちょっと確認させてもらいますね? まず、貴方は男なんですよね?」

「ええ」

「……えっと、それから……私を奥さんにしたい?」

「そうです」


 そこまで聞いて超美人さんが体を倒して寄ってきたので、慌てて目の前に手を上げて静止のサインを送る。


「ま、まだです。まだ!」

「……わかりました」


 制止した私をそんな残念そうに見ないで欲しい。


 な、何だか、危機感を感じるのはなぜ?

 あ、いや、食べられそうになってたんだから、危なかったことには変わりないんだった。


 私は手をそのままにもう一度辺りを見回す。


「えっとここはいったいどこなんでしょうか?」

「ここですか? ここはハーネスクイーンズ平原です」

「はーねすくいーんず平原?」

「バルト国東南、フメクスティア村を北に少し行った場所ですね」

「……うう、よくわかんないや」


 とにかく私はバルト国にあるハーネスクイーンズ平原にいるのね。


「どうして私、こんなところにいるんだろ?」

「誰かに召還されたからでしょう」


 聞いたことある単語に俯きぎみだった顔を上げる。


 召還。

 ファンタジーものの物語なんかでよく聞く単語だ。

 私の知っている召還だと、意味は1つしか知らない。


「召還?」

「虹の光が見えましたから、間違いないと思いますよ」

「誰かって言いましたよね。誰に召還されたんでしょうか?」

「……さあ?」


 あっさり言われて一気に脱力する。


「どうしたら還れるんでしょうか? もしかして……還れない……とか?」


 一番聞いてみたくて、一番怖い質問をしてみる。

 ビクビクしている私を超美人さんは静かに見つめていた。


「いいえ、召還した者なら還せますよ」

「そ、そうなの? なんだ……。良かったぁ」


 還れると聞いて安心してしまう。

 こういう物語でよくあるのは還れません……だもんね。


「じゃあ、私を召還した人ってどこにいるんですかね?」

「私にはわかりませんね」

「え? あれ? 私を召還した人じゃないと還せないんですよね?」

「はい」

「……その召還した人がどこにいるのかわからない?」

「そうですね」

「……ちなみに見つける方法なんてものは」

「ないですね」


 一刀両断。

 袈裟懸けに斬られて、私はがっくりとうな垂れる。

 つまり私を召還した者を探さないと元の世界には還れないってことだ。


「別に問題はないでしょう」

「問題ありますよ! おお有りでしょう。還れなかったら困ります」

「なぜ?」

「なぜって、逆にこっちが聞きたいよ。もー」


 言葉が通じない。

 いや、ちゃんと言葉は通じてるんだけど、会話が通じないと言うべきか。


「貴女は私の妻になるのですから、還れなくても別に問題はないでしょう?」

「は?」


 言われた言葉に気づいて、そう言えばさっきもそんなこと言われたことを思い出す。


「なんで妻?」

「そう決めたからです」

「いやいや、意味わかんないですから!」


 知らない世界にいて、いきなり妻にするって言われて、はいそうですかって言えるもんか。

 意味が本当にわかんない人だ。

 超美人なのに……。


「だいたい、そんなこといつ決めたんですか」


 半分やけっぱち。

 半分八つ当たりに近い気持ちで聞いてみる。


 そんな質問にも超美人さんはさらりと答えてくれた。


「私、この近くに住まいをもっているんです。用事でここを通ったら召還の光が見えて近づいて見れば貴女がいたというわけです」

「それで?」

「見たら可愛かったので妻にしようと決めました」


 まるで今日の夕飯のおかずを決めたみたいに妻に決めたと言われてる気分だ。

 しかもさらっと私のことを可愛いと言ってくれたけど、私はごくごく平凡な凡人顔。

 ここまでの美人に言われると逆に恐縮してしまう。


「決めたって……私はこの世界の人間じゃないんですよ? それに……」


 言いかけた途中で口を閉じる。

 ちらりと超美人さんの耳を見てしまった。


 これが王道なファンタジーなら超美人さんはエルフってことになる。


「それに?」

「種族が違うんじゃ……」


 確信が持てなくてだんだんと声が小さくなってしまう。


「ああ、そうですね。私は見ての通りエルフ族ですけれど、貴女と交配するのに問題ありませんよ」

「こ、交配……」


 あけすけな言葉に硬直してしまう。


 えっちじゃなくて交配になるのかぁー。

 意味は一緒でもちょっと嫌だなそれは。


「エルフと人間との間に生まれたハーフエルフがいます」

「もしかして貴方がハーフエルフ?」


 聞いてみると、超美人さんは少しだけ瞳の奥を翳らせた。

 もしかして聞いてほしくなかった質問だったのだろうか?


「この褐色の肌とこの髪を見ればわかるように、私はハイエルフとダークエルフのハーフになります」


 聞いたことはあるものの意味がわからない言葉だったが、超美人さんの様子からこの話は掘り下げることはやめることにした。

 もっと基本的な質問をすることにする。


「えっと、妻になるかどうかはちょっと置いておいて、名前、教えてもらってもかまいませんか?」

「名前……。私はジェスディラッド・リンディールです」


 教えてもらった名前はちょっと言いずらい名前だ。

 そんな私に気づいたのか超美人さんが微笑む。


「ジェスって呼んでください」

「あ、はい。私の名前は響 若菜です。こっち風で言うと、ワカナ・ヒビキになるのかな?」

「ワカナ……。名前も可愛らしい……」


 まあ、確かに名前は私も可愛いと思うけどね。


「ワカナ……」


 なんだか甘く名前を呼ばれ、ジェスが近づいてくる。


「ま、まだ、ストープ!」


 慌てて手で近寄れないようにブロックすると、ジェスはがっかりしたような顔で体を引く。


 この人、なんでこんなにえっちする気マンマン?

 これだけの超美人さんなら相手は選り取り見取りでしょうが。

 なんで私に迫ってくるの?


「何で迫ってくるんですか」

「交配したいから」

「こ……」


 ストレートすぎるお言葉。

 変に気が抜ける。


「何か……交配って言い方嫌です」

「嫌? じゃあ何て言えばいいのでしょう?」

「……えっちで」

「えっち?」


 聞かれてコクコクと頷く。

 こんな美人に繰り返されると何だかこっちが恥ずかしくなってしまう。

 なんでこんなくだらないことを私は相手に言ってるんだろうか?


「では、えっちしましょう」


 言っている言葉が不釣合いなほど優しい微笑むが向けられる。


 その顔で誘わないで欲しい。

 うっかりうんって頷いてしまいそうで怖いよ。


「だ、だめです」

「……私が嫌ですか?」


 すんごく悲しそうな顔になるジェスに困ってしまう。


 そんなに悲しい顔するのはやめて欲しい。

 胸がズキズキしてしまう。


「嫌とかじゃなくて、私の世界じゃ、えっちはしばらくお付き合いしてお互いのことが分かり合えたら両方が同意してからえっちするものなんです」

「……それはつまり文化の違いですか?」

「そうなんです!」


 ちょっと違うけれど、もう面倒くさくなってしまったのでそのままにしてしまう。


「そのお付き合いとはどれくらいするものなのですか?」

「え? うーん、個人差だろうけど……」


 考えている間、いつの間にかジェスがすぐ側まで近づいてきていた。


「どうせ妻になるのですから、そんなことは飛ばしてしまいましょう?」


 そう言って私のブラウスに手をかける。


「いやいや、だめ、だめです! だいたいなんで妻になることが決まってるんですか!」

「私がそう決めたからです」


 服をむしり取られそうになって慌てて這いずって逃げる。

 まったくもって意味のわからない理論を述べられても納得なんてできるわけがない。

 こんな超美人な旦那さんなんか嫌だよ。


「お互いのことよく知り合ってから夫婦になるか決めましょう! ね?」


 その場の言い逃れのようなものだったけれど、ジェスは服にかけていた手を止めてくれた。


「……他の男を見たりしないって約束できますか?」

「する、する!」

「わかりました」


 そう約束をするとジェスは素直に身を引いてくれた。



(2011/10/13修正)

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