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第13話

 目が醒めると視界がにじんでいた。

 何度か瞬きしてみたけれど、まったく視界がクリアーにならない。


 いったいどうしたのかと記憶を探り、自分が毒のついたナイフで斬られ気絶したことを思い出した。


「私……」

「あ、目が醒めましたか?」


 ジェスではない声が聞こえて怖くなる。


「誰?」


 クリアーにならない視界を向けると白い服を着ているらしい男の人がすぐ横にいた。


「私は医師のフレッド・オリヴァと申します。頭痛や吐き気などはありませんか?」

「お医者さん?」

「はい」


 医者と聞いて少しだけほっとする。

 少しだけ警戒しながら辺りを見回してみるが、他に人影はなかった。


「あの……ジェスは?」

「ああ、お連れの人ですね。もうすぐ戻られますよ」


 その言葉を聞いて、体の力がゆっくりと抜ける。

 今はちょっとだけ離れていて、戻って来てくれると聞いただけで安心した。


「それで頭痛と吐き気は?」

「あ、ないです。ただ、視界が何かぼやけててよく見えなくて……」

「熱がかなり出ましたし、まだ体内に残った毒が中和されていないせいですね。問題はありません。明日くらいには良くなりますよ」


 少しだけ体を起こされ、何かを手渡される。


「薬です。念の為にもう1回中和薬を飲んでおきましょう」


 水をもらって粉の薬を飲む。

 すごく苦い……。


「ちょっと待ってくださいね」


 そう言ってフレッドは少し私から離れて、すぐに戻って来た。


「見張りがいないようなので、静かに聞いていてください。解毒剤を飲ませる為に貴女は町の近くの野営テントに連れてこられました。貴女の連れの方は貴女の命を盾に町のを守る為の協力を余儀なくされたようです。最初はグレッグ隊長も約束を守るつもりだったんだと思います。ですが、運悪く彼のフードが外れてしまって……。彼の姿を見たグレッグ隊長は王にそのことを報告しました。彼と貴女を王のいる拠点テントまで連れて来て彼を王に会わせたのです。当然貴女の命を盾にされ彼は王の物になりました」

「え?」

「貴女の頭にある頭飾りには魔法がかかっていまして、無理にそれを外そうとしたり、王の命令に背いたりすればその輪が魔法で縮まり、貴女の頭は……」


 そこまで言われて慌てて頭を確認する。

 確かに頭には何か輪のようなものがはめられていた。


「やだ。何これ? 無理に外しちゃだめって外せないんですか?」

「ええ、魔法をかけた魔術師が魔法を解くか、またはその者が死ねば外せますがそれ以外では外せない禁呪の魔法なのです」

「そんな……」

「彼が逃げたり、王の命令に従わない場合、貴女は殺されるでしょう」

「……」


 言われた言葉に理解力がついていかない。

 私が死ぬ?


「何でそんなことに?」

「彼はハイエルフとダークエルフの力を継いだ稀なる存在なのです。その上あの美しだ。彼を見れば誰だって彼の中の強大な魔力がわかる」

「見ただけでわかるものなんですか?」

「え? ええ。あのように美しいんですよ? 誰だって彼の力はわかる」

「えっと……美しいと力が強い……んですか?」

「当然です。彼はエルフ族ですよ。外見と力の大きさは比例しますからね。美しければ美しいほど力がある証です」


 ジェスの容姿がそういうことを表すのだと聞いて驚いてしまう。


 力の大きさと美しさが比例する?

 じゃあ、ジェスの魔力はすごいってこと?


「彼1人いれば魔術師50人……いいえ、多分80人いるようなものだ。魔術師が少なくて押されている我が軍に彼がいれば戦争に勝てる……」

「そんな……」

「まさに生きる至宝です」


 ジェスが以前、自分は至宝だから森から出てはいけないのだと言っていたことを思い出す。

 旅をしている時も、ひたすら容姿を隠していたのは自分の姿を見られたくなかったからだ。


 それなのに私は自分の都合でジェスを森から出し、自分の容姿について言うジェスの言葉をナルシストだと思っていた。

 ジェスの容姿は鑑賞用などで楽しむ程度の危険しかないと思っていたのだ。


「うぐっ!」


 いきなり吐き気がして慌てて口を押さえる。


「大丈夫ですか? もう薬を飲んだのですから横になっていてください」

「私……何も知らなかった……」


 体ががたがたと震えだす。

 フレッドさんはジェスが王の物になったと言っていた。

 それはつまり、ジェスは戦争に利用されるということだ。


「どうしよう……」


 震えが止まらない。


 ジェスは私の命を盾に取られて言うことを聞くと……。

 私の存在がジェスに人殺しをさせる。


「ごめんなさい。……ごめん……ごめんなさい、ジェス……」

「落ち着いてください」


 ジェスを自由にしてあげたくても自分が死ぬことは出来ない。

 ジェスは私の為にたくさんのことをしてくれたのに、自ら死ぬのは怖いのだ。


「ワカナ?」


 布擦れの音がしたかと思うと、聞き覚えのある声が聞こえた。


「ジェス?」

「どうしたんです? 何かされたのですか!」


 音もなく素早くフレッドさんに近づく。

 それだけはかすむ視界でもわかる。


「ちがっ……ぐっ!」


 フレッドさんの苦しそうな声が聞こえて慌てた。


「ジェス? 何してるの? 私は何もされてないよ?」


 慌てて起き上がって手を伸ばすけれど、かすんでいる視界では遠近感もわからない。

 伸ばした手をさ迷わせているとジェスがその手を握ってくれた。


「もしかして目が見えてないんですか?」

「一過性なものです。まだ毒が中和されていないせいで目がかすんでいるだけですよ。今薬を飲ませたので明日か明後日には直ります」


 フレッドさんは少し苦しそうな声のままで、ちゃんとジェスに私の説明をしてくれた。


「大丈夫ですか? 気分は?」


 優しく手を握るジェスの表情はぼやけてわからないけれど、常に着ていたフードマントはつけていなかった。

 あんなに暑がっていても脱がなかったのに、やっぱり姿を見られたから脱いだのだろう。


「ごめんなさい……」

「急に謝ったりしてどうしたんです?」

「私のせいで王様の命令を聞かなくちゃいけないんでしょ?」

「……」


 後ろにいたフレッドさんに振り向いたのだろう。

 怯えたような小さな悲鳴が聞こえた。


 私はジェスの意識を戻す為に、握られた手を引く。


「フレッドさんを責めないで」

「私はそんなこと聞かせたくなかった……」

「でも私は事実を知れて良かったって思ってる」


 私はジェスの手をもう一度引き自分の体を少しだけ前にしてジェスにキスした。

 視界がかすんでいるせいでキスは唇から少しだけ横にずれてしまったけれど……。


「ごめんなさいとしか言えなくてごめんなさい。ジェスに返せるものが私にはなくて、ごめんなさい……」

「ワカナ……」


 掴まれていた手を持ち上げられ、手の甲にジェスがキスした。


「ワカナは何も気にすることはありません。それにここで足止めされるのも悪くないと思っていますよ」

「? どうして?」

「それだけワカナと長く一緒にいられますから」


 ふっと笑っているような気配がして体が引き寄せられる。

 爽やかな香りがして私はジェスの胸の中にいた。


 背中が優しくさすられる。


「とりあえずワカナは早く良くなってくださいね?」

「うん……」


 ジェスに優しくされても、事実は消えない。

 私は泣きたくなるのを堪えて、ぎゅっとジェスにしがみついた……。



 前の話に誤字発見、後でこっそ~り直しておかなければ・・・。

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